転校生はモテる?

転校生はモテるという話を耳にします。これ、どの程度実データに基づいた言説なのでしょうか?モテるって、単に話題にのぼる回数が多いのか、それともきちんと交尾回数を測っての主張なのでしょうか?単に興味をもたれるだけで交尾していないのであれば、それは進化的にはなんの意味もありません。eno3も言っているではないですか(※1)……などと反論しているだけでは、「これだから学者は空気を読まない」と切り捨てられてしまうので、ちょっと言葉の裏を読んでみましょう。「転校生がモテる」という言葉が言わんとしているのは、おそらく、「ヒトは目新しい異性に惹かれる」ということだと思います。なんとなんと、実はこれを検証した実験があるのです(※2)。

珍しいほうがモテる

この実験の被験者たちは、男性の顔写真を大量に見せられ、その魅力を判断するよう求められるのですが、見せられる顔のうち、ひげの人の割合が被験者によって異なります。ある人が見る顔は、ひげがもじゃもじゃの人ばかり、また別の人が見るのは、ひげの人がほとんどいない、というように。さて、判定してもらった魅力度ですが、もじゃもじゃの人が多い条件ではひげなしが、ひげなしの人が多い条件ではもじゃもじゃが、それぞれ他の条件よりも魅力的だと判断されました。これはつまり、見せられた顔の中では少数派のタイプのほうが、魅力的だと判断されたということです。

動物でも珍しいほうがモテる

実は、似たような例が他の動物でも見つかっています。例えば、グッピーで、珍しい体色パターンのオスのほうが(繁殖に成功しているという意味で)モテる、という実験結果があります(※3)。ニホンザルでも、群れに在籍している年数が短い新参のオスのほうが、古参のオスに比べて沢山子どもを残せていたという研究があります(※4)。また、ザトウクジラは、歌を使って求愛することが知られているのですが、ある集団のオスがみんな、たった二年のうちに、もともと彼らが歌っていた歌を捨て、外の集団からやってきたオスの歌を歌うようになったという報告があります(※5)。この現象が起こった理由として、外からやってきたオスの新しい歌のほうがメスにとって魅力的だったのでまねをした可能性が指摘されています(※6)。どうやら、「転校生」がモテるのは、人間だけではないようです。

さらなる謎の解明にむけて

最後に、こうした研究が「モテたい!」といった下世話な動機ではなく、深遠な謎を探求しようという純粋な学術的興味から始まっていることを説明してこの記事を終わろうと思います。「◯◯な人がモテる!」という記事をみて、じゃあなぜ世界はそんな人ばかりでないのだろう、と思ったことはありませんか?問題を簡単にするために、ちょっと極端な世界を想像して思考実験をしてみましょう。ある特徴――ここではアヒル口にしましょう――を持っている人びとがあまりにも魅力的すぎて、アヒル口の人しかモテず、結婚できず、子どもを残せないとしましょう(※7)。子どもは親に似ますので、子どもたちは親よりも高い割合でアヒル口になっていると予想されます。この子どもたちもアヒル口が大好きだとしましょう。そうすると、時間が経つにつれて、アヒル口の人の割合はどんどん増えていき、世界中のすべての人がアヒル口になると予想されます。ところが、現実にはどう考えてもそうなっておらず、人びとの口の形は多様です。不思議ですよね?不思議ですよね?そうした多様性を維持するためのメカニズムとして考えられているもののひとつが、今回紹介した「珍しいほうがモテる」という仮説であり、さきほどの髭の実験はそうした仮説を見事に検証したことになるのです。注意が必要なのは、今回髭での検証が行われましたが、他の特徴についても今回の仮説が当てはまるかどうかや、他のメカニズムが働いているかどうかを知るためには、まだまだ研究が必要ということです。というわけで、今日も人類学者は、世界中で男性のほにゃららや女性のへにゃららを計測し、その魅力を判定してもらっているのです。



※1 あんそろぽろじすと『※ただしイケメンに限る』https://note.mu/anthropologist/n/ncde18b4771e9

※2 Janif et al. 2014. Negative frequency-dependent preferences and variation in male facial hair. Biol. Lett. 10: 20130958.

※3 Hughes et al. 2013. Mating advantage for rare males in wild guppy populations.  Nature 503: 108-110.

※4 Inoue and Takenaka. 2008. The effect of male tenure and female mate choice on paternity in free-ranging Japanese macaques. Am. J. Primatol. 70: 62-68.

※5 Noad et al. 2000. Cultural revolution in whale songs.  Nature 408: 537.

※6 Australian humpback whales adopt new love song (Internet archive) https://web.archive.org/web/20010620170155/http://www.enn.com/news/wire-stories/2000/11/11302000/reu_humpback_40508.asp?P=2

※7 こんな極端な世界を考えるから多様性が失われていくんじゃないか、と思うかもしれません。しかし、もしみんながある特徴を好み、その特徴が遺伝するのであれば、相対的な魅力の差であっても、時間とともにその「モテる」特徴を持つ個体の頻度は増加していきます。


これまでのあんそろぽじすとの記事は以下からご覧ください。
https://note.mu/anthropologist/m/mf200d5ddbbe8?view=list

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