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がん診療のスペシャリスト オンコロジスト座談会(後編)

司会「前編ではオンコロジストの“生きがい”について語っていただきました。引き続き、後編でもオンコロジストの先生方に語っていただきます。」

苦労はやりがいと表裏一体

司会「オンコロジストとして仕事をやられる上で感じるのは、ポジティブなところばかりではないかと思います。仕事をやっていて苦労する点はどのような点でしょうか。」

乳腺外科医B(以下、乳腺B)「術後再発が起こった場合の説明や予後に関する告知、看取りなど辛いことが多いことでしょうか。いまだにいつまで続けられるだろうかと思うこともあります。」

消化器外科医A(以下、消外A)「根治不能や術後再発という厳しい説明をしなければならないこと、そしてそれ以降の人生に寄り添うことはたくさんの苦しみをともないます。その苦しみが常に側にあるのがオンコロジストの宿命のようなものなのかもしれません。」

乳腺B「病状やシビアな方針の説明の時に、患者の人生観に関わる深い話になって時間と労力がかかることもあります。特に外来では自分一人で受け止めないといけない時があるんですが、そんな時はこちらも泣きたい気持ちになりますね。」

消外A「苦しいですよね。でも、その苦しみがいいのかもしれないとも思います。」

呼吸器内科医C(以下、呼内C)「苦しみがいい、というのはとても共感できますね。長時間の説明とか、真夜中の看取りとか、辛いなとは思いつつもやめたいと思ったことはないです。自分に負荷がかかっている時こそ、達成感や満足感を感じるのかもしれません。」

乳腺B「苦しいのがいい、なんて言えるのはすごいですね。でもわかる気がします。」

呼内C「ずっと体育会系で育ってきたのですが、負荷は大きければ大きいほどよく育つ、という方針の指導が多かったです。そこで叩き込まれたマインドが今のスタンスに繋がっているのかなと思います。」

オンコロジストの“主治医力”

司会「仕事の大変さをやりがいと感じていらっしゃるのが印象的です。では、次のトピックに移ります。オンコロジストの能力と言いますか、患者の治療経過に差が出るポイントとはどのような点なのでしょうか。」

呼内C「現在では、どのがん種でもガイドラインがあり、治療の選択は迷う余地が少ないですよね。自分の指導医は、レジメンを選ぶだけなら誰でもできる、とさえ言っていました。オンコロジストの“主治医力”とは何なのか、自分でもまだ答えが見つかっていないので、みなさんの意見にとても興味があります。」

乳腺B「薬物療法を完遂してもらうため、有害事象の予防とマネージメント力が大事だと思います。診察に十分な時間をかけられない場合もあり、自分以外の医療者が有害事象のきっかけに気が付くこともあります。その情報を共有してもらえるように普段から人間関係を円滑にしておくこと、いわばチーム力も重要な能力のひとつではないでしょうか。」

呼内C「私は、ゆくゆく予後やパフォーマンスステータスの悪化につながるリスク病変を早く発見し、先手の対応ができるかが臨床医の能力だと教えられました。中枢神経病変や気道・食道狭窄などが、そのリスク病変だと思います。病歴・症状や身体所見、画像所見にそういったリスク病変の“種”が隠れていないか、気を付けて診療しています。」

消外A「オンコロジストが治療に携わるメリットは2つあると思います。1つ目は、引き際の管理です。治療を継続するのか、減量や変更をおこなうのか、有害事象と治療効果のバランス感覚に長けたオンコロジストが、この見極めを担うことの恩恵は大きいと思います。2つ目は、治療選択順の工夫です。たとえば、複数の選択肢がガイドライン上同等のエビデンスレベルで推奨されている状況を想像してみてください。こういった場面ではどの治療を選択しても間違いではないのですが、それだけに何を選択すべきか迷う場合があります。自分なら自身の経験や学会での最新の知見などを参考にして、よりベターな選択肢を提案できることがあります。」

外科医がオンコロジストを担うメリット

司会「ガイドラインを超えたところの知見を持っているのはオンコロジストの強みですね。」

消外A「私は肝臓外科医ですが、外科医がオンコロジストを務めることも大きなメリットがあると考えています。肝転移は“切除可能”なら切除を検討する、というのが多くのがん種において基本方針となっています。この“切除可能”という用語は実は曖昧で、個数や大きさ、分布によって規定されているわけではありません。外科医が切除できる、と判断したものが“切除可能”になるのです。つまり、内科の主治医が切除できそうにないと思ってカンファレンスに提示しなければ、本来は切除可能な症例が“切除不能”というステータスのまま方針決定されることになります。こういった事例を減らすために肝臓外科医がオンコロジストを兼務する必要があると思っており、自分はそれを目指したいと思っています。」

乳腺B手術と化学療法を両方やっているからこその楽しみもあると思います。術前化学療法をおこなってから手術した症例の病理結果がpathological complete response(病理学的完全奏効)だったり、切除断端がちゃんと悪性陰性だったりした時は嬉しいです。」

消外A「逆に、自分が手術した症例で再発が起こるとショックが大きいですよね。」

若手医師へのメッセージ

司会「では最後に、オンコロジストを目指そうと思っている先生や、がん診療に興味があるけどまだ進路に迷われているような若手の先生に向けてメッセージをいただけますでしょうか。」

乳腺B「がんの診療では、厳しい病状説明や看取りが多く大変な側面もありますが、その分やりがいを感じる場面も多いと思います。治療が毎年のように更新され、学術的な面白さを感じられるのも魅力です。また、患者とは必然的に深い付き合いになり、そこから命や人生について学ぶ機会が多いのも選んでよかったと思えるポイントだと感じています。ぜひ、将来の選択肢のひとつにがん診療を考えて欲しいと思います。」

消外A「オンコロジストは患者の死と向き合わないといけないので、大変な仕事ですが、新しいことも多く刺激的です。他の診療科とオンコロジストの両方を検討している人は、その診療科を選択してもいいと思います。ひとつのがん腫に精通して、そこからオンコロジストになることもできます。少しでもオンコロジストになろうと思った方は、ぜひその思いを忘れずに研鑽を積んでください!」

呼内C「がん診療は進歩していますが、いまだに根治不能なものも多いです。ただ、薬物療法が限界だったとしても、自分の言動や配慮ひとつで患者や家族に満足してもらえることがあります。がん診療とは、自分の人間性を高める努力を常に求められる環境でもあり、切磋琢磨に満ちています。辛いことも多いのは事実だと思いますが、得るものも多いこのオンコロジストという舞台に、ぜひチャレンジして欲しいと思います。」

司会「今回のまとめとしては

  • オンコロジストは辛いこともあるがそれがやりがいの基でもある

  • オンコロジストの“主治医力”とは、有害事象やリスク病変の適切な管理、治療の工夫ができること

  • 外科医がオンコロジストを務めるからこそ生まれるメリットは大きい

といったところでしょうか。先生方、ありがとうございました。」

 執筆:tomisuke@呼吸器内科[肺癌]