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"THE AMERICAN ANALOG SET"の事。

例えば人気と実力を備えた完璧なバンドがいたとして、そこと音楽の趣向が似ているか近くて知名度が低いバンドはフォロワーとレッテルを貼られ、期待通りのサウンドを鳴らさないと評価されない事が多い。でも似すぎているとパクリと言われてしまう...。リスナーのわがままな期待が、時にバンドを追い込んでしまったりもする。実際にはあまり接点は無くて、ただ気持ちよいサウンドを奏でて、それを聴いてもらいたかっただけのバンドであっても...そう、このThe American Analog Setみたいに。

The America Analog Setは、1995年にアメリカはテキサス州のフォートワースで偶然に始まったバンド。ソングライターでヴォーカリスト/ギタリストのAndrew Kennyが、友人のLee Gillespie, Mark Smith, Craig McCaffrey, Tom Hoff, Lisa Roschmann, Sean Rippleと、サウスウェストフォートワースにあるAndrewの祖母の家でハウスキーパーをしながらブラブラしていた1995年の夏の数か月間に、1/2インチのオープンリールに好き勝手に自作の音楽を録音し、夏が終わる頃には4本のデモ・テープが出来上がった。この夏の思い出の成果を誰かに聴いてもらいたくて色々なレーベルに送ったらしい。Vernon Yard、Kranky、4AD、Simple MachinesにMergeとMatadorまで!恐らく、この時点では音楽で食っていこうなんて思わなかったんじゃないかと思う。そんな雰囲気が彼らのサウンドにはあった。

[The Fun Of Watching Fireworks] (1996)

同じ頃、テキサス州オースティンにButthole SurfersのドラマーのKing Coffeyが運営するTrance Syndicateのサブ・レーベルとして小さなインディ・レーベルが設立された。Emperor Jonesと名付けられたこのレーベルの最初のアーティストは、既に他レーベルでキャリアがあったMy Dad Is DeadとThe Mountain Goats、そして3番目のアーティストになったのが結成されたばかりのThe American Analog Setでした。デモを送った多数のレーベルには響かなかったみたい。1996年にデビュー・シングル”Diana Slowburner II”をEmperor Jonesから限定リリースしています。この曲は1995年の録音となっているので、恐らくその時のデモ曲では無いかと思います。同じ年にデビュー・アルバム"The Fun Of Watching Fireworks"を同じくEmperor Jonesからリリースしています。デモ・レコーディング時とほとんど変わらない8トラックのレコーダーとテープデッキを使用してフォートワースの自宅でレコーディングした、ゆったりとしたサウンドには何の衒いもなくて、心にスッと入って来るような感じが心地良い、本当に心地良いとしか表現出来ないような素晴らしい作品でした。オルガンとブラシによるドラムと催眠ヴォイスのシンプルな構成で夢の様な世界へ誘ってくれる。しかし、実は曲間を途切れさせる事なく一発録音しているという、実に面倒くさい程に実験的な離れ業でレコーディングを行っていたのだ。やっぱスゴイ。

[Late One Sunday & The Following Morning] (1997)

翌1997年にはEP"Late One Sunday & The Following Morning"をリリースしています。これは、Darla Recordsが、アンビエントなサウンドを奏でるアーティストの音源をショーケース的に紹介するシリーズ「Darla Bliss Out series」の1枚でした。このEP収録の曲”Late One Sunday”には、女性ヴォーカリストのElizabethという人物をフィーチャーしています。"The Fun Of Watching Fireworks"にも女性ヴォーカルは入っていたけど、新メンバーかな?と思ったけど、結局のところ、この1曲にしか参加していません。クラウト・ロックに影響を受けたらしい彼らのサウンドに近いルーツを持った英国のハンマービートが印象的な某バンドに近づいた感じがしてしまった。まあ、デビュー・アルバムのオルガンの響きには同じようなテイストを時折感じてはいたけど、サウンドのベクトルは全く異なると思っていた。でも一般的には、Stereolabフォロワーとレッテルを貼られてしまうのでした。

[From Our Living Room To Yours] (1997)

1997年には再びEmperor Jonesからシングル"Magnificent Seventies"と、2作目のアルバム”From Our Living Room To Yours”をリリースします。このタイトルが彼らの姿勢を如実に表している様で、何とも堪りませんね。前作で優しく流れていたオルガンがちょっとだけ攻撃的になり、変則なギターやサンプリングやダークで抒情的なオルガンの響きやメロディにサイケデリックの聖地テキサス魂を感じ、ヴィヴィッドに進化したヴォーカルの比重が高まった事によりポピュラリティも増していて良い。前作同様に8トラックのレコーダーとテープデッキを使用し、これまた曲間を途切れさせる事なくレコーディングするという拘りのスタイルを貫いています。ライヴ録音の質感のパターンを変えるためか、フォートワースの自宅で録音された前作から一転、今作はオースティンの家で録音するという徹底ぶり。アンビエントで浮遊感漂うサウンドという新機軸もある好アルバムです。

[The Golden Band] (1999)

1999年には3作目のアルバム”The Golden Band”をEmperor Jonesからリリースしています。ヴォーカルが若干後退して少ない音色になった分、バンドを開始した頃の無邪気なセッションの様な淡々としたサウンドが戻ったかと思わせておいて、オルガンのエフェクト処理の凝った仕掛けやサンプリング、顕著なダウナーなサウンドにはちょっと違和感を感じたのも事実。今作も途切れの無いレコーディングを行い、飽くなき実験性を併せ持った作品ではあります。同年にシングル"The Only Living Boy Around"をリリースしてEmperor Jonesとの契約を終了した様です。その後の2007年、Emperor Jonesはレーベルとしての機能を停止しています。2001年にはEmperoe Jonesからシングルと未発表曲を集めたコンピレーション"Through The 90s: Singles And Unreleased"をリリースしています。これには、Emperor Jonesからリリースのシングルの全曲と、日本のみ限定リリースされたスプリット7インチ"Adventures In Stereo / The American Analog Set – After Hours Issue #2"に収録された、曲名も曲もサイコーな”Living Room Incidental #2 / The Corduroy Kid”も含まれています。

[Know By Heart] (2001)

2001年には、ニューヨークのインディ・レーベル、Tiger Styleに移籍してシングル”New Equation”をリリースし、間もなく4作目のアルバム"Know By Heart"をリリースしています。再びヴォーカルが前面に出て暖かいメロディを聴かせ、ゆったりとしながらも変化を持たせたミニマルなブラシ・ビートとギター、心地よく歪んだキーボード、唐突に挟み込まれるノイズや鉄琴の響き、全体的にゆったりとしていながらも単調ではない絶妙な緩急のある素晴らしい作品となっています。今作に収録予定だった以前のシングル”The Only Living Boy Around”の新録ヴァージョンは、先のコンピレーションに収録されるためにボツになったため、そのニュー・ヴァージョンに当たる曲”Gone To Earth”を収録しています。両方を聴き比べると面白いです。アルバムのプロモーションでツアーに出たバンドは、北米とヨーロッパを、彼ら史上最長となる3か月間回っています。ライヴでのバンドの成長を実感したメンバーの興奮した様子は、更なる発展を期待させました。

[Updates] (2002)

2002年にはリミックス・シングル”Updates”をTiger Styleからリリースしています。一緒にツアーを回った事もある、Tiger Styleのレーベル・メイトであるHer Space Holidayと、Styrofoamがリミキサーとして参加しています。これまでの彼らの作品をアップデートした作品で、太いビートとの意外な相性に驚かされます。2003年には5作目となるアルバム”Promise Of Love”をリリースしています。いままでと変わらない実験サイケデリック・ポップが展開されますが、キーボードやギターやノイズのエフェクトの歪み具合がよりヴィヴィッドになったため、ちょっと派手になった印象があり、これも進歩と好意的に受け止めましたが、また一歩Stereolabに近づいてしまったのも感じました。彼らの意図ならば問題は無いんですが、パブリック・イメージが...。この年にAndrewは、Death Cab for Cutie~ The Postal ServiceのBenjamin Gibbardとのスプリット・ミニ・アルバム”Home Volume V”をリリースしています。新曲はもちろんですが、お互いのバンドの曲のカヴァーには興奮しました。

[Set Free] (2005)

2004年にはTiger Styleが倒産して契約を失っていますが、翌2005年にWall Of Soundのサブ・レーベルであるArts & Craftsから6枚目のアルバム”Set Free”をリリースしています。内省的なヴォーカル、テンポはゆったりだが緊張感のあるギター、電子楽器やノイズを多用した実験的な要素がより強くなっていて、優しいポップな面が後退したのは気になりましたが、聴きどころの多い作品でした。でもちょっと悩んでる感があったかな。今作は、彼らのアルバムとして初めて日本盤としてリリースされていますが、発売元の& recordsのバイオには「ステレオラブやギャラクシー500などの影響を受けた独特のドリーム・ポップ・ミュージック」と明記されています。やはり中々拭えないレッテル...。この年、Her Space Holidayとのジョイントツアーで来日も果たし、渋谷O-Nestで、たった1日ではありましたがライヴを行っています。

2005年頃から、Andrewのソロ活動が目立ちはじめ、Broken Social Sceneには、作品に参加してツアーにも同行しています。そのためか、バンドが解散の危機に陥っているという不穏な噂が流れましたが、バンド側は否定しています。が、その後、バンドはレコーディングもライヴも行わず、実質の活動休止状態に。おまけに、Andrewは2008年から別ユニット”The Wooden Birds”を結成して2012年まで活動。そりゃ不安になるって...。2014年に"Know By Heart"がBarsukからアナログ・リイシューされた時には、喜びのコメントがサイトに掲載されたもんですが、その後はサイトの更新はなく、音信不通になってしまった...。最後のアルバムからすでに18年、声明から9年、これから一体どうなってしまうのか...。

”Stereolabフォロワー”というレッテルを貼られ、常に付きまとわれてしまったバンド。このカテゴライズというものは、レコード会社やショップ、リスナーとしても非常に便利で、私自身もしょっちゅう使うし、参考にもなるけど、本人たちの意図かどうかは分からない。もっと本人達の生の声が聞ければなあ、とは思いますが、ローカル・シーンでは難易度が高いし、そもそも語りたくないかも知れないし。やっぱ音楽って楽しみは無限大だけど、時に難しいものでもありますね。

今回は、彼らのごく初期にレコーディングされた、恐らく彼らが一番目指していた全く衒いの無いゆったりとしたサウンドが心地よいこの名曲を。彼らの活動再開を祈って!

”Diana Slowburner II" / The American Analog Set

#忘れられちゃったっぽい名曲


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