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さようなら、ちゃんこ鍋の「吉葉」

「両国 ちゃんこ鍋」で検索すると必ず上位に上がってくる有名店に「割烹 吉葉(よしば)」と言う名店があります。旧宮城野部屋をそのまま改装して稽古土俵もそのままになっており、その周りでお食事して頂ける、他にはない雰囲気のお店です。このお店が2024年5月末に閉店すると知ったのは5月頭の事でした。

実はこのお店には大変お世話になりまして、2008年〜2015年の長期に亘って毎週2回火曜木曜、夜のショータイムを担当しておりました。バルーンの芸人さんと2人、和装で主に懐メロや和物を弾く出し物は毎回試行錯誤を繰り返しつつ、お店とお客様に育てて頂いた掛け替えのない時間でした。そして、多くの出会いも頂き、中には今も御贔屓くださり「はぢめさん、ご飯行きましょう!」と誘ってくださるお客様もいらっしゃいます(「当たり前の事だから」とポチ袋に包んだ車代を去り際にさらりと渡して「どうもありがとう。またね!」と家路に着く粋なお客様です)本当にありがたい事です。

当時のいでたち。もう左手がこの高さまで上がりませんw

建物はタニマチだった材木商が建てたものだそうで、見上げれば太くて立派な梁が縦横に組まれた、高い天井が気持ち良く広々とした空間です。個室や二階の座敷もあって、忘年会シーズンなどそれはそれは賑やかなお店。国技館での場所中は毎晩相撲甚句も楽しめる趣向がありました。ワイワイ賑わうお店の玄関先からワァッ!と歓声が上がるので何かと振り向くと、白鵬関や朝青龍関が手を振りながら個室へ通って行く事もありました。個室へ呼ばれて行ったら、舞の海秀平さんのお席だった事もありました。お相撲に所縁が深いお店に出演させて頂いていた時ならではの経験もさせて頂きました。

お店のシンボル「稽古土俵」の名残。この夜は、
津軽三味線の北村姉妹に続いて相撲甚句が披露されました

5月の中頃、5月場所中に先の御贔屓様にお誘いを受けて「お別れ」に行って来ました。変わらぬ顔で「いらっしゃい、安西さん。元気でしたか?久しぶりですね!」と代わる代わる声を掛けてくれる従業員の方々のお顔に懐かしさ一杯。今も毎晩多くのお客様がお食事をされていて、閉店の公式発表以来たくさんの方に「もったいない!」「なんで?」と惜しまれているようですが、コロナ前ほど賑わう事がなくなってしまったのが原因の一つのようで、これから先にはちゃんこ料理屋の閑散期、暑い夏が来る事を思うと確かに難しい季節が目の前に迫っているのかもしれないと思いました(出演していた頃も、真夏だと広いお店にお客様数組の日もありました)

ここでの思い出は数々ありますが、個人的に忘れられないのは、ある年のお正月のこと。神棚に手を合わせてから稽古土俵に上がらせてもらう事にしていたのですが、神棚を奉じてから必ず通る道のテーブルに、大学卒業後勤めていた会社のお偉いさん方が座っているではありませんか!そこには天津駐在時代に散々迷惑をかけた直属の先輩社員さんの顔もありました。若い頃だったら身の置き所がなく、弱り切っていたかもしれませんが、その時の私は「○○先輩!ご無沙汰しています。今日はようこそいらっしゃいました。今はこれこれこういう仕事をしています。あの頃は給料分働かないのに生意気ばかり言ってすみませんでした。ご縁あってこうしてお目にかかれて嬉しいです。どうぞお食事をお楽しみください!」と、実に20年ぶりの突然の再会に、きちんとご挨拶ができました。「吉葉」は、そんなチャンスをくれた奇跡の場所でもあった訳です。

最後に何百回も立った場所からの眺めを目に納めて感無量でした

短い時間に色々な事を思い出して胸が一杯になった食事時間もアッという間に過ぎ、つくづく「いつもある」という「当たり前」は幻想なのだと思いました。本当に感謝と思い出、そしてたくさんの学びを頂きました。

さようなら、吉葉。どうもありがとうございました。

スタッフさんや共演者さんとラストショット。
本当にどうもありがとうございました!

いつも温かいサポートをどうもありがとうございます。お陰様で音楽活動を続けられます!