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【書評】サルってさいこう!

ここでとりあげるのは,サルのことをわかりやすく解説した絵本です*1.絵本といってあなどるなかれ,サルのことを,これほどまでにわかりやすく,おしゃれに,しかも正確に記したものは,この本以外にないでしょう.サルのことを大づかみに学びたいと考えたとき,この絵本は,おそらくもっとも短時間で,その目的を達することを可能にしてくれるはず.


おしゃれで正確な絵本

絵本だけあって,全体にカラフルな絵がたくさん載っていますが,まず,これが非常におしゃれです.特徴を上手につかみながらも,大胆に簡略化したかわいらしい絵柄は,ぱっと見てうきうきしてきます.それだけでなく,細かいところもじっくり見ていきたくなる魅力にあふれています.インテリアに置いたり,カフェでこの絵本を開いたりしたって,ちっとも違和感はありません.

カフェで『サルってさいこう!』を読んでいます。


内容もしっかり書かれています.進化,食物,形態,社会性,保全まで,いろいろなトピックが,ポイントをおさえながら簡潔に網羅されています.数分で読み終わり,すてきな絵とあわせて,サルのことを大づかみに理解することができます.個別のサルの具体的な事例も載っており,お腹と喉の模様が派手なゲラダヒヒの雄間闘争や,ニホンザルの芋洗いについての話も紹介されています.

さらにすてきなのは,絵本に使用しているのがFSC (森林管理協議会) 認証を受けた紙であること.持続可能な伐採によって得られた木材から作られた紙でできており,サルの現状を語るうえで無視できない環境保全にも配慮した製本となっています.



おすすめです

1点だけ難を言うなれば,この本で使われている「サル」という言葉が,英語の「monkey」を表わしており,霊長類 (primate) のなかの一部の分類群のみを指していることです.日本語の「サル」は,この本での使い方とは違って,霊長類全体を指す言葉として使われることもあります.そのため,言葉の定義をよく知らずに読むと,もしかしたら混乱することもあるかもしれません.


ですが,そうした小難しいことは置いておいて,「サル」はどんな特徴をもった生きもので,どんなに多様な種がいて,人間とどのように関わっているかを,数分のうちにきちんと理解したいなら,私はまずまっさきにこの絵本をおすすめします.おしゃれな絵柄と,わくわくするサルの生態が,大人であっても子供であっても,読む人をとりこにすること請け合いです.


(執筆者: ぬかづき)


*1 オーウェン・デイビー (越智典子 訳, 中川尚史 監修). 2017. サルってさいこう! 偕成社.


追記

『サルってさいこう!』を監修された研究者による書評が『霊長類研究』に掲載されています.いかにすごい絵本であるかということと,和訳にかける編集者・訳者や研究者の熱意が伝わってくる大変おもしろい書評です.(ぬ)

書評『サルってさいこう!』 オーウェン・デイビー(作),越智典子(訳) 偕成社 2017年7月刊 1800円(税別)(35ページ)

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