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「海外で働く医師」座談会 仕事や生活についていろいろ聞いてみた(前編)

司会「本日はさまざまな背景により国外で活動している先生たちをお呼びして、キャリアや仕事のやりがい、展望などを語ってもらいました。まずは自己紹介をお願いいたします。」

アイジュ@腎臓内科先生(以下アイジュ)「14年目の医師です。専門は腎臓内科です。ベトナムのハノイで総合診療医として働いています。」

ままさん先生(以下ままさん)「12年目の医師です。アメリカにいます。美容系クリニックのオンライン診療部門での総括を本業としているほか、医療コンサルやライターもおこなっています。」

珊瑚@緩和先生(以下珊瑚)「10年目の医師です。一般内科/がん緩和ケアが専門です。タイのバンコクにある私立病院で医療コーディネーターとして勤務しています。」

準備次第で海外で就労する道は開ける

司会「はじめに、各先生方が海外へ出られたきっかけをうかがってもよろしいでしょうか?」

アイジュ「母の死をきっかけにして違う路線の人生を意識するようになりました。
当初はミャンマーで透析をする日系病院を建てるという医療法人のプロジェクトに参画していましたが、コロナ禍やクーデターの影響で立ち消えてしまいました。その後、現在のベトナムでの診療の話をいただき今に至っています。
2021年11月からベトナムのハノイで総合診療医(GP)として日系クリニックで主に日本人を対象とした診療をしています。春からは、ハノイの外資系の病院にGPと腎臓内科として勤務予定です。」

ままさん「夫にアメリカ留学の話が出たのがきっかけです。
学生時代から起業に興味があり、立ち上げた事業を売却した経験があります。その経験を元に勤務医をしながら色々な業務をしておりました。コロナで留学が延期になっている間に、自身の会社にリモートでできる業務の構築をしてから渡米しました。
オンライン診療クリニックや医療テックへのコンサルタント、医療系ライターなど、日本で勤務医をしていたときより忙しく働いております。」

珊瑚「夫の駐在に同行してタイに移住してきました。先行していた夫から、前任の私立病院医療コーディネーターが辞めるので後任を探していると聞き、仕事を引き継ぐ形で入職しました。」

司会「なるほど、自ら海外に出たというよりはご家族に同行した先生がお二人もいらっしゃいます。準備次第で十分に海外での勤務の道は開けているんですね。」

海外では総合診療的な素養が就活のキー

司会「次の質問です。先生方は普段どんな患者さんと接していますか?海外での仕事のやりがいなども教えていただければと思います。」

アイジュ「私の場合は、日本にいた時と同様に内科医として仕事をしています。日系駐在員を診ることが多いので、皆さん合併症が少なく元気ですね。
幅広い患者層を診ることになりますので、海外ではジェネラリストである内科医が最も好まれる傾向にあります。腎臓内科医として契約しましたが、総合内科・総合診療もすることが条件でした。専門性の高い医師がフルタイムで働くのを断られることもあるので、幅広い診療ができるうえで、専門を持っているのが有利かもしれません。
やりがいとしては、日本人医師のありがたみを多くの患者さんが伝えてきてくれることではないでしょうか。『やっぱり日本語が通じるのは安心する』と、何気ない言葉ですが毎日誰かしら伝えてきてくれます。家族全員を診るケースも多く、海外にいながら街のお医者さんになれるのがとても楽しくやりがいがありますね。」

ままさん「美容系クリニックのオンライン診療部門での総括を本業としておりまして、クレーマー対応、勤務医の品質管理、事業拡大の施策などコンサル的な立場にいます。医師としての知識や経験を活かせる場がたくさんあり、キャリアを継続できているのはとても素晴らしいことだなと思っています。
また、留学中の生活に必要な蓄えや不労所得があったとしても、この円安物価高の中で収入を得られるのは心の安定にもつながりますね。アメリカでの生活は本当に驚く勢いでお金が消えていきます。同じ州で研究留学に同行している友人家族は、2年半で5000万円以上の貯金が消えたと言っていました。」

珊瑚「業務は、日本人患者の帰国時の受診紹介、日系企業駐在員の病気に関して企業産業医とのやり取りなどが主です。がん関係で、帰国の是非や治療内容まで踏み込んだ対応も複数ありました。帰国後すぐの治療につながったときには非常に感謝されましたね。
また、タイ勤務先の病院ががん患者の帰国紹介先にいつも困っているとのことだったので、日本のがん専門病院とタイ勤務先病院のMOU締結も行いました。シームレスながん治療の道筋をタイ国内に整えるきっかけを作ることができたかなと思っています。」

司会「先生方、それぞれ専門性を活かして働いていらっしゃいますね。留学にはお金が掛かるときいていましたが、想像以上で震えました。また、海外就職を目指すなら総合診療スキルが重要というのは大事な現地情報だと思います。」

海外の病院で受けたカルチャーショック

司会「現地で働くにあたって大変だった点をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。」

ままさん「会社で雇用する中には海外在住の医師もおり、もちろん勤務前にビザやグリーンカードの確認をしています。アメリカは不法就労にかなり厳しく、バレると最悪、国外退去を命じられますのでかなり慎重にやっています。
しかし、留学中であることを隠した履歴書で応募される方もいて、元駐在員の患者さんがその先生の名前をネット検索して『留学中って書いてあるけどビザどうなってるの?』とクレームが来たことがありました。」

アイジュ「大変なのはやはり外国であるということもあり、現地スタッフとの連携や文化の差によい意味でも悪い意味でも驚かされることでしょうか。特に、言葉の差以上に文化の差を感じることがありますね。
以前、来院された患者さんが迷走神経反射のような症状で急に調子が悪くなった際に、ベトナム人の看護師がフラフラの患者さんに生姜茶(ジンジャーティー)を飲ませようとしていたんです。
ベトナムでは調子が悪い時に生姜茶を飲ませることがよくあるそうで、『意識レベルが不安定な人に飲ませちゃダメ!』と伝えた時に、え?なんで?という顔をされたのが衝撃的でした。彼らからすれば善意だったのでしょうが、びっくりしました笑。」

珊瑚「それは誤嚥が心配ですね。そういう場合、タイではヤードムという気付け薬(メンソレータムのようなスティック)を鼻に突っ込むのが慣例です。ところ変われば……ですね」

司会「今回のまとめとしては、

  • 海外移住の転機は様々だが、家族の留学や駐在の同行先でも働くことは可能

  • 海外の診療では総合診療的な素養が大事になる

  • 海外で一般診療を行うときは文化の違いに驚くことがある

でしょうか。次回は、滞在国ごとの医師免許の扱い、海外就活アドバイス、同行中のご家族との生活などをうかがいます。お楽しみに。」

文責:珊瑚@緩和