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家事・育児分担の不公平感【論文】

夫婦それぞれの家事に従事する時間にまつわる、最新の調査が発表されました。妻は平日には4時間、休日には5時間を超える家事に取り組んでいる一方で、夫は妻の1/5ほどの時間の家事に従事していると示されました。

国立社会保障・人口問題研究所, 2023, 『2022年社会保障・⼈⼝問題基本調査 第7回全国家庭動向調査 結果の概要』,
https://www.ipss.go.jp/ps-katei/j/NSFJ7/Kohyo/keteidoukou7_gaiyou_20230822.pdf

男女平等と共同参画が謳われるなか、この結果はどう捉えられるでしょうか。それぞれの夫婦にはそれぞれの都合があります。2人で話し合ったことから、当然そうだと思っていること、あるいは渋々そうせざるを得ないこともあるでしょう。この統計はあくまでも実態であって、時間的な分配にまつわる〈そうしなければならない〉ことを示唆するものではありません。
わたしは、このような家庭における家事(や育児)分担において、そうあるべきことを説くのはあまりに無責任だという立場です。しかし、〈やるべき家事を分かち合っている2人が、共にその分担について納得している〉ことは唯一かつ重要な前提だと考えています。そして、その指標は「(不)公平感(perceptions of the fairness/infairness)」という言葉で、社会学やジェンダー研究をはじめ、多くの文脈で論じられてきました。

さて、執筆から長らく時間がかかりましたが、インタビュー対象者の同意を得て、論文を公開します。「育児アプリケーション導入世帯における母親の育児分担への不公平感の検討」というタイトルです。この論文は、2020年度の「FOI ジェンダー・セクシュアリティ研究レインボー賞」を受賞しました。BabyTechという最先端の社会現象に着目し、それらを用いている家庭(妻)にインタビューを行い、先に述べた不公平感がどのように変化しているかを明らかにするものです。不公平感にまつわる日本語・英語論文を網羅的にまとめ、主要な理論の関係を改めて整理しているため、興味があれば引用元の論文や書籍にあたることもおすすめです。

参考文献といえば、特に面白かったのが、ルース・シュウォーツ・コーワン著(高橋雄造訳)の『お母さんは忙しくなるばかり 家事労働とテクノロジーの社会史』です。

話題の小説や人気の雑誌と違って入手しづらいのが残念ですが、少しでも興味があれば読んでいただきたい。手を尽くしても読めそうになかったら、なんなら貸すしさ。

また、この論文は、「論文なんて全く読まない!」という人にもおすすめです。手前味噌ですが、論文としてはかなり読みやすく書いたつもりですので、気軽に読めると思います。個人の感想ですが。なんなら最後に要約もつけたので、それだけ読んでください。

ところで、どうして公開に至ったかというと、少し前にこんな記事を書いたからです。

要するに、「あれこれやってみる」のうちのひとつです。過去の論文を公開することが、何になるかはわからないけれどもね。先に述べましたが、本論文の公開に際し、インタビュー対象者の同意を改めてとりました。論文掲載の同意はもちろん取れていましたが、当初想定していないプラットフォームでの公開になりますから、改めて断りをいれました。

お子さんがぐずってインタビューを中断し、予定の倍近くの時間がかかったこともありました。あるいは、直前でお子さんが熱を出して急遽日程が変わるとこもありました。わたしには姉がいて、もうすぐ1歳になる甥がいます。子どもを育てることはあまりにも大変で、あまりにも偉大なことだということを、今になってより感じています。よそ者のインタビューなんかに付き合っている暇なんて、本当はなかったのでしょう。それにもかかわらず、快く引き受けていただいたインタビュイーのみなさまに心からの感謝をしています。インタビュー当時、わたしが学生だったこともあって、対象者にはほんの少ししか謝礼を支払えなかったことが心残りでした。今回の公開にあたり、インタビュイーおよびそのお子様へ贈り物をいたしました。お子様の健やかな成長と公平感にあふれた家庭の運営を切に願っています。

ところで、知はひけらかさず、されど開かれるべきであると、信じています。だからこそ、論文はオープンソースでありたい(手軽にアクセスできるようにしたい)のですが、論文は往々にして書くのも読むのもお金がかかります。正直にいえば、学部で書いた論文にいくらかでも値段(価値ではなく)をつけることに気は進まないですが、とはいえ単に公開するものなんか違うなと。
というわけで、プラットフォームにおける最低限の値段設定で公開します。およそ30000文字なので、文字単価にすると0.003円ですね。ほぼ無料じゃん。さらに、わたしの基本的な創作活動の方針に則り、収益の8割は子ども食堂や奨学のための支援・寄付に用いられます。2割は、こんな暑さですから、僕がアイスでも食べます。全額寄付しちゃうと、創作のモチベーションがなくなっちゃう感じがしてるんで、みみっちくてすみませんね。ただ、もし余裕がないという場合は、個人的にメッセージをいただければプレゼントいたします。最近読んで面白かった本とか、最近手に入れた雑学とか、代わりに教えてください。

【追記】

明治エッセルスーパーカップ ミニサイズ6個入りの画像
アイスを買いました。ミニサイズがちょうどいいんですよね。

育児アプリケーション導入世帯における母親の育児分担への不公平感の検討

A Study on the Perceptions of Fairness of the Division of Childcare in Households Using Childcare Applications

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