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がん診療のスペシャリスト オンコロジスト座談会(前編)

司会「毎年夏は6月にASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)、9月のESMO(欧州臨床腫瘍学会)などの国際学会が盛んにおこなわれる、がん診療医にとってもアツい時期です。今回は国内外でがん診療医(オンコロジスト)として活躍されている先生をお呼びして、その魅力や苦労、若手医師へのメッセージなどを語ってもらいました。まずは自己紹介をお願いします。」

消化器外科医A(以下、消外A)「消化器外科専門医(男)です。卒後10〜15年目で、中部地方の大学病院に所属しています。」

乳腺外科医B(以下、乳腺B)「乳腺専門医(女)です。卒後15〜20年目です。1年前から研究のため留学中ですが、留学前は中部地方のがんセンター乳腺科で勤務していました。」

呼吸器内科医C(以下、呼内C)「呼吸器専門医(男)です。卒後10〜15年目、関東地方の腫瘍専門施設で胸部悪性腫瘍の薬物療法を中心におこなっています。」

オンコロジストを目指すきっかけは何でも良い?

司会「はじめに、各先生方がオンコロジストを目指されたきっかけを伺ってもよろしいでしょうか。」

消外A「自分は学生の時からずっと消化器外科医になると決めていました。外科医の道に進んでからは手術も化学療法も両方やっていましたが、外科医なので手術をいっぱいやりたい、化学療法は面倒くさい、というスタンスの人が多かったです。化学療法のレジメン選択の裁量権は各主治医に委ねられていましたが、自分も当初は化学療法には全く興味がなく、外来でやらないといけないからやろうかな、ぐらいの気持ちでした。

後期研修が終了した後に医局人事で異動したところが、良くも悪くも外科の方針で化学療法が決まる病院で、その内容が古く凝り固まっているような状態だったんです。若手医師がこの環境で育っていくと今の化学療法についていけなくなるのではないかと感じたので、若手医師向けに薬物療法のセミナーを主催するようになりました。ちょうど治療の種類も増えてきた頃で、考えることが楽しくなり、化学療法に片足突っ込むのもいいかなと思ったのがきっかけです。」

乳腺B「私はもともとは手術がしたくて市中病院の外科に入りましたが、はじめは乳がんについて手術も含めて魅力的には思えず興味は湧かなかったんです。ただ、乳がんの患者は女医を希望される方が多く、自然と乳がん患者を担当することが多くなっていきました。そのうち、患者を看取るたびに自分の治療が最善だったのか悩むことが多くなり、エキスパートから学べばその悩みが解決するはずだと思うようになりました。そしてがん専門病院の乳腺科へ異動して乳がん専門になった、という経緯です。」

呼内C「自分は後期研修で内科全般をローテートしていた頃、がん診療を専門にするのだけはやめておこうと思っていました。薬物療法はたくさんあってよくわからない、というのが正直な感想でしたし、有害事象の管理が大変だったり急変の可能性があったりと病棟での管理も簡単ではなかったからです。ただ、年次が上がって徐々に主治医として患者を担当するようになってくると、苦手とも言っていられず、研究会や学会の肺癌セクションに少しずつ顔を出すようになっていき、興味が向いていきました。」

治療が進歩するスピード感が大きな魅力

司会「3人とも最初は薬物療法に強い興味を持っていたわけではない、というところが共通していて興味深いですね。いろんなきっかけでがん診療に興味を持たれた後、どのような経緯でオンコロジストを志すようになられたのでしょうか。」

乳腺B「私はがん専門病院に異動した時に、治験や臨床研究が盛んにおこなわれていることや、実臨床が日々目の前で変わっていくことに驚きを感じました。その進歩の速さが魅力的で、今でも乳がん診療を続けています。」

呼内C「自分は肺癌に興味が向き始めた時にちょうど、印象的な患者を立て続けに受け持つことになって、その経験がさらに深く学ぶモチベーションになりました。また、国際学会が日本で開催され、治療のブレイクスルーが次々に発表されるなど刺激も多かったので興味がさらに強くなっていき、肺がん診療を専門にすることを決意しました。」

生きがいは患者と“ともに歩む”こと

司会「では次に、オンコロジストの“生きがい”についてご意見を頂けますでしょうか。」

乳腺B「最初は、術後のフォローが終了して外来を卒業する時に良かったなとやりがいを感じていました。ただ、多くの患者を診てきて、予後が延びるとしても治療したくない方、命より髪の毛が大事な方、とにかく病院が嫌いな方など、いろんな患者がいることを知りました。最近では患者の希望と推奨する標準治療をすり合わせ、治療しないという方針も含めて患者自身が納得できる方針を決定できた時に、乳腺科医としての生きがいを感じます。納得した方針を選べた方は、以前より前向きになったり精神的に落ち着いたり、その姿を見るのは嬉しいです。」

呼内C「進行期肺癌ではどれだけ時間とエネルギーを投じても病勢が医学の限界を超えてしまうことが多く、受け持った印象的な患者達でも同様でした。ただその場合でも、患者を看取った後『先生が診てくれて本当によかったよ』と家族から言って頂けることがありました。自分のコミュニケーションや患者の希望を叶えるための行動など、薬物療法ではない部分で患者・家族の満足度を上げられる、ということを実感し、とても大きな達成感を覚えたことがあります。」

消外A「消化器癌も根治となるケースは非常にまれで、再発癌をいかに長期生存させるかというところに尽きると思います。それゆえに、厳しい説明をしなければならないことが大半を占めており、根治不能と診断された患者の余生に寄り添っていかなければならず、苦しみしかないかなとも思います。でも、その苦しみがいいのかもしれません。本人が満足して亡くなる、そのタイミングを家族と共有する時がこちらも一番満足感を得る時なのかもしれません。」

司会「ありがとうございます。今回のまとめとしては

  • オンコロジストを目指すきっかけは様々で最初から目指していなくても全然問題なし

  • 治療が進歩するスピードが早いことが魅力のひとつ

  • 患者との治療プロセスや人生のプロセス共有が生きがい

というところでしょうか。
後編では、外科医がオンコロジストを担うことのメリットや苦労する点、オンコロジストの“主治医力”とは、など、若手医師へのメッセージを語っていただきます。」

執筆:tomisuke@呼吸器内科[肺癌]