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なぜ今、再びグリーンテックへの注目が集まっているのか? 【気候変動Vol.2】


ANRIは、「未来を作ろう、圧倒的な未来を(Make the Future AWESOME)」をビジョンに掲げて投資・支援をおこなうベンチャー・キャピタルです。

本連載では、量子コンピューターや気候変動、ロボットなどのディープテックと呼ばれる最先端の技術や研究、それらが解決すべき社会的課題から「圧倒的な未来」を考えていきます。

人類が抱える問題に向き合う研究者や起業家、投資家などのインタビューを通じて、私たちの未来を紐解いていきましょう。今回のテーマは、前回に続きまして「気候変動」です​。


前回、気候変動への関心が高まっている理由についてANRIのジェネラル・パートナー 鮫島昌弘へのインタビューをお届けしました。(前回の記事 #1
今回は、なぜ今グリーンテックに注目が高まっているのかを語っていきます。
(聞き手:石田健)

鮫島さん4

── 前回、今が気候危機だという話をお聞きしましたが、その中でグリーンテックという言葉も出てきました。実はこのグリーンテックに関しては、2000年代前半にも関心が高まった時期がありますよね?

そうです。2006年、僕が大学生だった時ですが、アル・ゴア元米副大統領によるドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開されて見に行ったことを覚えています。

2007年には、Kleiner Perkins(クライナー・パーキンス)というベンチャーキャピタル(VC)の会長をつとめるジョーン・ドーアが、TEDトークで環境問題について語っています。最近では、OKRという目標管理に関する手法で知られている、GoogleやAmazonなどの初期投資家ですね。

現在はクリーンテックと呼ばれますが、当時はグリーンテックという言い方をしていました。

── 2000年代前半は、どのような企業に投資が集まっていましたか?

例えば、太陽光関連のSOLYNDRA(ソリンドラ、2011年に米連邦倒産法11条を申請)やEvergreen Solar(エバーグリーン・ソーラー、同じく2011年に米連邦倒産法11条を申請)、バイオ燃料のSapphire Energy(サファイアエナジー)などがあります。

しかし太陽光もバイオ燃料も、当時は非常にコストがかかる問題を抱えていました。またベンチャー投資の視点で考えても、多大な資本投下が必要となり、企業の成長までに時間がかかる事情もあったため、大半が失敗してしまいました。

── オバマ政権1期目となる2009年頃は、グリーンニューディール政策が注目を集めていましたね。

そうです、しかしその頃の企業の多くが失敗してしまった傷痕は、アメリカにとって大きかったと思います。

── なるほど。当時は太陽光パネルそのものなどのハードウェアをつくるベンチャー企業が中心で、現在では出力やコスト、送電などを調整するソフトウェアを開発するベンチャー企業が生まれているイメージですか?

そうですね、当時はゼロイチで物づくりをするケースが多かったと思います。10年が経過して、太陽光パネルなどハードウェアのコストが下がり、物自体が普及し始めたため、ソフトウェア開発をおこなうスタートアップが出てきた背景があります。

イシケンさん4

── なるほど。コストや技術以外にも変化したポイントはありますか?

1つは、第1回目で話した内容とも重なってきますが、機関投資家やVCなどの変化があります。お金の出し手がESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した投資に力を入れ始め、その中に気候変動のようなテーマが具体的に掲げられてきました。

気候変動に関して、投資家の層が厚くなってきたこともあります。例えば、再生可能エネルギー分野に投資するビル・ゲイツなどによるファンド Breakthrough Energy Ventures(ブレイクスルーエナジーベンチャーズ)や、難易度の高い技術に投資するマサチューセッツ工科大(MIT)の The Engine Fund(エンジン・ファンド)などがあります。これらは、エネルギー問題のような重たくて時間のかかる課題に対して、特化型ファンドをつくっています。

またTwitterやUber、Instagramなどの投資家として知られ、投資リアリティー番組『Shark Tank』にも出演していたクリス・サッカによる、脱炭素に特化した Lowercarbon Capital(ロウアーカーボン・キャピタル)などがあります。

ジェネラルな分野に投資するVCの動きも見逃せません。アメリカの東海岸系のVCでは、Coinbase(コインベース)などに投資してきた Union Square Ventures(ユニオン・スクウェア・ベンチャーズ)も力を入れていますし、西海岸系の Sequoia Capital (セコイア・キャピタル)や Kleiner Perkins も同様です。

もう1つは、消費者など製品を使う側の感覚の変化も大きいと思います。Tesla(テスラ)の自動車や Beyond Meat(ビヨンド・ミート)の製品などの影響は大きいはずです。たとえば Beyond Meat は、植物由来の人工肉を製造・開発しています。日本人からすると、まだ人工肉には違和感があるかもしれませんが、アメリカでは脱炭素という文脈も含めて受け入れられているのではないでしょうか。

── 畜産と地球温暖化の関係については、様々な視点から議論されていますね。

そうです。牛の放牧で多数の水や穀物などが使われていますし、牛から排出されるメタンガスも問題視されています。この問題意識が消費者にも広く共有されて、脱炭素と関係する商品が選ばれる事情はあるでしょう。

企業自身がこうした問題に取り組む動きもあり、Amazon は20億米ドル規模の Climate Pledge Fund(気候変動対策に関する誓約のための基金)を立ち上げています。この背景には、自分たちもこの問題を引っ張っていくべきだという従業員の関心もあるはずです。いわゆるZ世代の関心の高さは、強い影響力を持っていますね。

こうした動きを受けてか、経営者や成功した起業家の意識にも変化が見られます。Salesforce.com(セールスフォース)創業者のマーク・ベニオフによる最近の著書『トレイルブレイザー』 が出版された時、自分は「SaaSの立ち上げ方か何かの本かな」と手にとったら、内容が良くも悪くも期待を非常に裏切るものでした。彼自身のポジショントークはあると思いますが、自分たちが「社会に変える責任を放棄してはならない」というメッセージを強く発信しており、こうした傾向は確実に強まっています。

成功した起業家たちが、より率先して社会課題を解決していくんだ、という姿勢をはっきりと見せるようになりましたね。

── そうですね、Z世代を始めとした若い世代の従業員や消費者はもちろん、リーダー側のコミュニケーションも少し変わってきた感覚があります。

日本では、渋沢栄一などは早い段階から社会への貢献という意識が高かったと言われますが、おそらく昔はそうした感覚が社会にも根付いていたのではないかと思います。

失われた20年(1990年代から2000年代の景気低迷)の間で、アメリカ型経営にシフトしたことで、企業経営の中で社会という意識が弱くなっていったのかもしれませんね。「会社は誰のもの」などの議論もそうですが、社会という視点がごっそり抜け落ちた時期があり、それが再び戻ってきた感じがしています。

── 社会の動きと技術、投資が噛み合いはじめたのかもしれませんね。

そうですね。もう1つ重要なのは、先ほど述べたような太陽光パネルの企業やジェット燃料をつくるような企業は、失敗した企業も沢山ありますが、生き残っている企業もあるということです。

最近では、全固体電池(電解液を用いずに電極間を固体で繋ぐ電池)で有名な QuantumScape(クォンタムスケープ)という企業は、ビル・ゲイツが投資しており、SPACで上場しましたが、彼らは2010年の創業です。今、頭角を現してきた蓄電池系・バッテリー系の企業は、ここまで10年くらい経過しています。つまり、全部が全部失敗したというより、時間がかかっているという事実も抑えておきたいです。社会と投資が噛み合うには、そのくらいの時間が必要かもしれません。

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── なるほど、そのとおりですね。具体的に注目されている企業や分野はありますか?

これからのエネルギーをどうしていくか?という議論が進んできた時、まずは太陽光や風力など再生可能エネルギーが議論の柱になってくると思います。その意味で、それらを底上げするようなテクノロジーが求められていき、太陽光パネルや風力発電の効率を上げるような技術が大事ですね。この分野では、2006年にイスラエルで生まれた SolarEdge(ソーラーエッジ・テクノロジーズ)という企業があり、発電効率を最大化するための技術を展開しています。

再生可能エネルギーには他にも地熱発電などもありますが、Google Xプロジェクト(Googleの野心的プロジェクトや次世代技術の研究開発を担う部門、現在は Alphabet 社の子会社Xとなっている)からスピンアウトした Dandelion Energy(ダンデライオン)という企業もあります。彼らは地熱を利用した一般家庭の住宅向けに冷暖房などのエネルギーサービスを提供しています。こちらは、先ほどのビル・ゲイツなどによる Breakthrough Energy Ventures などから累計65億円を調達しています。

また太陽光も風力も、発電できている時間帯に電力を貯めておく必要があります。太陽光であれば晴れと曇りで、風力であれば風の状態によって発電量にムラがあるからです。この蓄電という視点で考えた時、バッテリーは今後かなり大きなトレンドになってくると思っています。この分野ではEV/産業用リチウムイオン電池を開発するスウェーデンのNorthvolt社に注目ですね。

再生可能エネルギーの効率化とバッテリーの2つは、日本でも投資を進めていく必要があると思っているのですが、その他にも目を向けるべき分野はあります。

実は、セクター別のCO2排出量を考えた時に、輸送や製造業、食べ物など農畜産業の分野から排出されている割合は非常に高くなっています(下図)。つまり1つの分野だけに投資するのではなく、全ての領域でCO2削減を進めていかなければ、到底2050年までの目標は達成できません。

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出典:https://ourworldindata.org/emissions-by-sector

製造業からのCO2排出という文脈では、 CO2排出を抑えた製鉄技術を有する Boston Metal(ボストンメタル)というベンチャー企業があります。鉄鋼生産は現代社会にとって不可欠な産業でありながら、多大なCO2排出量を十分に削減できていなかった背景があります。この企業には、先ほどの Breakthrough Energy Ventures や The Engine Fund などが支援しており、累計で約80億円を調達しています。

さらには、CO2を大気から直接取り除いてしまうDAC(Direct Air Capture)という野心的な技術がありますが、この分野でもベンチャー企業が生まれています。2009年にカナダで生まれたCarbon Engineering(カーボンエンジニアリング)は累計で110億円を調達しており、同じくカナダで2007年に生まれたSvante(スヴァンテ)も同額程度の大型調達を果たしており、期待も集まっています。

このようにエネルギーに限らず、様々な分野で企業が生まれて投資が進んでいるのが現状です。ビル・ゲイツも各分野で10企業ずつくらい投資をおこない、そのうち1つでも技術的なブレイクスルーがおこったらインパクトが大きいと考えているようです。

── なるほど、電気の分野に注目が集まっていますが、それ以外も重要になっていきそうですね。

そうです。トランスポーテーションという意味では Tesla がいますし、先ほどの農畜産業という意味では Beyond Meat がいますが、今後はマニファクチャリング(製造業)の分野でも投資が進んでいくでしょう。例えば製鉄はCO2 を多く排出してしまいますが、この問題を解決しなければ脱炭素は難しいはずです。つまり、こうした分野にも新たな技術やベンチャー企業が求められています。

現状で注目が集まっている企業は、電気やトランスポーテーションの分野に多いですが、これから製造や農畜産業に注目が集まっていくはずですし、課題として向き合っていく必要がある分野です。

── 日本がこうした分野を伸ばしていくためには、政策の動きも重要ですね。

そう思います。アメリカに限らず、ヨーロッパや中国などは巨額投資を進めていくはずなので、彼らに置いていかれないことが重要です。

それから重要な点として、基礎研究から社会実装までのプロセスで、どのように投資を入れていくかという問題があります。基礎研究への投資も重要ですし、例えばトヨタのような大企業による投資も重要です。しかし忘れられがちなのが、その途中のプロセスです。日本は、基礎研究から社会実装までの間でお金を入れるのが苦手だと思っています。基礎研究で生まれた技術が社会で使われるまでに、それを製品化・実用化するための資金が集まらない「死の谷」があると言われますが、そこを解決しなければいけません。

アメリカには、エネルギー省の中にARPA-Eというプログラムがあるのですが、ここが投資をおこなっており、ここのフェーズを担っている側面があります。日本でも基礎研究と大企業を架橋するような動きが必要ですね。

── 日本ではそれをVCが担っていくことになりますか?

もちろんVCもそうですが、僕らだけでは難しいので、今後国との連携はますます重要になってくると思いますね。

── ありがとうございました。

本インタビューを最後までご覧いただきありがとうございます。

ベンチャーキャピタルANRIでは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」をビジョンに、投資を通じて、より良い未来を創ることを目指し活動しております。
気候変動や環境問題に取り組んでいる研究者の方、このような社会課題を解決していきたいという志しの高いベンチャーキャピタリスト志望の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。

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ANRI採用情報

鮫島 昌弘
ANRI ジェネラル・パートナー
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程卒業後、総合商社、技術系ベンチャーキャピタルを経てANRIに参画。全国の大学や研究機関発の技術をもとにしたハードテック領域のスタートアップを積極的に支援。
主な投資先はCraif、GITAI、Jij、Jiksak Bioengineering、QunaSys、ソナス、ヒラソルエナジー等。

石田健(イシケン)/ インタビュアー
ニュース解説者/The HEADLINE編集長
大学院での研究生活を経て、2015年には創業した会社を東証一部上場企業に売却。 現在は個人としてYouTubeやTV、雑誌などでニュース解説をおこなう他、IT企業の経営やエンジェル投資家として活動中。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程(政治学)修了。

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