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22:火葬炉と温度と時間と寸志

家族に火葬炉の専門的な知識は不要ですが、家族や会葬者が不思議に思ったり時々質問される範囲で書いてみます。

『棺を運んだ台車はどうなるの?』
霊柩車から火葬炉まで棺を運ぶ専用台車を使用する斎場の中には電動で動く台車を置いたまま火葬炉の扉を閉める斎場もある為、台車はどうなるの? 燃えちゃうの? と心配される方もいますが、台車が入るのは火葬炉前室、前室奥にシャッターがあり、シャッターの向こうが火葬炉で棺が乗った火葬台は電動で後方火葬炉に移動させシャッターを閉じてから着火します。

会葬者が炉前からいなくなると一番手前の前室扉を開け台車を引っ張り出して所定の位置に戻します。前室の無い火葬場なら扉の奥は火葬炉ですから棺を火葬炉に入れる際、火葬炉内部が見えるはずです。

『今は煙突が無いんですね』
昔の火葬場は大きな煙突からモクモクと煙が出てる印象でしたが、最近は煙突の見えない斎場光景だからでしょう。会葬者同士の会話で聞かれるのが、
「今の火葬場は煙突も無いし煙も見ないけど何処に行ったのかね?」
「煙は地下から出すんだよ」
「へぇーそうなんだ」
それを聞いた周囲の皆さん納得したように首を縦に振りますが、僕は煙を地下から出す火葬場を知りません。

結論を言うと短い煙突が屋上等にありますが視界に入らないよう設計され、煙は外に出す前に再燃炉(煙を更に燃やす)とフィルターを通して集塵しゅうじんしておりモクモクとした煙や粉じんは見えないのです。

『火葬炉の火は何度くらいですか?』
最近の火葬炉は800℃~1200℃くらいまで火力は上げられますが、火力を上げれば短時間で火葬できる反面、遺骨が焦げる部位も出ますから火葬後の拾骨を考慮すると1000℃以下で火葬する斎場が多いと思います。

『火葬時間は斎場によって違うの?』
火葬時間は60分~90分ほどで斎場毎の設備でも所要時間が違います。また故人の体格、骨密度、死体凍結の有無、棺に入れた副葬品など諸条件によって火葬時間は違います。基本的な火葬時間は50分~60分程で冷却時間と焼骨の整理時間を加え60分~90分となります。

過去の経験では身長185cm体重150㎏の故人の火葬は拾骨まで2時間以上掛かった記憶があります。火葬時間が短い斎場は『ロストル式』か『火力が強い』可能性もありますが大多数の斎場は比較的焼骨を綺麗に残せる『台車式』だろうと思われます。

『火葬場担当者への寸志』
結論から言うと『全国何処でも寸志は要りません』公営斎場なら寸志不要の旨を掲示してあるでしょうが民間であっても寸志は要りません。

旅館に到着し部屋に通されると仲居さんに渡す寸志――、『よろしくお願いしますね』『良い対応してくださいね』という感覚なのでしょうが、日本国内に於いて寸志で扱いが変わる事はなく、あっては成らない事です。

かつて市内2つのホテルで婚礼美粧を行っており、式の当日は「お世話になります」と両家から美粧室オーナーである僕個人に1万円づつの寸志が当り前で5件あれば1日で10万円小遣いが増えるわけです。余りお金に執着はなく頂いた寸志は各着付け室の責任者に着付け室で使うよう渡しましたが、ある時、偶然着付室の前を通ると相手により態度が違うスタッフを発見、責任者に確認すると寸志の有無が原因だろうとの回答でした。

その日のうちに頂いた寸志は全て集め仕事に入った全員で均等に分けるよう変更してから、態度を変えるスタッフは居なくなりましたが、そんな馬鹿げた現実が自社内で起きてた事に驚きと怖さを感じたものです。

日本はチップの習慣がありませんから、全家族が寸志を渡すわけではありません。しかし貰う側の人間は貰い慣れたら、貰って当然と思うようになり、貰う、貰わないで態度を変えるスタッフが出ても不思議ではありません。

相手により態度を変える事が当然の空気になれば「あのホテルは寸志を渡さないと綺麗に着せてくれない」的な評判が立ち、長い目で見れば自分の首を絞める結果になります。

同じような悪習は葬儀業界にもありました。今でも葬儀屋の担当者、霊柩車の運転手、火葬場の担当者などに心付けを渡すのが当然と伝える葬儀屋もいるようですが、そうでなくても胡散臭い葬儀業界ですから『悪習慣廃止』と『健全な業種の確立』に向け心付けの授受をすべきではありません。

我が家に良くして欲しいと思って行う利己的な行動、多くの家族が嫌な思いをするきっかけを造り出す行動、日本に於ける寸志はチップ慣習とは異なり事前に渡すため少額の裏金とも言えます。裏金を渡さなければ普通の対応がなされないなど誰もが必ず迎える葬式だからこそあってはならないのです。

過去のホテル経験から『蟻の穴からつつみも崩れる』の現実を学びました。精一杯故人の弔いを考える家族の心は理解できますが、それがいては自己、自社、業界の首を絞める結果になると戒め『寸志は受け取りません』と公言し、家族は『出しません』と統一すべきだと思う。

ポチ袋に入れた寸志をだされると「あー、うちは帯の掛ってる札束以外は受け取らねぇんだよなぁ、十文字の帯なら喜んで受け取るけとるけどね』と笑って言うと大抵の人は苦笑しながら引っ込めてくれます。

わずかな寸志で気持ちだから――、と思われるかもしれませんが、葬式の度に貰ったらいつか当然と思うのは僕も一緒です。相手によって態度を変えることなく対応する葬儀屋が良いと思うなら自身が悪習慣を止めることです。

仮に葬儀屋、担当者に感謝の気持ちを伝えたいと思うなら最短でも葬式後、出来れば日を変え個人でなく葬儀屋、葬儀社に「誰々さんには本当にお世話になりました」と気持ちの品を渡しては如何でしょう。

ど素人から出発し15年経った今も胡散臭いと感じる葬儀業界と葬儀経営者の多くは好きでなく個人的に付き合う気もありません。健全な業界になるためにも、明確な料金設定、明確なプラン内容、明瞭な追加発生条件の明示、当り前のことを当り前に行う事で得られる信用を築き上げるべきです。

自分は葬儀支援に誇りを持って続けても、一般の人達から見れば業界人ですから『胡散臭い』『信用できない』『尊敬できない』と思われてるだろう。でも生きる人達、働く人達が誇りを持てない業界、会社では駄目でしょう。

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参考資料(お時間のある時にでも読んでみてください)
あんしんサポート葬儀支援センター  
代表ブログ 葬儀支援ブログ「我想う」
家族の死後に後悔しない為の一冊

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