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【創作】マニキュア

初めて買った真っ赤なマニキュア。

学校でバレたら怒られると思いながら塗った。

あの時の高揚感はまだ覚えている。

あの頃は早く大人になりたかった。


「ねえ。何してるの?」

「ペディキュア、塗ってるの」

偶然メイクボックスの奥底から出てきた。

あの時と似た真っ赤なマニキュア。

「へぇ?珍しいね」

オシャレは足元からなんていうけど、めんどくさくてペディキュアなんて何年も塗っていなかった。

「それ、乾くまで動けないんだよね?」

「そーだね。ビール飲みたい。持ってきてよ」


大人になりたかったあの頃とは違う。

もうすっかり大人にはなった。

ビールとあたりめがあれば生きていけるぐらいには。

でも時々ふと思う。

あの時なりたかった大人になれたのだろうか。


「はい。どーぞ」

「サンキュ」

プルタブを引き、喉に流し込む。

アルコールを体に入れる快感。

後を引く苦さがたまらない。

「また飲み過ぎないでよ」

「わかってるって」


今の私に何か足りないものでもあるのだろうか。

仕事があって収入があって欲しいものはそこそこ手に入る。

側にいてくれる人もいる。

これ以上何を望むのか。


あの頃思い描いていたキラキラしたものは無い。

目一杯背伸びして手を伸ばして掴もうとした私はもういない。

背伸びしたって足が疲れるだけだと気づいてしまったから。


「大人になるって何かを失うことなのかな…」

あの頃手に入らなかったブランド品は手に入れた。

それと同時に何かを手放したんだろう。

乾きかけた足元を見つめる。

このマニキュアだってあの時の安物なんかじゃない。


「どーしたの。急に」

そっと抱き寄せられ、その肩に頭を乗せた。

そんなことが、いとも簡単にできてしまう。

あの頃の私はきっと恥ずかしがって出来なかった。


「この色、若いよね。塗るならもっと落ち着いた色の方がいいよね」

「そうかな?よくわからないや」


久しぶりに塗った真っ赤なマニキュアはどこか浮いている気がした。

それなのにどうしてだろう。

あの時と同じ真っ赤なマニキュアはまだ捨てられない。




※この作品は数年前に書いたものです。

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