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「意味のイノベーション」から色々と発展してきたこと。

ミラノでの隔離生活がはじまり1か月以上が経ち、2日前の首相令によると、この生活は少なくても5月3日までは続くことになりました。その生活のなかで、ぼくはエツィオ・マンズィーニの Politics of the Everyday という本を翻訳しています。彼はソーシャル・イノベーションの世界での第一人者ですが、彼が昨年出版した本です。

昨年の夏頃から、時間をちょこちょこと見つけては訳していたのですが、隔離生活を余儀なくされたため、翻訳作業には絶好の環境ができたのです。翻訳というのは、あるテーマに没頭するには適当な作業です。しかも、この本は、これからぼくたちが立ち向かう世界を考えるにあたって、多くの示唆を与えてくれます。以下は、その冒頭の一部です。

大昔のことだ。私は1枚の写真に衝撃を受けた。無数の星と銀河が写し出されていて、矢印があり、白い点を指している。そこに「君はここだ」と記されている。その時、この写真は私に何か大切なことを語りかけてくれた。だが、子ども心にはよく分からなかった。今は少しマシに理解できると思う。
私たち人類は大きな宇宙のどこかにいて、とてつもなく複雑な状況におかれている、と。だが、一方で私たちはここにいるのだ。そして私たちの立っている場所から、たまたま私たちがいる宇宙の一地点から、動き考え、そして私たちを取り囲むものを変えていく。私たちはこうして生きている。

自分の内からはじまり、私たちのいる場所からはじまるという考え方は、いかんともしがたい欧州文化に根強い人間中心主義の表現ではない。逆だ。人間の限界を心底認めているのである。何を考えやろうとも、自分たちの居場所からしか私たちは考えざるをえないのだし、動かざるをえない。

この見方や世界での行動とは、私からすれば「ハイパーローカル」である。この文脈では接頭語「ハイパー(hyper)」は、2つの意味をもっている。
1つはあきらかにローカルどっぷりの何かであるとの意味の「どっぷり」だ。もう1つは、かつて経験したことのない「境界の少ないローカル」とでも表現すべきものだ。私たちは遠隔から事情を掴みながら動けるという意味で「境界が少ない」が、私たちが立っているところからだけという意味で「ローカル」である。

ライフプロジェクトの性質と政治的感覚を議論するために、本書では日々の暮らしを起点とする、このローカルの見方を前提とする。この考察のために、私たちが認識しなければいけないことがある。それは世界の複雑性であり、私たちが考えることの相対性である。世界の複雑性を泳ぎ切ろうと努め、それがもつ限界を含めて受け入れることだ。

「ハイパーローカル」というのは、かなり魅力的な言葉です。彼は、この言葉の中身を具体的に本のなかで書いているのですが、ローカルとは物理的な距離の限界ではなく、人の活動の「広がり」の限界である、といったことを言っています。ネガティブに閉鎖性を批判しているのではなく、人が受け入れるべき現実として指摘しているわけです。そして、彼は、そのローカルでサスティナブルな社会的価値をつくる意義とアプローチを論じています。

こういうテーマを翻訳を通じて考えながら、2月に出した『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』の延長線上としての21世紀におけるラグジュアリーの新しい意味や、ベルガンティと進めているイノベーション・リーダーシップについて思考を膨らませているところです(実を言えば、マンズィーニの本を訳そうと思ったのは、ベルガンティの意味のイノベーションを多くの人に説明しているうちに、ベルガンティが大きく影響を受けているマンズィーニの思想も知ってもらった方が良いと判断したからです)。

その一端を紹介しているのが、Takramの渡邊康太郎さんと先月中旬に話した以下のポドキャストです。45分くらいの予定が1時間半になってしまい、3回に分けてアップしていただきました。1回目が、ぼくの隔離生活での感想(それから1か月経た今では、少々見方や気持ちは変わってきています)と、渡邉さんの本『コンテクストデザイン』に関する、ぼく自身の「誤読」について話しました。2月初めに東京からミラノに戻るなかで、この本を読んだとき、ぼくが長くやってきたローカリゼーションマップとの絡みで読んだ。しかし、この対談の前夜に再読したとき、まったく別の観点から読んでしまったという経験です。

2回目は、意味のイノベーションと拙著をテーマにしており、ここで何故、ぼくが、この本を書く気になったのかに触れています。

そして最後のパートがラグジュアリーの新しい意味です。セラミックをアートとするか、クラフトとするか、こういう区別についても話しています。

今日、4月11日もミラノは晴天です。

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