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緊張の夏、コロナの夏、マスク怪談四話 第一夜「こんな顔かい?」

 今年の夏はなんかこれまでの猛暑、酷暑に比べて、呆気なく短かったような気がしますね!?
 長かったのは、緊急事態宣言に蔓延防止法マンボウ。医学的科学的エビデンスなど無いのに、飲食店ばかりを狙い撃ちしてシメ上げてのソンタク時短自粛休業。でもエビデンスが無いから飲食店シメてももちろん感染は収まらず盛り上がり、そしてやっと。。。

 一番恐ろしいのは、疫病より、無知無能な人間かも。。。そんな恐怖の現代の怪談を、オムニバスでお届けします。。。

* * * * * * *

 ある国で。新型コロナという疫病が突如発生した。市民は恐れおののき、専門家と名乗るものはその恐怖を煽り立て「外出するな、遊ぶな、外食するな酒呑むな」と叫び、政治家はそれをこれ幸いと戒厳令かのような緊急事態宣言やまん延防止法なる法律を次々制定。医学的科学的エビデンスは無いのに、ごく一部のカラオケスナックや無節操な宴会パーティーでクラスター集団感染が発生したことを盾に、飲食店ばかりを狙い撃ちして営業時短自粛を「要請」、命令はしないとイイながら実質強要、ソンタク時短自粛。

 そして市民は常時マスクを義務付け、、、られないが、するようになった。これもソンタク。マスクは自身の飛沫飛散防止にはなるが、感染予防効果は乏しい、というWHOの発表などどこ吹く風。マスクしないと責めてくる「マスク警察」に飲食店その他が営業していると責めてくる「自粛警察」、おかしなものがウヨウヨと生えてきた。まるでいつかのネトウヨがウヨウヨ生えてきたような感じ。

 もう誰もが常時いつも常にマスク装着。鼻から下は見えない、ほとんど目だけ。どこかイスラム世界のブブカだかのよう。タリバンが見たら歓喜しそうだ。実際一部の女子は「化粧しなくて済む」と喜んだりもしたらしいが。。。そうだブブカは女子がメンドイし肌に悪い化粧などしなくてよいようにというどこかの神様の思し召しなのだそうに違いない、たぶんおそらく何となく。しかし結果として「マスク美人」という言葉はコロナ以前からあるが、目元しか見えないから、イイと思ったらマスク外した、うひゃあ! なんてことも。

 そして、あるとき、あるところで。
 中年男が居た。婚活していた。まだ夢くらい見ていた持っていたのだ。でもコロナで「ちょっと逢いましょう」すらできなくなり、いよいよ難しい。そんな中で、出逢ってしまったのだ。それもしかも、行きずりで。そう、駅ナカの花屋に、タイプな、、、ただし目元しか分からないけれど、、、女の子を見かけてしまったのだ。

 中年男は花など買わない。そもそも花瓶も無い。グラスにでもとりあえず差しておけばなどという智慧すら無い、だって中年男だからだ。それから毎日、中年男はその花屋を帰りがけに通りがかるようになった。でも、花を買わなかった、いや、買えなかったのだ。中年男はどちらかというと貧しい家の出身。家に花など無かった。しがないもんだから、仕事を辞めるとなっても花なんてことはなく、なんだか呑み会でガーっと呑んで、終わり。花など無い人生だったのだ。

 そうして、何日も通りがかったが、ある日から、その子はぱったりと、居なくなった。
 中年男の胸がうずいた、騒いだ、雄叫んだ。「逢いたい」そしてついに意を決して、はじめてその花屋に入った。正確には駅ナカの露店みたいなところだから、寄り付いた。そして適当に手前に並んでいたワンコインのミニブーケを手に取り、そこに居た後ろを向いていた店員に声をかけた。
「これ下さい」「はーい、どうも」店員は顔が見えるでもない程度振り向いてミニブーケを受け取り、レジを打ち始めた。中年男は今しかないと決意し心キメて、声をかけた。
「あのう、こないだまで、ここに、可愛い女性居ましたよね」
「みんなカワイイですようちの娘たちは! どんな子でしたか?」
「え゛ーと、、、目が切れ長で、そうですね銀河鉄道のメーテルみたいな切れ長で、まつげが長くて」
「それだけだと皆そんな感じですよ! もっと他には?」
「いや、何しろイマドキ、皆さんマスクで目しか見えませんから、、、」
「そうですよねー。でも、その目元って、どんな感じか覚えていますか?」
と、やっとその店員が振り向いた。
「あっ! そんな感じ、まさにアナタみたいな感じでした! でも」
「でも、ナニ?」
「でも、アナタでは、無いんですよね。。。何かどこか、違うんです。。。」
「そうなんですね」
「あの子は、今度はいつ来るんでしょうか?」
「どうして、そんなことが知りたいんですか?」
 中年男は一瞬といわず三秒掛ける三回ほど、躊躇したが、意を決して言った」
「お恥ずかしいのですが、一目惚れしました!!」
「そう。それは、あの子も喜ぶかもね。。。」
店員はちょっと、陰のある表情で、ちょっと、トーンを落とした。
「はい、お会計です」
そして、店員は、ちょっと佇んで、そして、言った。
「お客さん。その子、ちょっと、色々ある子なんですよね。でも、本当に、イイ子なんですよ。私が男なら、迷わず結婚するかな。。。アナタは、どう?」
「もちろん! 嗚呼、やっと、声かけられる、出逢える!! 教えてください!!」
「そうですか。じゃあ、ちょっとだけ、待ってね」
 店員はまた後ろを向くと、レジ下のハンドバッグから化粧道具を取り出し、手早く化粧した。そして、振り向いた。彼女が声を発するまでもなく、中年男が叫んだ。「嗚呼、アナタです! でも、どうして!?」「女はね、化粧でいくらでも変わるのよ。男性は、あまり分かってないみたいだけど」「嗚呼、ええと、まず、お名前を伺ってイイですか? それから、それから」
 舞い上がる中年男。だがしかし、店員は、ちょっと冷たい感じで、言った。
「教えてあげるけど、、、アナタ、自分の言うこと、することに、ちゃんと責任は取れるの?」
「当たり前です!」
「一つだけ、教えて。あなた、ご出身は?」
「山口県です!」
「そうなのね。長州なのね」
 そしてつぶやくように店員の女は言った。
「会津の武士道の掟には、卑怯なふるまいをしてはならぬ、とあるけれど、薩摩の掟には、それは無いのよね。だから会津を裏切って、大戦塗れの日本にしてしまった。そして長州にはそもそも掟が、あったかしら。。。」
「嗚呼、ボクの心はこの美しい赤バラ、サムライ08のようにもう燃えています! どうか教えてください、アナタを生涯恩人と忘れません!」
「そう。じゃあ、教えてあげる。私の名前はね、、、」
 そして女は、マスクを外した。そこには、赤い裂け目がぱっくりと割れ、白い牙が沢山ちらついていた。
「こんな顔でも、本当にイイの? 男なんて、みんな嘘つき。女も同じ。みんな嘘ばかり都合イイことばかり、人様騙して誤魔化す。息を吐くように嘘をつく、そんなのばっかり。アナタは、この私を、ずっと愛して、くれるの!?」
 男は後ずさりし、「うわああああ」と叫びながら逃げ出した、いや、逃げ出そうとしたが、腰が抜けてその場に座り込んで、失禁してしまった。
「ねえ、わたし、きれい。。。!?」
 男が逃げようともがく。そして、這いながら逃げ去った。
「この国の男ども、ろくなのが居なくなったわね。。。」そう、傍らには「なんとかぱみゅぱみゅ」のCD。口が裂けたメイク。
 そして、手早く「口裂けメイク」を拭き取りマスクをすると、切れ長の長いまつ毛の憂いを秘めた眼の女は、つぶやいた。「嗚呼、私を誰か、愛してよ。。。」いや実際、メイクでなくても彼女の口は耳まで裂けていて、ただもちろん普段はぴったりくっついているから、そうとは分からないのだけれど。。。
 男も色々だが、女も色々、あるのだ。愛することは、ときに、かなり、難しい。。。

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