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はしご酒の末路

人とお酒を飲むのが好きだった。というより、厳密に言えば人が酔っていくのを見るのが好きだった。人が呑んで楽しそうにしてれば自然と楽しくなるから。それに、人が食べてるものを見てると美味しそうになる現象、なんて言ったっけ。いや名前なんてなかったかも。それのおかげかお酒自体もいつもより美味しく感じるから飲むなら誰かと一緒がいいなと常々思ってる。

初めてのはしご酒

はしご酒をしよう!

そう提案したのは私だ。お酒が飲めるようになって以来一つの夢として鎮座し続けていたはしご酒。大学生の特権でもある「暇」を使ってやらない手はない。何軒も居酒屋を回って、道中酔って火照った顔に冷たい風が当たるあの感覚は今も鮮明に思い出せる。

幸いなことに、私には一緒にお酒を飲んでくれる友人がいたので大学の説明会終わりに神保町に集合。神保町は大学から一駅ということもあり行き慣れた町だ。居酒屋も隣接してたくさんある。学校帰りに呑みに行くには最適な場所だ。

こうして、はしご酒が始まったのである。

一軒目はお刺身が美味しい居酒屋さん。金目鯛の煮付けが美味しいよ!と定員さんに激推しされてちょっとお高いながらも金目を注文。あと調子に乗って大きめの刺身盛り合わせを頼んだ。

一杯目はビールを注文した。記念すべき一杯目。この一杯目には全てが詰まっている。わくわくとどきどきと楽しいこと全部。いや、ちょっと盛った。でもその一杯目に特別な感じを覚えたのは事実だ。

乾杯!お疲れ様!

乾杯!と高らかに言うことはあまりない。大体「お疲れ様〜」と言ってわあぁって感じで乾杯する。で、そのあと「別に何も疲れてないけどね!」と続く。だって学生だもの。でもまぁ、記念すべきはしご酒一杯目だったので流石に「乾杯!」をやらせていただいた。主催者として乾杯の音頭を取るのは致しかたないことだろう。

ここでようやく一杯目に口を付ける。ビールを飲む時は喉が弾けそうになるまで一気に流し込む。喉でじわじわと炭酸が弾けてちょっと楽しい。ビールの好きな部分の七割がこれだと思う。味三割、喉ごし七割。

ビールが半分くらいまでなくなったところに、刺身と金目鯛がやってきた。

思ったよりも、でかかった。いや、刺身だけでもなかなかの量があるのに金目鯛丸々一匹。良く味が染み込んだ安心の味!机に置かれた瞬間全員が感嘆した。しかしまあ、これがまた酒に合う。日本酒でも良かったかなとちょっと思ったが先のことを考えるとビールで良かったと思う。

みんなでどうでもいいことを喋りながらお酒を飲んで、食べる。恐らく人生で一番美味しいビールだったと思う。やはりお酒を飲むのはこうでなくってはと調子に乗って飲みすぎる。だがしかし、それは居酒屋に行けなければ友人と飲むことも厳しい現状は私の飲酒ライフに大打撃を与えているということでもある。

割り勘はめんどくさい

私は割り勘というものがめんどくさくて仕方がない人間なので、払い払われの共存関係を築きがちなのだが、今回ははしご酒ということもあり一軒につき一人が支払うという体制を作り上げた。側から見たら「不平等では?」と思うかもしれないがそこで文句が出ないからこうしてはしご酒をするに至る仲なのだと言う他ない。

あと単純に、お酒を飲むとみんな計算能力が著しく低下するので問題ないのだ。

平等にじゃんけんでお支払いを決定。これが出来るのも学生の特権ではなかろうか。にしても、その学生最後の生活がコロナによって潰されてしまった。悲しいことこの上ない。またあの時のように飲める日がくるのだろうか……。

はしご酒の末路

四人で行って、最終的に回ったのは三軒だった気がする。あれ?計算合わなくね?と思わなくもない。実のところあまり覚えてない。酔って覚えていないというわけではなく、単純に気にならなかったから忘れたんだと思う。まあ、多分大丈夫だったんだろう。

あの時ほど楽しかったことはない。誰かとお酒を呑み、喋り、食べる。その時の美味しさみたいなものは一人ではなかなか味わえない。今年一年一緒に呑むと言えば家族だけ。いやではないが、それでもまた誰かと一緒に呑みに行きたい。

その時、「乾杯!」と言うのはきっと楽しいに違いない。

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