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ち◯こ野郎の思い出【人類学者の日常】

みなさんは、「◯◯学会が開催されました」というニュースを聞いた時、どんな場面を想像するでしょうか?スーツをびしっと着こなした紳士たちが、喧々諤々と議論しているシーン?それとも、白衣にメガネの集団が怪しげな宇宙語で会話しているシーンでしょうか?

学会の実態

もちろん、分野によって学会の雰囲気は異なります。しかし、少なくとも、僕が参加したことのある人類学に関する学会では、上のふたつの例はどちらも当てはまりません。学会というのは、もっと気楽な集まりなのです。例えば、某都市で行われた某国の人類学会では、「正装はアロハシャツ」と言われ、大御所たちも色鮮やかなアロハシャツに身を包んでおられました(しかし、医学系の方々はスーツでした)。人類学系ではない別の学会では、参加者の大半が、登山用のバックパックを背負い、キャップかアウトドア用のハット(ごくたまにバンダナ)をかぶり、首にはタオル、足元は使い古したトレッキングシューズ、というフィールドワーク時の格好でした。他の人がこれを見ても、研究者とか大学教授とは思えないほどです(山男・山女の集会には見えるかもしれません)。

ち◯こ野郎

さて、僕が実際に、学会そして研究者の世界が、堅苦しいものではないのだな、と感じたエピソードを紹介しましょう。

あれは、僕が初めて参加した国際学会でのことでした。英語も全然わからず、知識不足のため大半の発表にもついていけませんでした。それでも、学会の長老による発表では話題が脈絡なく飛びまくることだけは理解できたので不思議なものです。

さて、そんな学会で、ある先輩(日本人)とそのお友達(カナダ人)がおしゃべりしていました。そして、僕が通りかかると、それまでの話の概略を説明してくださいました。

先輩「私の友達がぴーなすがいと喋ってたら、彼女の旦那さんが嫉妬しちゃったらしいのよ。『ぴーなすがいとぴーなすの話するな』って」
僕「はあ」

なんのことだか、僕にはよくわからなかったのです。がいはguyで野郎でしょう。ぴーなす?なすびの一種でしょうか。そんな様子を察した先輩が説明して下さいました。

先輩「ぴーなすってわかる?」
僕「いえ、わかりません」
先輩「おち◯ちんのことなんだけど」

ああ、なるほど。すべてが繋がりました。「腑に落ちる」とはこういうことをいうのでしょう。

つまり、「ぴーなすがい」は「penis guy」であり、要するに「ち◯こ野郎」ということなのですね。なんでも、彼は様々な男性器の画像を女性に見せて、その魅力を判定してもらう実験をこの学会で発表していたそうなのです。「ち◯こ野郎」などと呼ばれるのもむべなるかな。お友達の旦那さんの感情を嫉妬と呼ぶべきかどうかわかりませんが、嫌がる気持ちは理解できます。

後日談

後日談ですが、この話を某人類学教授にしたところ、「中国人ですか?」というお返事を頂きました。彼には、「ち◯こ野郎」が「チン・コヤロウ」に聞こえたようです。育ちの良さというものはあるのだなぁ、と感じた次第。

もう誰も覚えていないと思いますが、学会が気楽なものだと言うことを主張するべくこの話をしたのでした。如何でしょう?この話を聞くと、学会が堅苦しい場だとは思えないのではないでしょうか。その時の僕はといえば、件の「ち◯こ野郎」に対し「ち◯こ野郎」という小学生でもためらうようなあからさまなあだ名をつけた研究者たちの稚気に驚愕し、そしてそんなあだ名をつけられた「ち◯こ野郎」の悲哀に涙したのでした。

(執筆者:tiancun)

※ち◯こ野郎が行っているような研究は、みなさんが抱いている科学研究のイメージとは大きく異なっているかもしれません。しかし、生きものの「性」に関する身体的特徴の研究は、その生きもののかたちを知るうえで非常に重要なのです。「自然淘汰」という言葉を聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。これは、環境に適応した個体が多く子孫を残すことで起こります。同じようにして、異性からモテる個体が多く子孫を残すことを「性淘汰」とよびます。性淘汰によって、異性にモテる特徴をもった個体の数が増加します。つまり、祖先と異なる身体的特徴が、異性に好まれることによって進化する可能性があるのです。ヒトでは、顔、皮膚の色、体型などが性淘汰の対象であった可能性が示唆されています。こうした研究を通じて、我々の身体が、なぜ、今のようなかたちをしているのかが、少しずつ明らかにされていくのです。

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