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【短編小説】死してなお制度
気がついたら横になってて、でも私の目は開けようとしなくて、どこからか焦っているような声だけ聞こえて、身体中が溶けて切れていくように痛くて....。
意識を取り戻し声が出たのは二日後のこと。
「....りょ.....く」
「!!!!.....ミチ!!??俺だよ!!!」
そうだ...私の最愛の夫、亮君の声だ...。
状況を理解してない私に早口ながらも事を教えてくれた。どうやら私は仕事から帰宅途中に飲酒運転の事故に巻き込まれ、15mほど引き摺られたらしい。当たりがよかったか外見にあまり傷が見られない。だが圧迫により肋骨は複雑骨折をし、肺などの臓器は原型を留めることなくぐちゃぐちゃになっていて...。
「もう...ミチに会えないかと...」
こんなに呼吸するのが苦しいのはそういうことなんだ。もうそんなに長く生きられないのか。
再び眠りにつくと全身に掛けられていた錘が急になくなり、私は死んだ。
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夫の亮とミチは同じ高校のクラスメイト。
最初は意識してなかったが共通の話題で盛り上がり、いつの間にか付き合うことになった。
二人の関係は続き、地元から通える大学に進学し就職先もスムーズに決まり、そのまま同棲からの結婚まであっという間だった。
二人でいることは楽しくもあり楽であり不自由などない。何をするにもこの人がいい、ミチにとって亮はかけがえのない存在だった。
なのに...
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『14股してますね』
「まじかー」
ミチは膝から崩れ落ち頭を抱えてしまった。
ここは【天界】という名の天国。想像していた死後の世界はあまりにも想像通りで、雲の上を自由に行き来でき、一人一人に大きいモニターが与えられ地上の様子を見ることが出来る。
ミチは普段の行いが良かったおかげで【転生】か【現世を彷徨う】を選べた。もちろんすぐにでも転生して亮に会いたいミチだったか、ミチが亡くなってから亮は女遊びをはじめ、酒に溺れる日々を過ごしていた。
「天使さん...私どうしたら...」
『あなたにベッタリだった分、反動で女に手をつけてしまったのでしょう。そういうのは男女共に多いですよ』
ミチの担当についた天使は、顔立ちがいい若そうな女性の天使だった。落ち込むミチを慰めることなく事実をハッキリ言う天使はこう続けた。
『今転生しても必ず出会えるわけでもないし、あっちがあなたを好きになるとは限りませんよ〜。あと幽霊として近くにいるのも嫌でしょ?【記憶を消して生まれ変わる】のでもいいですけど』
ミチ以外の女性と遊ぶ亮は誰が見ても楽しそうで、妻が亡くなったことに対して吹っ切れたようにも見える。ミチが今まで亮に抱いていた愛情はすぐに怒りへと変わった。
「あいつに...転生以外で復讐できるのはないんですか!?」
『あ~それなら今月から改正された【死してなお制度】がいいかもですね』
※【死してなお制度】
死人は現世にいる誰か一人を一生涯幸福or不幸にすることができる。それを解除することは出来ない。
「私は何もデメリットはないの?」
『デメリットは「解除が出来ない」っていうのと「受けた者はたまに死人を思い出す」ぐらいですよ」
ミチは渡されたタブレットのようなもので制度の注意事項を読んだ。「死してなお」というのは自分を思い出してもらうことから来ていて、この制度はいい意味でも悪い意味でも「呪い」といったところだろう。好きな彼にはいつまでも幸せでいてほしいと思いたいところだが...。
「私には亮だけだったの...仮に亮が亡くなったとしても他の男に目移りなんかしない。...決めた!」
【亮はずっと私のことを思っていてほしい】
数時間後、亮は何かに取り憑かれたように関係を持っていた女性たちに「もう関わらないでほしい」と連絡し始めた。
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それからの亮の落ちっぷりは異常だった。
鬱状態に仕事を辞め、一日中部屋で泣き喚く。自傷行為も何度かしたが「ミチが悲しむ」と頭に過ぎり、なかなか死ねないことにまた悩まされた。
「俺が悪かったんだ...ミチは大切な人なのに...なんで...っ」
二人で選んだソファーやテーブル、愛を誓った結婚指輪。目に入るもの全てにそこにミチいるように感じ、唾を飲み込むだけでも一苦労だった。
学生時代の思い出も社会人になってから過ごした日々も記憶だけでしかない。
「ミチ...ごめんよ...帰ってきてくれ...」
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「やっぱり解除してください!こんな亮見たくない!!」
『それは出来ないって言ってるでしょー』
こんな制度お願いするんじゃなかった!!
ミチはモニターに縋りながら「亮もう大丈夫だよ。苦しまなくていいよ」と言ってその願いは叶わず。
亮は普段から感情を表に出さないタイプだったので、こんなに想われるのが結構嬉しかったりする。だがこうなってしまうのはやり過ぎにも感じた。
「今すぐ転生させて!!例えどんな姿になっても亮を見つけて安心させてあげたい!!」
最初からそうすればいいのにー。
天使はミチにキラキラ光る粉を振りかけた。びっくりしたミチは目を閉じふらついて後ろに倒れた。
再び目を開けると見知らぬ女性と誰かの家のリビングのような場所。
「ゆりー。そんなとこ座ってないで早く学校の支度しなさい!」
「......」
朝のニュース番組が流れるテレビの前に座り、ほんの少し身軽になった感覚。ミチが状況を理解するのに時間は掛からなかった。
(私、女子高生になったんだ!!)
「お母さん!!学校の行き方忘れちゃった!!教えてくれる?」
「何寝ぼけたこと言ってるのよ...。あ、このニュースって数ヶ月前の...」
転生した女子高生の見た目は悪くない。ミチだった頃の記憶もちゃんと残っているし、みなぎる若さとこのワクワクした躍動感。
(待っててね!亮!)
何も知らないこの世界から亮を見つけ出すために、ミチは颯爽と走り出した。
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天界
『天使さまーいらっしゃいますか?』
小学生3年生の男の子のような姿をした幼い天使は、
ミチを担当した天使の秘書の役割をしている。
『以前いらしたミチって方の死因が気になって調べたんですが...』
『飲酒運転の巻き込み事故で〜だったっけ?』
『その犯人って逃走中だったんですけど捕まったみたいですよ』
資料見ますか?
幼い天使はタブレットのようなものを天使に渡した。そこに記載されたのは犯人の顔と事故前後の動機が記されていた。【恋人に我慢や鬱憤が溜まりヤケになり飲酒、その後歩行者を巻き込む交通事故を起こし、そのまま逃走して知人の家に隠れていたところ妻が亡くなったと連絡が来る】と。
『まあ、知らなくてもいいことなんて生きてりゃいくらでもあるからねー。私はあの男を見てそんな気がしてたよ』
幸せはそれぞれだからね
ミチに関したデータを消すと、天使は新たな死人のもとへと向かった。
おわり
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