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北海道の在来線で一番速い⁉北斗2号に乗った

2021年12月20日(月) 午前5:55 北海道札幌市・札幌駅

午前6時前の札幌駅の発車標 始発はこれより前の快速エアポート


所用で函館へ向かうため、 2D 特急北斗2号に乗車する。この列車に乗車することをとても楽しみにしていた。
なぜならばこの列車、北海道を走る在来線列車の中で最も早い列車なのだ。

というのも、札幌~旭川(136.8km)を1時間25分で走るカムイ・ライラックは評定速度96.5km。それに対して今回乗る北斗2号は札幌~函館(318.7km、3時間29分)でこそ評定速度91.5kmだが、札幌~旭川と同程度の距離である札幌~東室蘭(129.2km)に限れば1時間17分、評定速度は100.7kmに達する。この区間に限れば、カムイ・ライラックよりも速い列車ということになる。また札幌~函館で見ても、北斗2号よりも早く走破する列車はなく、正真正銘再速達列車である。

途中停車駅も2020年から大部分の北斗が停車するようになった白老はもちろん、2号以外全ての特急が停車する登別、洞爺という観光需要の大きい駅を通過する。

編成は以下の通り。この日の北斗2号は6両編成。新型コロナウイルス禍における利用減少によって減車され、基本は5両編成だが、年末年始の繁忙期を前に1両増結されていた。5、6号車の2両は1992年製造の試作車でシートは青紫色の自由席車用、1~4号車は1994年の営業開始に合わせて落成した量産車で、1、3、4号車はJR北海道標準型の指定席用シート、2号車はグリーン車である。

⇧札幌
6,キハ281-901
5,キハ280-901
4,キハ280-109
3,キハ280-2
2,キロ280-2
1,キハ281-2
⇩函館

指定席のシートはキハ261系などと同様のため、座り心地はキハ281特有のものはない。しかし窓側の席に座ると、足元に何かが引き通されているのか、床から壁の低い位置にかけてステンレスの覆いがされた出っ張りがあり、若干の窮屈さを感じることあるかもしれない。

足元の出っ張り 写真は自由席車のもの(2020年8月撮影)

6:00:30、汽笛一声札幌駅4番線を後にする。8番線からは旭川行きのキハ40形普通列車(923D)が同時刻に発車する。あちらには観光用に改造されたキハ40-1790「山明」が連結されていた。

同じ気動車ではあるものの、性能はこちらが格段に上である。しかし、こちらは札幌駅構内のポイントを3回ほど渡るため、すぐにはスピードに乗れない。それでも、札幌駅構内のポイントを渡り終えると一気に加速する。苗穂駅の手前で923Dを捉え、トップスピードに達してもノッチはオフにせず力行を続けその速度を維持したまま、冬至間近でまだ暗い道都の朝を突っ走る。

新札幌6:08:00停車、6:08:50発車。札幌から新札幌を7分30秒で走破。建設中の北海道日本ハムファイターズの新球場の脇を通過するころ、東の空が少しだけ明るみを帯び始める。

エンジンは常に唸りっぱなしで最高速度かそれに近い速度を維持して走る。この列車の1本前を走るのは札幌を5時50分に発つ快速エアポート50号(3820M)だ。札幌発時点では10分ある時差が南千歳では3分にまで縮む。日中のダイヤが過密を極める千歳線内で、(遅延が発生しない限りは)この列車の「頭を押さえる」存在はなく、北斗2号は最高速度120km、制御付き振り子というキハ281系の性能をいかんなく発揮する。以前、東海道新幹線の上り最終列車、のぞみ64号に乗車した時のことを思い出す。あちらも先行列車の影響をほとんど受けることなく、N700系のスペックをフルに活かし、恐ろしいほどのスピードで走っていた。

通過する各駅では本格的な朝の通勤ラッシュを前に札幌方面へ向かわんとする人々が列車を待っている。

南千歳6:27:20着、6:28:20発車。札幌から26分50秒、新札幌~南千歳を18分30秒で走ったことになる。新札幌も南千歳も所定の停車時間は恐らく30秒のはずだが、安全確認を念入りに行っているようで両駅とも若干長めの停車時間となっているようだ。南千歳を出ると右手に新千歳空港のターミナルと滑走路が見えてくる。この時間に離着陸する航空機は無いものの、闇に浮かぶ滑走路や誘導路のランプが美しい。

南千歳発車時点での乗車率は概ね2~3割程度といったところで客層はビジネスマンがほとんどを占めている。そのうち6~7割の乗客は札幌から、残りの大部分は新札幌からの乗車で、南千歳から乗ってきた人は数えるほどだった。2020年のダイヤ改正までは快速エアポート50号は運行されておらず、南千歳から北斗2号に乗るには鉄道以外の方法で南千歳へアクセスしなければならなかったのが改善されたはずだが、効果は限定的のようだ。

苫小牧6:43:25到着、6:44:30発車。ダイヤ上は若干の余裕時分が含まれているようで(時刻表を見るだけでは余裕時分などほとんど無いように見えてしまうが…)、南千歳、苫小牧と僅かながら早着しており、苫小牧では1分ほどの停車となった。逆に言えばそれだけ「本気の走り」をしているということである。苫小牧からの乗車は予想外に多く、乗車率は3~4割ほどになる。客層はやはりビジネスマンが多い。

苫小牧を出ると周囲は完全に明るくなり、景色がよく見えるようになる。糸井を過ぎ苫小牧の市街地や住宅地を抜けると、左手には太平洋、右手には樽前山が見えるようになる。社台周辺では一面雪で覆われた馬の放牧地を線路脇に見ることができる。この付近を含む沼ノ端~白老は鉄道路線の直線距離日本一を誇る区間であり、その線形の良さを利用し千歳線内と変わらず、トップスピードを維持し続けながら走る。エンジンの唸りが止むことはない。

左手に民族共生象徴空間「ウポポイ」が見えると間もなく白老を通過する。この後通過する登別や洞爺もそうだが、ほかの多くの特急列車が停車する駅をも通過する列車に乗っていると、謎の優越感を感じてしまう。その登別ではホームの反対側にH100形単行の普通列車を待たせ、本線の2番線を通過する。鷲別に隣接する室蘭貨物ターミナルを過ぎるころ、久しぶりに大きく速度を落とし、幾つかのポイントを渡ると間もなく東室蘭に滑り込んだ。

東室蘭7:16:45到着。ここでも所定より15秒程度早着となった。東室蘭では運転士が交代する。札幌から運転してきた運転士に代わり、ここから乗り込む運転士が函館まで乗務する。ちなみに車掌は函館運輸所の車掌が札幌~函館を通しで乗務する。東室蘭での乗降は案外少なく、この部分を見ても現在の胆振地区における都市規模や流動の大きさ、中心性は室蘭から苫小牧へと移ったことを実感させられる。

東室蘭では運転士が交代する

1分40秒の停車ののち、7:18:25、東室蘭発車。
発車するとすぐに大きな右カーブを通過する。この曲線部通過による速度制限区間を抜けると加速。その頃左手には製鉄所や、その向こうには測量山が見える。さらに市街地を過ぎると左手には製油所などの工場群や白鳥大橋が見えてくる。右手には国道37号線と少しの間、室蘭の市街地(といっても郊外型のショッピングセンターや住宅地だが)が広がるが、それもほどなく途切れる。すると左前方にはセメント工場や製油所、その奥には白鳥大橋が見え、手前に目をやればそれらの隙間からは室蘭港が見え隠れする。そんな景色が近くに見えるようになれば本輪西だ。この付近まではカーブが連続し思うようにスピードを上げることができない。白鳥大橋の姿が近くに迫ってくるとようやく直線区間に入る。海岸線から離れ、台地の下を貫くトンネルをいくつか抜ける。これらのトンネル群を一通り過ぎると室蘭市から伊達市へと入る。右にカーブを切り、進路を北へとる。室蘭周辺の景色から一変し、左手には太平洋(噴火湾)が、右手には平地が寄り添う。あいにくの曇天で駒ケ岳は見えない。

北船岡周辺では海のすぐそばを高速で通過する

黄金、稀府、北船岡と通過する。ここから先は一部の区間を除いて単線と複線が入り混じる区間となる。一線スルーとなっている駅もあるが、一部の駅では前後の分岐を通過するために速度制限を受ける。複線区間が続き退避設備がある駅でも本線を爆走してきた東室蘭までの走りとは一変する。それでも直線が多く、尚且つ平坦であるため駅間ではやはりそれなりのスピードを出して走る。

右手には白く染まった畑地と国道37号線、その遠く山裾には道央道が見え、さらに右手前方には支笏洞爺国立公園の一部を構成する有珠山、昭和新山が見えてくる。市街地が広がってくると速度が落ち、伊達紋別に停車する。反対側のホームにはH100形3両編成の普通列車が止まっていた。黄金から洞爺までの間は北海道内でも比較的温暖な気候であり、ホーム上の積雪も少ないように見える。

伊達紋別を過ぎても平坦で線形のいい区間を進んでいく。長和付近では左手に火力発電所が見える。それを遠くから回り込むように線路は海岸線へと歩み出る。有珠を挟んで海岸近くを走る区間はどうしても曲線が多くなる。列車の撮影ポイントとして有名な宇宙研カーブはもちろん、北入江信号場も曲線部にある。

洞爺湖温泉への玄関口である洞爺を通過するとトンネルが多くなる。これから先、礼文までの間は1970年前後に海岸沿いの旧線を廃止し、新線として伏線で敷設された区間であり、海岸の近くに直線的に掘られたトンネルを一気に駆け抜けていく。豊浦は始発・終着列車がある駅だが、特急は全て通過する。大岸周辺では雪が激しく降っており、山が近づいてきたことを知らされる。室蘭本線はこの先、海岸から少し離れたところを走る。長万部までの間で静狩峠を越え、道央から道南へと足を踏み入れる。峠越えとはいえ、ほとんどをトンネルで越えてしまうため線路は直線が多く、北斗2号の走りに大きな変化はない。トンネルの狭間にある秘境駅・小幌を通過し今度は峠を下っていく。静狩まで来ると雪は止み、視界もよくなった。そこからは平地を走りほどなく長万部。乗降は数人といったところか。客室乗務員の乗務がなくなり、名物駅弁だった「かにめし」を車内で味わえなくなったのは残念だ。側線に隣接する車庫には函館本線(通称山線)で運用されるラッセル車が休んでいた。

長万部から先、森までは噴火湾を回り込むように平坦な線路を走っていく。雪こそ降っていないものの、天気は相変わらず不安定。車窓の左手には荒涼とした畑地とその向こうには国道、寒々しい噴火湾が見える。

八雲に停車し、ここでも数人の乗客が入れ替わった。落部を過ぎる頃に天気は回復し、ようやく前方に駒ケ岳が見えてきた。落部~森のトンネル内で徐行運転を行ったため、森には3分遅れての到着。ほかの列車であれば、3分程度の余裕時分は設けられているはずで、直接的な遅延にはつながらないだろうが、北斗2号はこのあたりのダイヤは相当タイトに組まれているようだ。

森では鹿部・渡島砂原経由の通称・砂原線と分岐する。これから先、七重までは単線の区間だ。森を出るとすぐに新函館北斗から先、新幹線への乗換案内の自動放送が流れてきた。この放送を聞くと道南へやってきたと感じる。列車は森~大沼の線形の悪い区間へと歩を進めている。森までとは違い、スピード感こそ感じないものの振り子機能を最大限に活かし、車体をくねらせながら進んでいく。左手に大沼・右手に小沼が見えると列車は減速し大沼公園に滑り込む。同じ観光利用が多い登別や洞爺は通過したが、大沼公園に止まるのは時間帯の問題だろうか。

森を過ぎると駒ケ岳が眼前に迫る

天気は良く、道南きっての景勝地である駒ケ岳と小沼も晴天のもと映える。

小沼と駒ケ岳 手前に見える線路は藤城線

大沼で砂原線と合流、今度は主に下りの貨物列車が走行する藤城線と分岐する。小沼を左に見ながらトンネルに入る。そのトンネル抜けるといよいよ遠くに亀田平野と函館山が見えてくる。列車はここから急な勾配を下っていく。蒸気の時代には難儀した「仁山越え」である。森以後、線形上スピードは思うように出せないものの走りは軽やかである。ほぼ平野部に降り切ったところが新幹線との乗換駅である新函館北斗だ。

9:16:25着。9:17:30発。新幹線への乗り換え客らが降りていく。長万部や八雲、森よりも下車客は多い。新函館北斗を出るとすぐ、右側の車窓に函館新幹線総合車両所が見える。出区待ちをしているE5系が見えた。

七飯までは単線だが、函館~新函館北斗の新幹線アクセスを担うはこだてライナーが走っているため電化されており、道内では珍しい「単線電化」の線路を進む。七飯では大沼で分かれた藤城線と合流し線路も複線になる。七飯から先、平坦な亀田平野を終着函館へ向けラストスパートをかけるように駆け抜ける。線形が良い区間で、森までの走りを思い出したかのようなトップスピードかそれに近い速度で走る。

車窓も左正面に函館山、線路の周辺に住宅地が増えてくると線路は上下線が離れていき、その間に五稜郭機関区が広がっていく。DF200型やEH800型が大量に休んでいた。再び上下線と木古内からの道南いさりび鉄道近づき合流すると間もなく五稜郭に着く。

五稜郭を出るとすぐにオルゴールver.のアルプスの牧場とともに終着・函館到着を告げる自動放送が流れる。新函館北斗まで北海道新幹線が開業する以前は、本州方面への特急列車や江差線の普通列車の乗換案内が続いたが今ではそれもない。

列車は車窓に水産会社の倉庫や住宅地を見ながら進む。右側に函館運輸所への出入区線が1本、2本と増え、それらから無数に線路が分岐していくと函館運輸所の車庫や留置線群が見えてくる。そこにはいさりび鉄道のキハ40やキハ261、281系が留置されているのが見える。

函館山の山体が圧迫感を感じるほど大きく見えるころ、列車は速度を大きく落とし頭端式の函館駅7番線へとゆっくり進入していく。

9:32:00函館着。3分ほど遅れての到着となった。

函館到着 隣のホームには函館からの新幹線接続を担うはこだてライナーが停車中
函館運輸所構内に留置されている車両群

札幌から3時間32分(定刻だと3時間29分)、曲線通過時の車体の傾きと独特の浮遊感、高速での走行とそれを維持するためのエンジンの唸り、それでいて揺れは少ない(キハ283系の石勝線での高速走行時よりも揺れは少なく感じた)、キハ281系の走りを堪能できた。

恐らく、遅くとも来年(2023年)の春には札幌~函館の特急は全てがキハ261系での運転となり、キハ281系は引退となるだろう。無論、北斗2号もキハ261系での運転となるはずだ。キハ261系の最高速度は120kmであるものの、振り子や車体傾斜といった曲線部を高速で通過するための機構は装備していないため、所要時間が伸びると思われる。(今後のキハ283系の処遇がどうなるか不明だが)キハ281系は、現段階では北海道に残る最後の振り子付きの120km運転を実施する車両である。そして北斗2号は、その性能をいかんなく発揮して走る。車両が置き換わる前に、ぜひ1度乗っておくことをおすすめしたい列車だ。

※2022年3月のダイヤ改正で東室蘭~函館の所要時間が4分伸びたため、札幌~函館の評定速度は89.8kmに落ちてしまったが、札幌~東室蘭では改正以前と変わらない。


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