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練習の日々に目にした体型を僕は……

これまでの「あんそろぽろじすと」の記事の中でも、いくつか「異性への好み」の論文を扱いました。たとえば「人それぞれ、国それぞれ(男性編)」や「転校生はモテる?」などです。人々の「好み」はなぜ多様なのでしょうか。にもかかわらず、共通しているように思える部分も沢山ある気もします。

「好み」について深く考えていくと、こうした「好み」はどのようにして形成されるのか、という疑問が湧いてきます。好みの形成を説明する仮説のひとつに、(とくに幼少期に)目にした顔や体型の平均を好むようになる、というものがあります。

この効果を、水泳選手を使って検証しようと考えた研究者がいます(※1)。ちょっとなんのことかよくわかりませんね。もうちょっと詳しく説明しましょう。水泳選手は、小さい頃からずっとトレーニング漬けの日々を送ります。そのため、目にする異性の多くも水泳選手です。水泳選手は、水泳選手以外の人とくらべて、肩幅が広かったり、胴が長めだったりといった身体的特徴が(もちろん平均的に)あります。

つまり、もし「目にした体型の平均を好むようになる」という仮説が正しければ、目にする異性の多くが水泳選手体型である水泳選手は、水泳選手でない人よりも、水泳選手体型を好むようになるのではないか、とこの研究者は考えたのです。

水泳選手の好みは?

さて、実験の説明に入ります。実験の参加者はポーランド在住の98人の男性で、彼らは全員が現在または過去にポズナン体育大学(ポーランドにある体育大学)に所属していました。そのうち、43人が水泳部、55人がそれ以外の部活でした。

彼らは、女性の画像を5つみて、どの体型が魅力的か、順位をつけるように求められます。この5つの女性の画像は、もともとはひとりの(平均的な体型をした)女性の画像から作られています。著者は、もともとの画像をコンピュータを使って加工し、水泳選手っぽい体型に近づけたり、逆に水泳選手っぽくない体型にしたりします。水泳選手は、たとえば平均して肩幅が広いといった身体的特徴があることを上で述べました。肩幅に注目すると、画像を加工して、肩幅を広くしたり狭くしたりします。そうして、(1) 水泳選手っぽくない体型、(2) 水泳選手でない人の典型、(3) 水泳選手とそうでない人の中間、(4) 水泳選手の典型、(5) 過剰に水泳選手体型、の5つをつくるのです。肩幅に注目すると、(1)〜(5)の順に肩幅が広いことになります。もちろん、他の特徴についても同じように変化させています。

画像は、後ろ姿で、全身がみえるようにはなっているのですが、顔がみえないようになっています。このようにして、ほかの特徴は同じで、体型だけが違う5つの女性の画像を作り、体型の好みが水泳部かそうでないかによって変わるかどうかを調べました。

水泳選手は水泳選手体型がお好き

分析の結果、水泳部の男性はそれ以外の部活の男性に比べて、水泳選手体型の女性を好む傾向があることがわかりました。水泳部の男性は、ほかの部活の男性にくらべて、(1) 水泳選手っぽくない体型を好む人の割合が少なく、(4) 水泳選手の典型と(5) 過剰に水泳選手体型の女性の画像を魅力的と判定する人の割合が高かったのです。著者の予想通りです。この結果は、「過去に見た体型の平均を魅力的に思うようになる」という仮説と整合的です。

皆さん、最初は「なんで水泳?」と不思議に思ったかことと思います。キワモノ感は確かにありますが、「好み」がどのようにしてつくられるかに、ユニークなアイディアで迫った面白い研究だと思います。


(執筆者:tiancun)

※1 Kościński, K. (2012) Mere visual experience impacts preference for body shape: evidence from male competitive swimmers. Evolution and Human Behavior 33, 137-146.

※2 実際には、女性の体型の画像に、(a) 下着姿、(b) スイムスーツのような手首から足首までおおう真っ黒い服の2種類の服装で画像をつくっています。さらに、水泳選手体型かどうかを変化させた画像だけでなく、Waist-to-Hip Ratio(腰まわりとお尻まわりの長さの比)だけを5段階に変化させた画像もつくっています。ですので、実際は実験の参加者がみる画像の数は5×2×2=20枚になります。(b) 黒い服を着ている画像をみた場合、水泳部は、(4) 水泳選手の典型をもっとも魅力的と答える傾向にあり、それ以外の部活の人は、(3) 水泳選手とそうでない人の中間の体型を、もっとも魅力的と答える傾向にありました。しかし、(a) 下着姿の画像をみた場合、水泳部もそれ以外の部活の人も、(3) 水泳選手とそうでない人の中間の体型を、もっとも魅力的と判定する傾向にありました。また、Waist-to-Hip Ratioの好みは、水泳部かそれ以外の部活かによって変わりませんでした。

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