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神様って見守ってくれてるんだな

「アコーディオンの音色は人を幸せにする」安西はぢめです。私は2004年〜2012年の間、東京都の公認大道芸「ヘブンアーティスト」のライセンス保持者でした。一時期は月に20日近く道に立って家賃を稼いでいた頃もあります。今日は数多い思い出の一つをお届けします。

思い出の大江戸線上野御徒町駅構内

私が特によくお世話になっていたポイントの一つに大江戸線上野御徒町駅構内がありました。先日久しぶりに通ったら「ヘブンアーティスト公演場所」というサインが外されていたので、もしかしたら今は違うのかも知れません。ここは音の響きが素敵で、大好きなスポットでした。それはお客様も同じようで「パリの地下鉄にいるみたい!」と懐かしげに話しかけて来る人もいるくらいメトロとアコーディオンはイメージがリンクしやすいのかも知れません(ちなみにパリの地下鉄構内で弾いている人はオーディションに受かった「正規」の人で、車内に乗り込んで弾いている人たちは「モグリ」とか「ゲリラ」の皆さんです。パリのメトロの話は他の機会に書きますね)

さて、楽器を使った大道芸の難しいところは幾つかありますが、一つには「誰が聴いてくれている人か分からない」と言う事ですもちろんある程度は聴いている人か、そうじゃない人か察して弾いてますが、ここは特に音が遠くまで響きますから離れたところで興味なさそうにしていた人がお金を入れて去って行くこともあります。この地下通路はL字型のポイントで、左側は壁(券売機が並んでる)、右側は遠くまで見通せる遮蔽物のない長い地下道が続いていました。時にはちょっと離れた壁にもたれかかって目を瞑って聴いてくださる方も良く見通せるようなロケーションで、今でも時々立ちたくなる思い出の多い場所です。

【ファーストCDの一曲目「パリのメトロ」】をどうぞ↓

「時間いっぱい弾き続ける」と言うマイルール

私は道に出る時に幾つか自分ルールを決めていました。その一つが「受け持ち時間内は弾き続ける」と言うことです。ジャグリングやアクロバット、マジックなどのショーだったら、人を集めて前口上をして、その間にもどんどん人を寄せて、良きタイミングから10〜15分くらいの本編をやって、その後に投げ銭タイムがある。それを3セットやったら持ち時間が終わる…と言った流れを作るのですが、演奏だけをする大道芸の場合はそのスタイルを使うのが難しいのです。先ほど書いたように、離れた場所で耳だけをこちらに向けている方もいるので、必ずしも人を集める必要はないし(もちろん人垣ができたらそれはそれで盛り上がりますが、アプローチは変わって来ます。ゲストに参加させたり、みんなで手拍子や掛け声をかけてもらう「ネタ」がある人だったら逆に人がいないと難しかったりしますが)、特に楽屋がある訳でもないので、どこからでも見られている時に楽器を下ろした姿をあまり見せたくなかったのもあります。また、弾いていない時に通り過ぎてしまう人がいたら何をしているのかも伝わらずもったいないので、試行錯誤の末、私は街の音になる積もりで弾き続けることにしていました。これは長々と立ち話しをしたがる人をシャットアウトする効果もあって一挙両得でした。芸人に自分の意見を言って悦に入る人はどの界隈にもいますが、時間との勝負をしている時には本当に勘弁して欲しいものです。作品を買う訳でもなくギャラリーで蘊蓄を垂れ続ける人くらい迷惑で困っちゃいます。

音楽系の大道芸の難しさ

もうひとつ、「演奏」を大道芸にした時に難しいことの一つが「お客様がどんな音楽が好きか分からない」と言うことです。アコーディオンで演歌を聴きたい人と、アコーディオンでクラシックの有名な曲を弾いて欲しい人ではニーズが違い過ぎます。その上で投げ銭をもらうと言うのはなかなかにハードルが高いと想像していただけるのではないでしょうか。

なので、私がストリートに出る時は、基本的に自分の得意なフランス物だけを弾いていました。それを聴いて欲しかったですし、何より私が一番好きなものが心が籠って一番聴く人の心に届くと信じています(余談ですがある日、何人もの人が集まって聴いてくれている時に、千円札を先に入れて懐メロをリクエストした人がいたので、リクエストに応えてそれを弾き始めると、フランスムードに浸っていた人たちが全員立ち去ってしまったこともあります。なので「なんでも弾ける」は諸刃の剣です。場のコントロールの主導権を自分がきちんと持っていないといけないと言う勉強になりました)

その日もいつものように弾き始めたのですが、まったく投げ銭が入りません。その時は本当にお金に困って追い詰められていて、精神的にも焦っていたと思います。けれども弾いている間は自らの救いの時間でもありますから、美しい曲の力、アコーディオンの音色の力を借りて心はパリに遊びました。一体どのくらい弾き続けたでしょうか。

小走りで近付いて来た人

その日使っていたアコーディオンは12キロ近い重さ。まだ今より若かったとはいえ1時間近く立ったまま弾き続けるとなると流石に「修行」と言った趣です。相変わらずまだお金は入りません。そんな時に遠くから小走りで向かって来る人に気が付きました。視界の隅にぼんやりと映る人影を「きっと電車に乗りたくて急いでいる人なのだろう」としか思っていませんでした。ところが、私の目の前まで来た時にサッとしゃがんで投げ銭箱にお金を入れて行くではありませんか。あまりに突然の出来事にびっくりしてしまい思考が一瞬止まりましたが、ハッと我に返って見てみると投げ銭箱にポツンと一万円札が置いてありました。軽いパニックになり、楽器を肩から下ろして

「ま、待って!お、お釣り〜!!」

と叫びながら慌てて後を追いかけましたが、影も形も見えません。ツバの広い帽子を被っていたのでお顔も判りません。全体的に黒っぽいお召し物だったなと言うことだけぼんやり覚えています。

受け持ちの時間がまだ残っていましたので、その後また楽器を背負い直して弾き始めたら、突然「神様っているんだな」と感謝が湧いて涙がポロポロ出て来ました。自分で決めた事とは言え、誰も聴いていなくても弾き続けていたのを聴いていて、人の形、お金の形で励まして下さったのかなと思いました。私は特に信仰はありませんが「神様」は色々な形で存在するのだと、この時少しだけ感じられたと言うお話しでした。

だから今、貴方が大切にしている事があるのならば、ぜひそれを地道に続けて行けば良いのではないかと心の底から思います。安心してください、貴方は絶対に護られていますから。

ハッピーアコーディオン安西はぢめ

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【思い出の場所。丁度黄色い柵と広報誌の乗ったワゴンがある辺りでよく弾かせてもらってました】

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