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ベイグラントストーリーをようやくクリアした。

 人々にベイグラントストーリーをラーニングさせたい。
 ※以下、感想や解説など。


人類史に残る名作

 先日、ゲームのサウンドトラックでも5本の指に入るベイグラントストーリーのサウンドトラックを聴きながら通勤していた僕は、あらためてベイグラントストーリーをプレイしたくなった。気が向くたびにサウンドトラックは聴いていたはずなのに、なぜか急にプレイしたくなった。僕は以前このゲームをプレイしていたけれど、途中で止まったままだった。10年ぶりぐらいにそろそろ続きを再開するか、と思った。

 2013年の時点で僕は止まっていた。それ以降もベイグラントストーリーに関するツイートはあるが、サントラが素晴らしい話ばかりだ。

 そしてこのたびようやくクリアした。
 結論から言うと、人類史に残る名作だった。プレステのゲームでもトップクラスの作品だと思った。プレステの名作にメタルギアソリッドというのがあるが、あれと肩を並べるレベルだと思った。そして、ベイグラントストーリーはメタルギアソリッドに影響を受けて作品の方向性とかが作られていったらしい。
 ファミ通クロスレビュー40点なんて過大評価だと思っていたけれど、あらためてプレイして40点は納得だった。意外と信用できる点数だった。

音楽

 まず、外せないのはやはり音楽である。ディレクターが松野泰己なら、当然コンポーザーは崎元仁である。代表作はもちろん各種松野ゲー(『タクティクスオウガ』『ファイナルファンタジータクティクス』等)。やはり何度聴いてもかっこいいし、作品を盛り上げるには欠かせない存在。上にも書いたが個人的なゲームのサウンドトラック史上ベスト5に入る作品だ。ところどこのおなじみの崎元節が展開される安心感がある。弦楽器を中心とした曲たちはベイグラントストーリーの作品世界にあまりにもマッチしすぎている。魔都レアモンデの空気感を伝えないといけないので、コミカルな曲は一切ない。印象的にハープの音を多用して、それが幻想的な世界観を伝えている。戦闘では金管が緊張感を煽る。ゲームの音楽ではあるんだけれど、映画を観ているみたいな感覚に陥ってとにかく素晴らしいの一言に尽きる。

戦闘システム

 各種特徴的なシステムについて。これはたぶん人を選ぶ。ハマる人はハマる。シミュレーションゲームが好きな人はのめり込む。ここを理解できないとつまずくし難しく感じて挫折してしまう。

――チェイン

 戦闘で特徴的なのはチェインシステムで、こちらが武器で攻撃した際にタイミングよく任意のボタンを押せばそのボタンに割り当てた追加攻撃ができる。要するにリズムゲーである。うまくチェインをつなげればひたすら連続攻撃で相手に一切何もさせずに倒すことも可能である。……でもそれだけじゃないのがこのゲームの奥の深いところで、チェインを続けるとリスクが高くなる。リスクの値が上昇すると攻撃の命中率は下がるし敵からのダメージも増える。代わりにこちらのクリティカルヒットの確率は上がる。
 このチェインアビリティを使いこなすまでが難しい。(自分の最大HP-現在HP)の20%をダメージとして与える(例えば最大HPが300で現在HPが200なら20のダメージ)ものがあるが、これは最初から最後までお世話になる。しかしもちろんハイリスク(パラメータとしてのリスクに非ず)な技である。敵の攻撃で大ダメージを負ったときこそ大ダメージを与えるチャンスなわけだが、回復する前にまた敵の追撃を受けると死ぬ可能性が高い。なのでタイミングをしっかり考えないといけない。
 ○△□にそれぞれチェインアビリティを設定できる(連続で同じボタンのアビリティは使用できない)がこれをしっかり考える攻略の楽しみがある。
 戦闘の楽しみはこれだけではない。

――武器

 このゲームには多くの武器があって、それぞれ武器に細かくパラメータが設定されてある。
 まず種族。これはヒューマン/ビースト/アンデッド/ファントム/ドラゴン/イービルの6種ある。敵にはそれぞれ種族があるのでそれに合った武器を選びたい。
 そして属性。これは物理/風/火/土/水/神聖/暗黒の7種ある。火の敵には水属性で攻撃したい。
 最後に、武器タイプ。これは打撃/切断/貫通の3種ある。これも敵によって効きやすい効きにくいがある。
 それらを考慮して敵と対峙したときにどの武器を装備するか考えないといけない。戦闘がかなりじっくりと戦略的である。これをめんどくさいと思うかよくできていて面白いととるかでこのゲームの評価は大きく変わると思う。僕も以前は前者だった。けれどあらためてプレイして後者の楽しみに気づいてしまった。本当によくできている。パラメータはあくまで数字でしか無いけれど、それだけで奥深い戦略性を生み出すことに成功している。
 しかも武器はティファール製なので、ブレードとグリップに分けることができて違うものと組み合わせることができる。そしてブレード、シールド、アーマーはそれぞれ合成することができて、これを理解するにはアルティマニア必須だと言われている。僕は1周目はよっぽど詰まった場合でないかぎり攻略本を見ないでクリアしたいタイプなので、あまり合成には手を出さなかった。というか出せなかった。でもそれは更に奥深いシステムでハマる人は更にハマっていく。

――成長

 このゲームでは基本的に主人公は成長しない。ボスを倒したあとのボーナスやドラクエで言うところの種に当たるアイテムでの成長はあるけれど、それ以外では主人公のパラメータに変更はない。
 このゲームで成長するのは武器や防具なのだ。
 例えば、ヒューマンに分類される敵を攻撃すると装備している武器のヒューマンのパラメータが増加する。そしてその下2つの種族(ビーストとアンデッド)のパラメータが減少する(ことがある)。そのようにして同じ武器で同じ種族の敵を倒しまくるとその種族に特化した武器に成長する。属性も同じ。だからそのへんも考えて戦闘をしなければならない。敵によって武器を持ち替えたほうがめんどくさいけれど結果的に効率的なプレイにつながる。僕は最初そんなこと何もわからずに適当にプレイしていた。でもいつの間にかそのシステムに気づいていて、敵ごとに武器を持ち替えていた。10年ぶりに再開して武器を見たらきちんと武器ごとに育てていて感動した。ただ、下2つの種族の値が下がることに気づいていなかったので、ドラゴンとヒューマンの値が高い武器があった。ドラゴンの下2つはイービルとヒューマンなので、この武器でドラゴンと戦うとヒューマンの値が下がるので組み合わせとしては良くない。でもそういうことに気づく、ゲームを理解する楽しみはあるよね。失敗から学んでいってゲームが上達する。それが醍醐味でもある。
 主人公は成長しないけれどプレイヤーは成長するのだ。なので苦戦した敵にも戦略を練ることで楽に倒せるようになったりもする。

――その他

 主人公と敵には全体のHPと各部位(頭や右腕等)のHPが設定してある。足ばかりを攻撃すれば敵の移動能力を下げることができる。頭を狙えば魔法を使えなくさせることができるといった効果がある。
 また、武器には攻撃範囲があって、ダガーなら近距離、ボウガンなら遠くの敵を狙える(けど両手武器の場合は盾を装備できない)ということも考慮に入れて戦闘は設計されている。
 それらシミュレーションゲーム的な要素が強い。そういう現実に即した戦闘システムの設計は個人的にはかなり好きだ。

 各種戦闘システムを理解していくのは楽しいものである。僕は複雑で一見難解なシステムのゲームは好きだ。よくできているなと感心してしまうし、それを理解し使いこなしていく喜びがある。

ゲームジャンル

 このゲームのジャンルはよくわからない。ロールプレイングアドベンチャーとソフトの裏には書いてある。
 ダンジョンを進んでいくアドベンチャー的要素もあれば、戦闘はシミュレーションやリズムゲーの要素もある。そして成長や武器の合成や組み立てはRPG的だし、動く床に乗ったり穴を飛び越えたり高さのあるところをよじ登ったりするのはアクションゲーム的だ。また、たびたび現れる倉庫番の部屋はパズルゲームだった。
 スクエアだしRPG的要素が強いと勝手に思い込んでいたけれど、そうとも言い切れない。
 そして僕は思ったことがある。
 当時のRPGだと戦闘に入ると戦闘画面に移行して戦うのが主流だった。アクションRPGではそこまで複雑に戦闘を設計するのは難しかっただろう。でもこのゲームはそれを実現している。そのためには同じフロアに敵を大量に出すことは不可能だった。プレイステーションでは。なのでこのゲームは一部屋一部屋区切られているのだと気づいた。後に松野泰己はFF12に関わることになるが、12はそれまでのFF(11は除く)とは違ってフィールドでシームレスに戦闘に移行する設計になっていた。それはプレイステーション2だから、同時に多くのオブジェクトを同じ画面に映して動かすことができたのだ。それはこのベイグラントストーリーの戦闘の発展型とも言えるのではないか。FF12のようにしたくてもプレイステーションでは厳しいのでフロアごとを分けてゲームを設計していったのではないか。そこから洞窟や廃坑や地下街といった部屋ごとに区切りやすい舞台を用意してシナリオを作っていったのではないか。もちろん逆に、狭い空間を舞台にしたからこういう戦闘システムにしよう、となった可能性もあるけれど。
 それはともかく、このゲームのジャンルは一言では言い表せない。ベイグラントストーリーはベイグラントストーリーであるとしか言えない。そこが魅力だった。

グラフィック

 世間的に何より評価が高いのがグラフィックである。プレイステーション末期の作品なので、プレイステーションの限界に挑戦している。全編フルポリゴンでイベントシーンからシームレスに戦闘に移行する。
 当時のスクエアならFF9のムービーシーンなんかはきれいすぎて、プレイステーションのCDに収まるのかと恐れおののくレベルだったけれど、あれはプリレンダリングとかいうやつで、要するに予め作っておいたものを再生しているに過ぎない。ベイグラントストーリーではあえてそれはしない(デモ画面のムービー等では見られるが)で、全てをリアルタイムCGで描写している。今見るともちろんギザギザなのが気になるけれど(たぶんブラウン管で見たら印象も変わる)、冷静に考えてベイグラントストーリースタイルのゲームのほうが少なかった。背景は2Dでキャラクタだけ3Dというのが当時は主流だった。
 この手法で描かれるベイグラントストーリーはキャラクタの表情が豊かで、ここまで表現できるのかと評価が高い。昨今のゲームでは現実と区別がつかないレベルになっているけれど、この時代にこのグラフィックを作ったのは失われた技術なのだと思ってしまう。しかしそれはこの業界の常でもある。今の技術で意図的に同じように作ることはおそらく容易だろうが、それを当時の技術で考え出して生み出してしまったのはすごい。そしてそれはプレイステーションで開発したからであって、もはやそんな時代は過ぎ去ってしまっているし日々技術は進歩するから同じことにはならない。ファミコン時代には同時に3音しか出せないという制約のなかで制作していたから生まれた技法があるはずなのと同じことだ。
 あと、演出面も映画的で面白くて、フルポリゴンだから、遠景からカメラがズームしてそのまま戦闘に移行したりということも可能になっている。一旦カットが入るということはない。演出面でのカメラワークの面白さもあるし、プレイヤー自身で主観視点に切り替えができて部屋の中を調べることができるのも面白い。プレイステーションのゲームでは珍しい気がする。それだけその技術に自信があったんだろうと思う。

ストーリー

 ストーリーは松野ゲーの例に漏れず最高だった。松野泰己がすべてのテキストを書いたりシナリオを作ったのかはわからないが、僕は彼のチームが作るゲームのストーリーが好きだ。今回もまた、複雑な人間関係、組織の対立、それぞれの思惑、そういったものが絡まり合う。メインの登場人物は少ないけれど、関係を把握できないとストーリーを理解できない。オープニングを見ただけでは僕は何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。しかも松野ゲーではよく裏切りが発生するのでこいつは敵なのか味方なのかと疑ってしまうし、向こうの組織の思惑とは別に個人の思惑で動いていたりして、更にややこしいことになってくる。さらには主人公の過去の話とかでてきて、そこにレアモンデの魔がどうたらこうたらとかが出てきて、これは偽りの記憶? と戸惑うからプレイヤーも戸惑う。
 でも僕はややこしいストーリーのほうが好きだ。徐々に関係を理解していく感覚に興奮する。理解できなかったところは2周めであらためて理解したりすることもできる。より深く世界観や物語を理解する上で周回プレイ前提の作りは賢いやり方だと思った。2周めではシステムを理解しているのでサクサク進むだろうし、2周めから解禁される要素もあるので更に楽しめる。というか2周めからが本番みたいなことがネットでは言われている。また落ち着いたらします。

 10年ぶりにプレイして歴史に残る名作だと気づけてよかった。
 サウンドトラックを聴きながら、まだプレイしていないなと思う作品は他にもあって、それはパラサイト・イヴっていうんだけどまたプレイステーションのゲームだ。なので次にするプレイステーションのゲームはパラサイト・イヴだと思います。
 次がいつなのかは知らない。

 今だとゲームアーカイブスでプレイするのがプレイしやすいのかもしれない。僕は実機派だけれど。実機だとメモリーカード3ブロック使うのが痛い。

 終

もっと本が読みたい。