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人それぞれ、国それぞれ?(男性編)

前回の井原先生の記事で、「あんそろぽろじすと」の記事は50件になりました。これも読者のみなさまのおかげです。ありがたいことです。

さて、このnoteという媒体、アクセス解析ができて、どの記事が何回閲覧されたか確認することができます。調べてみると、どうやら恋愛や性に関係した話は高いアクセス数をほこっているようです(※1)。性にかかわる問題、とくに異性の「好み」は、実は人類学で古くから研究されてきたトピックです。その理由は色々あるのですが、ひとつには、人類の普遍性との関連です(※2)。たとえば、西洋文化に属するさまざまな集団で、腰がきゅっとくびれている――具体的にいうと、腰まわりとおしりまわりの長さの比が0.7ぐらい――女性を魅力的だと感じる男性が多い、という研究結果が報告されました。日本のテレビや雑誌に登場する女優さんやモデルさんも、ほっそりとして腰がくびれていますね。しかし、別の集団では、「腰とおしりの比が0.7ぐらいの女性」は、「栄養失調」「下痢をしている」などと評価され、むしろふくよかな女性のほうが魅力的だと判断されました。くびれた腰への好みが人類に普遍的だと結論をくだすには、もう少し慎重になったほうが良さそうです(※3)。

さて、では、体形ではなく、顔の好みについてはどうでしょうか?内分泌ホルモンなどの関係で、女性のほうが男性よりも、平均して目が大きい、唇がぷっくりしている、などの傾向があることが知られています。一般に、男性はこうした「女性的な顔」(※4)を好むと言われてきましたが、実際のところどうなのでしょうか?実は、こうした顔の好みの多様性について調べた研究があるのです。

どちらがお好き?

Marcinkowska博士らは、男性の女性的な顔への好みの多様性を調べるために、オンラインで実験を行いました(※5)。被験者は28カ国、1972人の男性たちです。被験者らは、顔の画像を2枚見せられ、どちらがより魅力的かを判断するように求められます。しかし、このとき見せられる2枚の画像は、どちらも同一人物のものです。え、じゃあ判断のしようがないじゃないかって?実は、この2枚の画像、元は同一人物でも、画像処理を施されていて、同じ人の顔画像を「男性っぽく」したものと「女性っぽく」したものなのです。科学技術すごいですね!

興味のあるかたはこちらから実験に使った画像のサンプルをみることができます(注:wordファイルです。クリックと同時にダウンロードが始まるかもしれません)。左側が女性っぽくした顔、右側が男性っぽくした顔のサンプルです。

被験者は、こうしたペア画像を20セット見せられ、どちらがより魅力的か回答します。そして、20回のうち何回「女性っぽく」した顔のほうを選んだかを、その人の「女性的な顔への好み度」としました。

この研究で著者らが注目したのは、国別の「女性的な顔への好み度」です。前述した方法で、個人の好みを計算することができます。著者らはその後さらに、国別でこの好みの指標を平均することで、国ごとの「女性的な顔への好み度」を計算しました。たとえば、日本人の参加者が3人いて、それぞれの「女性的な顔への好み度」が0.5、0.7、0.9だったとします。このとき、日本の平均「女性的な顔への好み度」は、(0.5+0.7+0.9)/3=0.7となります。注意したいのは、ここで注目しているのは国の「平均」であって、実際にはどの国でも、好みには個人のばらつきがあるということです。

国それぞれ?

さて、結果です。国ごとの「女性的な顔への好み度」は、0.52から0.78までと、ばらつきがありました。平均して、「男性っぽくした顔」と「女性っぽくした顔」を半々に近い割合で魅力的と答える国もあれば、8割近く「女性っぽくした顔」を魅力的と答えた国があるということです。また、「男性っぽくした顔」を強く好む国はなかったということもいえそうです。

さて、こうなると気になるのは日本の数値です。日本の男性は、どちらの顔を好むのでしょうか?なんと実は、上に登場した0.78という数値、日本の「女性的な顔への好み度」の値なのです。これは28カ国中第一位です(二位はオーストラリアの0.77)。もっとも「女性的な顔への好み度」の値が低かった(0.52)のは、ネパールでした。

まとめ

実験の結果からいえそうなのは、世界各国の男性は、男性的な顔よりも女性的な顔を平均して好む傾向があるものの、国間の好みのばらつきもありそうだということです。

今回は男性を対象とした実験でしたが、そうすると、女性の男性の顔への好みが気になりますね。女性は「男性っぽくした顔」と「女性っぽくした顔」どちらを好むのでしょうか?好みの多様性はやはり存在するのでしょうか?そして、日本人女性は、「男性的な顔」「女性的な顔」どちらを好むのでしょうか?気になるところですがどうやら紙面が尽きたようです。続きはまたいずれ……。

(執筆者:tiancun)

※1 これまであんそろぽろじすとがとりあげてきた性に関わる記事として

おち◯ちんの進化 

声道と精巣(Calls and Balls)

転校生はモテる? 

※ただしイケメンに限る 

間男はつらいよ 

があります。


※2 性にかかわる研究の重要性について、過去記事「ち◯こ野郎の思い出【人類学者の日常】」でも簡単に解説しています。 


※3 腰とおしりの比(Waist-to-Hip Ratioとよびます)の研究については、

長谷川寿一・長谷川眞理子(2004)『進化と人間行動』東京大学出版会 

の第11章でより詳しく紹介されています。


※4 ここでは、「男性的」「女性的」という語を、それぞれmasculinityとfemininityの訳として便宜的に使用しました


※5 Marcinkowska U. M. et al. (2014) Cross-cultural variation in men's preference for sexual dimorphism in women's faces. Biol. Lett. 10: 20130850. 



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