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「海外で働く医師」座談会 仕事や生活についていろいろ聞いてみた(後編)

司会「海外で働く医師の座談会後編です。今回は、滞在国ごとの医師免許の扱い、海外就職のアドバイス、帯同中のご家族との生活などをうかがいたいと思います。」

日本医師免許は使える国と使えない国がある 

司会「アイジュ先生と珊瑚先生は現地での邦人診療、ままさん先生はオンライン診療や医療コンサルティングをされていらっしゃいますが、滞在国の医師免許の扱いについて教えてください。」

アイジュ「日本医師免許保有者は、語学力も含めた簡単な試験に通るだけでベトナムの医師免許が発行されます。ベトナム語が流暢であれば、ベトナム人診療も可能です。また、中国やミャンマーでも日本の医師資格を持っていれば、一定の手続きをすることで医療行為がおこなえます。」

ままさん「アメリカでは日本の医師免許は使えません。私は医師としての知識や経験を活かすことができる業務の会社を立ち上げてから渡米し、現地で業務を継続しました。
ビザは夫の同行でJ2ビザを取得し、すぐに労働許可証を申請しました。発行されるまでの間は、私が業務に関わらなくても円滑に運営できるよう工夫しましたね。オンラインでの業務でも、アメリカの土地の上でおこなえばアメリカ国内での就労と見なされるためです。」

珊瑚「臨床留学で使用範囲が限定される場合を除いて、タイではほぼ日本の医師免許が使えません。心臓血管外科の若手医師がタイに臨床留学して、手術経験を積むことは多くあるようです。」

司会「なるほど、免許をスライドさせやすい国とそうでない国があるんですね。ひとくちに海外といっても、渡航希望先や留学予定の国の事情ごとに段どる必要があることがよくわかりました。」

一歩海外へ出たらビジネス意識を持つ

司会「さて、これから海外で就職することに興味を持っていらっしゃる先生も多いと思います。その方々に向けた就職アドバイスなどはありますか?」

珊瑚「日本人医師がタイで働くなら、公的機関の派遣交流もしくは私のようにタイの私立病院医療コーディネーターに採用というのが主流です。診療をしたいなら医学部入学しかありません。」

アイジュ「ベトナム資本の病院で働くのは、言葉の差・文化の差・診療に対する考え方の差などから考えると難しいでしょう。欧米資本のクリニックや病院は、交渉次第で雇用してくれるケースもあります。日系資本の場合は、日本の病院で働く感覚に近いと思います。専門性を持ちつつ、ジェネラリストであれば採用されやすいでしょう。
私もベトナム・ドバイの医療機関の採用にかかわったことがあるので、ベトナムで働くことや海外に働くことに興味があれば、アイジュ@腎臓内科(chunchunchun05@yahoo.co.jp)まで遠慮なくご相談ください」

ままさん「リモートワークは就労可能なビザや労働許可証が必要ないと考えてる方もいらっしゃるようですが、そんなことはないのでビザステータスの確認は必須と思います。」

アイジュ「個人的な意見ですが、海外に行く場合の注意点として、あまり現地に協力するという上から目線の気持ちで行かない方がよいかもしれません。日本がほとんどこの数十年進化しなかった間に急速に海外の経済や公衆衛生・医療は進化しています。公衆衛生は日本のレベルに追いついていないところもありますが、医療機関はすでに欧米系の団体や企業に強く後押しされています。医療貢献の点でも日本の出る幕はなかなかありません。もはや東南アジアは支援する場ではなく、外貨を稼ぎに行く場所です。
採算度外視の日本の医療の体制は、海外では羨ましがられると思いますが現実的ではない。勤務医であっても、開業医以上のコスト意識とビジネス意識がないと海外では生き残れないと思います。」

司会「三者三様のお立場からのコメントですが、読者の方の立ち位置に応じてそれぞれ参考にできる部分がありそうです。アイジュ先生の就職相談はとても心強いですね。相談したい方はぜひ直接アイジュ先生へ連絡してみてください。」

環境が変わる子どもへのサポートは大事

司会「では、海外生活の実際のところはいかがでしょうか?海外に行くのはご家族にとっても大きな決断かと思います。」

アイジュ「妻と私が海外で出会った旅仲間であったため、妻は海外に行くことへの抵抗はほとんどなく、ミャンマーでもベトナムでも即OKしてくれました笑。
インターナショナルスクールでの授業が日本よりも楽しく興味深いのもあって、子どもたちも学校は明らかに今の方が楽しいと言ってくれていますね。一方で、公園で気軽に遊ぶといったことはできないです。

また、日本語力の低下などの懸念もあるので、漢字ドリルをやらせています。日本のアイデンティティもある程度持った上で国際人として成長してほしいので、そのあたりを常に課題として意識しています。」

珊瑚「夫の強い希望で同行を決めましたが、夫は日本にいた時より格段に帰宅時間が早くなり、家族みんなで食卓を囲む生活ができるようになりました。日本でのキャリアを中断しても一緒に行くことを決めてよかったと思っています。

子どもたちはインターナショナル保育園に入れました。事前の英語教育が活きたのか、すぐに友人もできて毎日楽しく過ごしています。赴任前は、もし子どもたちが不適応だったら最悪帰国もあり得ると心配していたので、馴染んてくれて心からほっとしました。」

ままさん「私は夫の研究留学に同行という立場なので、夫が何も心配なく研究に専念できるよう心がけました。私自身も大学で研究を続けたかったのですが、子育てとの両立が難しくて叶えられなかったので、夫を応援したい気持ちがとても大きいですね。

夫と子どもたちは現地のコミュニティの中で日々頑張っているので、家の中でホッとできる環境づくりが大切だと思い、できるだけ和食を作るようにしています。

子どもたちはこちらのプライベートスクールに通っていますが、とても手厚くて先生もお友達も親切です。色々な学校を見学して、子どもの特性に合ったところを選ぶことを意識しました。」

司会「先生方が子どもたちへのサポートを十分におこなうことに重きをおかれているのが伝わります。最後に、先生方の今後のキャリア展望がどのようなものかお話いただけますか?」

アイジュ「今のところ、帰国の予定はありません。私は根っからの旅好きで臨床医気質なので、患者さんと接することができるならどのようなキャリアかのこだわりはありません。起業の道も進めています。海外で生き残るために、ひとつのことに縛られることなく、いろんな分野で成長していくことを常に意識しています。」

珊瑚「夫の赴任終了にともなって今年帰国します。海外経験を活かす予定は特になく、元の専門臨床に戻ります。」

ままさん「渡米前から構想していた起業を目指し、こちらのビジネスライセンスを取得しました。海外での起業はまたとないチャンスだと感じており、業務内容に興味を持って下さるクライアントと協議を重ねているところです。帰国後はアメリカでの経験を活かした新たな事業を興す計画を立てています。」

司会「今回のまとめとしては、

  • 日本国医師免許が使えない国もあるので渡航先に合わせて段どる

  • 海外での就労を考えるなら日本にいる以上のビジネス意識を持つべき

  • 海外在住医師は子どもへのサポートを特に大事にしている

海外渡航を考えていらっしゃる読者の皆さんには、参考になる座談会だったのではないでしょうか。貴重なご意見や体験談をありがとうございました。」

文責:珊瑚@緩和