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安全文化への道~日々の会話にSafety-Ⅱを練り込む

最近、医療安全について触れられる機会が多くなりましたね。
個人だけでなく病院全体で考える安全とは何か。そして若手医師に医療安全を意識してもらうにはどう教育したらいいか。医療安全と一口に言っても、考えるべきポイントは沢山あります。

今回は、個人とチームの成長を促進させる「安全文化」について、飯塚病院 小田先生からお話を伺いました。明日から実践できる安全性を高めるための意識改革の方法を解説します。

【講師】小田 浩之先生
山口県出身 鹿児島大学卒業
飯塚病院総合診療科医師
PGY2 ACLSに出会い、ICLSの啓発やシミュレーションに没頭
研修管理委員会・急変対応委員会など複数組織の責任者を務める
趣味は合唱

安全文化のためのSafety-Ⅰ・Safety-Ⅱ

早速ですが、日常生活の中で「あっやばい!」と思うことをやってしまった際、あなたが取る行動は次のうちどれでしょうか?

A:もみ消す
B:何とか修復する
C:すぐに上司に報告する
D:人のせいにする

嫌なことが起きると、つい心が折れそうになってしまうものです。すぐに上に報告する方もいらっしゃいますが、焦ってもみ消そうとしたり、修復しようと奮闘する方もいるでしょう。はたまた、人のせいにする方もいらっしゃるのかもしれません。

ここで、2015年に出版された「Safety‐1 & Safety‐2―安全マネジメントの過去と未来」(エリック・ホルナゲル著)をご紹介します。著書によると、こうしたケースにはSafety-Ⅰ、Safety-Ⅱという概念を当てはめるといいそうです。Safety-Ⅰとは、失敗が少ないことを安全の定義としており、許容できないことが起こったら対応する”受動的な原理”となっています。

一方のSafety-Ⅱは、失敗は必ず起こるため、失敗からいかに上手くいくか理解することが大切だとしており、連続的な発展を期待する”能動的な原理”となっています。Safety-Ⅰ、Safety-Ⅱの詳細は、以下の通りです。

Safety-ⅠⅡ(エリック・ホルナゲル著)
Safety-ⅠⅡ(エリック・ホルナゲル著)

現代の膨大な情報化社会においては、Safety-ⅠよりもSafety-Ⅱのほうが適切であるとされています。なぜなら、常に新しい情報が入れ替わり入ってくる状況の中で、起こった事柄をただ潰していくだけでは到底間に合いそうにないためです。失敗が発生することを前提に、隠蔽せず、個人を責めず、むしろ失敗から学ぶチームこそが必要となってくるのです。

医学教育におけるSafety-Ⅱ

では、医学教育におけるSafety-Ⅱはどんなものでしょうか?

「フィードバック」は、ICLS(Immediate Cardiac Life Support)のシミュレーション教育において、現国際医療福祉大学福学部長の吉田先生より教えていただきました。その頃、フィードバックには「Positive Feedback」「Negative Feedback」「Constructive Feedback」の3つがあるとしていました。「Positive Feedback」を過剰に相手を褒めことと誤認識が生じていることがありますが、私は、極力感情を外して「できていることをできている」と伝えるものであると思っています。

また、「5 step microskills」(①考えや意見を聞く ②根拠を聞く ③一般論を伝える ④できたことを承認する ⑤間違いを伝える)という手法もあって、短時間のうちに教育するためにはこの枠組みを使うといいとされています。あとは辛い出来事が起きた際に、起こったことよりもどんな感情でそれに対峙したか、また上手くいったことやいかなかったことを振り返る「SEA」(Significant Event Analysis)という手法も大切だとしています。

考えてはいても、なかなか行動に移せないことはあるものです。前述の3つの手法を通じてSafety-Ⅱを上手く取り入れ、問題に対処しましょう。

『ジョハリの窓』自己開示とフィードバック

『ジョハリの窓』はよく耳にする方も多いと思います。
「自分が知っている自分」「他人が知っている自分」「他人か知らない自分」「自分も他人も知らない自分」の4象限に分けられおり、「他人が知っていて自分が知らない自分」がいわゆる盲点です。この盲点の部分が開かれた窓で繋がっていくと、他人との繋がりもより深くなると言われています。

また、インタビューを受けたり、自己開示をしていくことでも盲点は広げられます。気を付けるべきポイントは、自分にとって安全な人に自己開示をするということです。信頼関係を築けている方からフィードバックを受ければ、きっと自分自身も変えていけるし、安心な場所が広がります。

ジョハリの窓
ジョハリの窓

VUCAは成功の果て

最近『VUCA』も耳にすることがあります。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語で、社会やビジネスにおいて未来の予測が難しくなる状況のことを意味します。

現代は昔に比べ、情報集約や伝達が高速化しています。それにより、世の中は急激な進化を遂げています。変化が加速したことで、昔の成功法則や成功体験だけでは立ち行かなくなり、新しい成功体験がどんどん積み重なっている状態です。

一方、解決困難な問題も増加しています。例えば、少子高齢化とひと言でいっても、長生きできる高齢者が増えたがそれをケアする若者が減っているなど、複合的な問題がかけ合わさっています。この点は、昔に比べて問題解決が非常に難しくなってきていると感じます。

日本はいま、成長社会・情報処理力が重要視された社会から、成熟社会に代わり情報編集力が問われる国となりました。男性・女性・LGBTQなどの概念を超えて、一人一人がそれぞれ広い視座を持つことが大切です。この複雑なVUCA時代を乗り越えるカギは、”Inclusion&Diversity”つまり、個々の違いを受け入れ、生かしていくことが重要となっているのです。

なぜ心理的安全性なのか

ではここで質問です。皆さんの病院の看護師さんは、あなたに適切な報告をしてくれますか?適切である or 少なめ or 多め or 多すぎ … いかがでしょうか。

これは看護師さんとの関係性の中に答えがあります。もしも少な目だと感じる場合は、看護師さんが4つの不安を抱えているかもしれません。

<心理的安全性が低い時の4つの不安>

  • 無知だと思われる不安

  • 無能だと思われる不安

  • 邪魔をしていると思われる不安

  • ネガティブだと思われる不安

以下は、グロービス経営大学院で講義の最初に使用されるものですが、「質問をするひとは偉い」ということで、自分が考えていることを自己開示することこそが、成長に直結していくと捉えています。

質問をするひとは偉い(グロービズ経営大学院)
質問をするひとは偉い(グロービズ経営大学院)

心理的安全性を保つためにも、聞く側としても発言者が委縮しないように温かく見守りながら聞いてあげる姿勢が大切です。

“積み石効果”と“捨て石効果”も、心理的安全性を保つ上で欠かせません。
石がどんどん上に積み重なってゴール地点に到達する過程において、どの石がなくてもゴールまでは辿り着けない、といったことを意味します。積み重なっている石はもちろんですが、一見離れた場所にあって無意味に思われる石でも、積み上げていく上では欠かせないものです。

つまり、組織が目標達成する過程で、一見ゴールには繋がっていないように感じられる意見でも、最終的にはゴールに結びつくための大切な意見なのです。そういった視点を意識することが大切です。

安全文化への道

最後のまとめに、VUCA時代における激しい変化に対応するには、見る視点を増やす必要があります。個人が見える世界は限られているため、なるべく多様な個人をInclusionしていき視座を広げることが大切です。

そして4つの不安を乗り越え、気づきを言い合える心理的安全性を持つチームこそが、変化に対応・進化していけるのです。日々の会話にSafety-Ⅱを練り込み、安全文化への道を目指してみてはいかがでしょうか。

安全文化
安全文化

つながりは、長所で他人を助けていくチーム

最後に、Antaaからの質問「小田先生にとって”つながり”は何か?」に対して以下のように答えてくださいました。

つながりとは、『長所で他人を助けていくチーム』ではないでしょうか。以前、”短所を直すには人生が短すぎる”という言葉を目にしたことがあります。他にも、あるマーケターが「短所を克服して売上をあげた人はいない」と言っていました。

つまりは、自分の短所よりも長所を伸ばすことこそが重要かなと思っています。短所という言葉が適切かは分かりませんが、アンタ―では自分の専門外の知識も、他の先生方がシェアをしてくれます。アンタ―のつながりを通じて、先生同士が持つ強みを上手くかけ合わせ、相互に成長していけたらいいのではないでしょうか。

本記事を読んでもっと詳しく知りたいと思った方は、ぜひ小田先生の動画スライドをご覧になってみて下さいね!

【Antaa Channel】
本記事は、2022年3月9日にAntaa Channelで配信された動画「安全文化への道~日々の会話にSafety-Ⅱを練り込む」をまとめたものです。Antaa Channelでは、現役医師が教える”明日から医療の現場に役立つ解説動画”を配信しており、22年10月時点で300本以上の動画を視聴することができます。 >>登録はこちら