孤独ぶりたがりのティーンエイジャーとは違う

江國香織を読むとかならず思い出す時間がある。

高校の相談室は中庭に面していて、昼どきを過ぎるとあたたかいひかりで充ち満ちる。窓際にはよく沈むソファがおいてあって、そこでスリッパを脱いで脚を抱えて、毛布にくるまりながらまどろむのが好きだった。
授業についていくことを早々に諦めたわたしは、そうやって毎日のように授業をさぼっていた。時にはiPodを持ち込んで音楽を聴いた。ちいさい本棚があって、そこに置いてある本もいくつか手にとってみたりした。その中に江國香織の『冷静と情熱のあいだ』があった。自分の脳内から、読んだことばが溢れ出る感覚。違う世界に浮遊するような感覚。わたしみたいな人間にとって読書は、あまりに中毒的だった。
今でも、江國香織の言葉を吸い込んでいくたび、それを読んだのはやわらかい陽射しが差し込む相談室だったことを思い出すのだ。

「きみに必要なのはきみを認めてくれる人で、それは友達だったり彼氏だったりするんだよ」と高校時代の恩師に言われたことも今でも鮮明に思い出せる。社会科準備室。結局のところ、わたしを認めてくれる人ってなんだったのだろう。そういう名前のつく関係ってなんなのだろう。23歳になったのに、まだ人間関係は知らないことばかりでめまいがしそうだった。わからないことが多すぎる。

『きらきらひかる』を読んだら、そんなことを思い出せた。好きな人間に本をあげるのって愛だよねと話したひとから貰った本。ぜんぶまぎれもなく愛。わからないことばかりだけど、この感情だけは知っていた。

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