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国際テナガザル年から申年へ

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 本年は申年である.一層張り切って,ヒトを含めた面白い霊長類の話を紹介できたらと思う.ところで,先年2015年は国際テナガザル年であった.国際テナガザル年とは何か? 「絶滅のおそれのある種のレッドリスト」というものを耳にしたことのある読者は多いかもしれない.このレッドリストを定める機関でもある国際自然保護連合(IUCN)は,絶滅の危機にある動物の現状をより多くの人に知ってもらうため,年ごとに動物種を決めて国際的なキャンペーンを行っている.それで,2015年がテナガザルの年として定められたのだ.上に示しているのはIUCNの霊長類専門家グループ・小型類人猿部門が公開している国際テナガザル年のロゴである.

 テナガザルとは「サルはmonkey??」でアンソロピエロ氏が紹介していた通り,特にヒトに近縁な「類人猿」の仲間である.多彩な歌でコミュニケーションをとる個性的な類人猿だが,その生息地である東南アジアの森林が伐採されることによって住処を追われ,またペットとして高価で取引されるために密猟され,絶滅の危機に瀕している(※1).

テナガザルの未来

 先日(2015年12月20日),縁あってこの2015年国際テナガザル年を記念した公開シンポジウム「テナガザルの未来に向けて」に出席した.テナガザルに縁の深い霊長類学者や,動物園の飼育員,動物保護の活動家らが登壇していた.講演内容は一般の人を意識した作りとなっており,一般の人を含めて相互理解を深めることが目的の一つだと推察された.動物園の飼育員というと,動物の世話をすることが主な仕事だというイメージを持たれる方もあるかもしれない.実は各地の動物園の横のつながりが強く,定期的に会合を開いては動物の保護や,子供たちへの教育,動物にとってよりよい飼育方法についての勉強会を開いているとのことだ.また,特にテナガザルでは,外見では種の見分けが難しく,なおかつ異種間での交雑が起きてしまう種の組み合わせがある.違う種を一緒に飼育して交雑してしまうことを防ぐためには,それぞれの動物園にいるテナガザルたちが一体何という種なのかを調べることが必要だ.現在では大学の研究室と協同することで,DNAを用いた種の同定とリスト化が進められている.

変わる類人猿観

 さて,従来,「ヒト以外の動物はヒトの幸福のために利用してもよい」という考え方が一般的であった.しかし,この考え方は段々と変わってきている.このシンポジウムでも,テナガザルの飼育員である講演者たちが「テナガザルの幸福」を優先的に考えている,ということを強調していたのが印象的だった.例えばテナガザルの飼育環境を,本来テナガザルがすむ野外の環境に近づけるために,森林を模した高い棒をたくさん設置したり,ほかの群れの鳴き声を録音したものを流したりしているようだ.来園客からはテナガザルが見にくくなってしまうし,飼育員の手間は増すだろうが,テナガザルは本来の生息地に近い環境で過ごすことが出来る.

 シンポジウムでは,うまく子を育てられないテナガザル夫婦と,その子どもの関係をいかに立て直したか,という動物園での事例も紹介されていた.この動物園では,母親が子に乳を与えないという状況が起きてしまった.職員らは一旦子どもを保護したが,親子が顔を合わせられるように,親と子を隣り合わせの飼育室に入れ,授乳の際だけ職員が子のケージに哺乳瓶を差し出すような取り組みを続けた.ついには成長した子が実の両親のもとに帰り,共に仲良く行動できるようになったとのことだ.こうした事例からも見てとれる通り,今日の動物園では,テナガザルをなるべく本来の生息地に似た環境で,またなるべくテナガザル社会の中で,飼育していこうという考え方が主流である.

 動物の幸福を考慮する動きは,日本だけのものではなく,また動物園だけのものでもない.このたびNIH(アメリカ国立衛生研究所)でも,チンパンジーを用いた医薬品開発のための実験は行われないことになり,チンパンジーは研究所から保護施設へと移送されることになった(※2).研究所における実験動物の扱い方の変遷や,今回書ききれなかった,ペットとして密猟されたテナガザルを森に戻す運動についても,機会があれば紹介していきたい.

(James)


参考資料

(※1) 絶滅寸前の「歌うテナガザル」を守れ、中国海南島 ナショナルジオグラフィック日本版サイト

(※2) http://www.nih.gov/about-nih/who-we-are/nih-director/statements/nih-will-no-longer-support-biomedical-research-chimpanzees

 米国に先んじて,日本で医学感染実験にもちいる研究用チンパンジーは2012年にゼロになった.http://langint.pri.kyoto-u.ac.jp/ai/ja/k/128.html


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