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ヨンマルで北見峠を越える


上川駅で出発を待つ4623D

駅間距離日本一——―
在来線のそれを調べてみると厳密にいえば海峡線の木古内ー奥津軽いまべつ間らしい。北海道新幹線と重複する青函トンネルを含む区間であり、事実上新幹線の駅間距離と考えるべきだろう。しかもこの区間を一般の人が在来線の列車に乗って移動するには、(現実にできるかどうかはさておき)豪華クルーズトレインに乗るか、貨物列車に便乗させてもらうよりない。
無論、そんなことは全くもって叶わない。一般人にも乗ることができる駅間距離最長区間はどこか?―—―石北本線の上川ー白滝間である。
この区間には特急オホーツク・大雪が4往復、特別快速きたみが1往復それぞれ走っているが、1日1往復だけ「普通列車」も走っている。しかも老い先短いキハ40形での運行だ。これまで特急で通過したことはあったけど普通列車ではないなあと思い立ち、秋も深まる11月上旬、上川駅へと向かった。

上川駅の外観

外観・内装とも、どこかこじゃれた印象を与える上川駅。層雲峡温泉への玄関口となる駅だけあって、観光客を意識してか山小屋風の佇まいである。改札前の天井からは石北本線開業90周年を告げるフラッグが何枚も吊り下げられている。そんな光景を見ながら待合室で遠軽行き普通列車の改札開始を待っていると、10時55分過ぎ、独特の重厚なエンジン音が聞こえてきた。JR北海道の標準型ローカル気動車として数を増やし続けているH100形とは違うエンジン音。遠軽行き普通列車となる車両が旭川運転所から回送されてきた。

上川駅の跨線橋からこれから越えていく山々を望む

ほどなく改札が始まり、跨線橋を渡って列車が止まっている3番ホームへと向かう。跨線橋からは大雪山系やこれから越えていく山々を望むことができる。11月に入ったとはいえ積雪はなく、曇ってはいるものの時折日が射し、気温も寒さを感じるほどではない。そんな中でほかの旅客に習い、ホーム上で車両や駅名板を写真に収める。

この日の車両は次の通り
←上川
キハ40ー1751
キハ40ー1715
 遠軽→

石北本線の運用に就くヨンマルは基本的に旭川運転所に所属している。これらの中にはタラコと呼ばれる首都圏色の車両や、ツートンと呼ばれる一般気動車色の車両、道東森の恵みや道北流氷の恵みなど観光列車用の改造を受けた車両など様々なヨンマルがいるが、この日は2両ともJR北海道標準色の車両だった。

一通り撮影を終え、車内へと入る。外は寒さを感じないとはいえ、さすがに車内は暖かく感じる。無骨な印象を抱くデッキ付きの車内。青いモケットが張られた4人がけのボックスシート。1両目のそれは半分強が埋まり、それぞれ1~2人ずつ腰かけていた。見るからに旅行者や鉄道ファンばかりで、上川出発時点で地元客と思しき利用は見られなかった。

11時10分。1番線に網走からの大雪2号が到着すると同時にこちらが発車。鈍い加速ながらも、しかっりとした足取りを感じる。

上川の市街地を早々に抜け、山道を進み始める。並走するのは留辺志部川と国道333号、旭川紋別自動車道。ほぼ手付かずの大自然の中、高規格道路の偉容さは似つかわしくなく感じる。国道も十分立派に整備されているように見えるが、通る車はたまに見かける程度で交通量は圧倒的に高規格道路の方が多い。そりゃああれだけ立派な道路だし、冬道でも安全性は勝るだろう。国道や、まして本数の少なく不便な鉄道は利用が少なくなるのは当然だと感じた。

峠越えの手前では線路沿いに雪が。遠くには高規格道路が見える

11時24分。気付けば列車は中越信号場を通過している。ここまで登ってくると周囲の山の高い所だけでなく、線路の周りにも積雪を見て取れるようになる。広葉樹の葉はほとんどが落ち、晩秋というより初冬の様相が強くなる。車窓は空模様と相まって水墨画の世界となる。

峠のサミット・上越信号場まで、まだまだ登り坂は続く。列車はエンジンを唸らせ続けながら、それでも時速40km程度を維持しながら進んでいく。エンジンの出力ではこれが限界なのだろう。廃線なんてことにならなければ、数年後には新型のH100形がこの区間を走ることになるだろう。その時にはどんな走りを見せてくれるのだろうか?見てみたい。

11時34分。石北本線のサミットであり、北海道の鉄道路線(鋼索鉄道を除く)で一番標高が高い地点である上越信号場をゆっくりと通過する。列車は上川~白滝間で、交換可能な信号場を概ね10分おきに通過していくようだ。以前、何かで読んだこの列車の乗車記では各信号場に停車して物資の積み下ろしや保線係員の乗降があったと読んだけれど、今日は行わないようだ。

上越信号場を通過すると分岐器を雪から守るシェルターに入り、そのまま石北トンネルへと突入する。地図で見るとわかりやすいが、これまでクネクネと曲線を通過しながら山を登ってきた線路が石北トンネルへ入った途端、ほぼ直線になる。勾配も下りへと転じ、列車の速度も上がる。エンジン音が止む。連結面の運転席の速度計を見ると時速80kmを指している。走りも幾分軽快になり、時折空気ブレーキ独特のエアを込める音と抜ける音が聞こえてくるようになる。

トンネルを抜けると上川総合振興局管内からオホーツク総合振興局管内へと入っている。それとともに天気や自然環境も幾分変わる。青空が広がり、沿線の畑には土がはっきりと見えておりまだ雪はほとんどない。木々もまだ橙色のものがある。

峠を越えると季節が逆戻りしたような景色に

11時43分、奥白滝信号場通過。5つある白滝シリーズの駅の中で、上川方から来ると最初に通過する場所だ。上川~白滝間約37kmの間に信号場は3か所あるが、この列車は対向列車に遅れなどがなければこれらの信号場での交換は行われない。

車内では旅行者らしい夫婦が談笑していたり、カメラを携えた旅行者や鉄道ファンが車内を左右前後動きながら写真撮影に興じている。先にも書いた通り、この日上川~白滝間では地元客の利用おそらくなかっただろう。そして多分、基本的にそうした利用はないと考えられる。ではこの列車はなぜ走っているのか?答えは簡単で、北見地区で使う車両の送り込みと不定期に行われる釧路運輸車両所へ入場する車両の送り込み、また先に書いたような沿線信号場への人員や物資の補充のためである。
北見地区には北見運転所があるが車両の配置はなく、普通列車に関しては旭川運転所や釧路運輸車両所のものを使っている。こうした車両も定期的に所属している車両基地に戻らねばならない。
また旭川運転所の普通列車用気動車の中には釧路運輸車両所で大規模な点検・整備を行う車両がある。その際、該当する車両を連結して石北本線~釧網本線経由で釧路へと送り込むのだ。
こうした理由もあり、この上川発遠軽行き普通列車・4623D、逆向きの上り4622D(遠軽発旭川行き)は運行されている。
これだけなら客扱いをせず回送列車として運行する方法もあるだろう。しかしそうしないのは、青春18きっぷなどの普通列車利用限定のきっぷを使って移動する人々のためなのではないだろうか?現に、旭川~網走間の普通列車での移動は乗り継ぎが非常によく考慮されている。この列車がなくなれば、道央地区から北見・釧路地区へと旅をするのに難儀することになる。

この列車自体は利用が少なくとも、北見地区や旭川地区の利用者や旅人のためにも必要不可欠な、まさにライフラインのような列車なのだ。そんなことを考えていると、久々に人気のある街が見え始め11時52分、白滝に到着した。時間調整のため8分停車。普通列車が1日1往復のみ且つ駅間距離日本一の区間はここで終わる。遠軽~白滝間の区間列車が2往復ある。ホームに降りてみると日差しもあり寒さは感じない。
ここから先の区間では数少ないながら地元客の利用もあった。

白滝駅で小休止

白滝を出ると概ね平坦な地を進む。速度も時速80km程度の安定した走りだ。下白滝では3分の運転停車。特別快速きたみとすれ違う。日によってキハ54形とキハ150形が使われる日があるが、今日はキハ150形だった。

この辺りでは白滝シリーズも含め4つの駅が廃駅になっており、丸瀬布、瀬戸瀬と駅間距離が長い区間が続く。列車は快調に飛ばして走る。

開けた土地に多数の民家見え始める。左手には願望岩が見え、右手からは北見方面からの線路近づいてくる。ポイントを2回ほど渡り12時41分、遠軽駅1番線に着いた。

遠軽着。2番線には上り旭川行き普通列車・4622Dが

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