「猫の頭に叩頭三拝」 とある老女の一日
昭和六十三年八月某日。
真夏といえど、早朝五時の、おもてはうす暗うて、道ゆくひとは新聞の配達屋さんと、牛乳の配達の人ぐらいしかいらっしゃいません。
私は毎日、このぐらいの時間に目を覚まし、着物を着て、お化粧をして身なりを整えます。それから、二十年前に亡くなった主人のご仏前にろうそくとお線香をたいて、孫や子供たち、そして皆さんが恙無く、今日も一日過ごせますようにと手を合わせることから一日が始まります。
四人いる子供たちが独立して、主人が亡くなり、それ以来ずっと一人で暮らして