女性起業家が億万長者になったら、お金をどう使う?
プロローグ
ANRIの川口(@_nashi_budo_)です。「女性起業家が億万長者になったら、お金をどう使う?」という問い自体に面白さを感じてしまうのは私だけでしょうか?男性起業家がエグジットして、莫大な資産を手に入れた絵に容易に想像できます。お金を何に使うか、どのような生活スタイルに変容するかイメージが湧くような気がします。しかし、男女を入れ替えただけなのに、こんなにも想像するのが難しくなるということ自体が興味深いです。実は、この問い、昨年開催した男女の比率を意図的に逆転させた社会実験イベントで、エグジットした女性起業家に向けられた問いだったんです。
このブログは、3/8の国際女性デーに合わせて書いています。国際女性デーが3月8日の理由。 それは1904年3月8日の婦人参政権のデモに由来します。 その後、女性の権利を守りジェンダー平等の実現を目指すため、1975年に国連により定められました。ほんの120年前は女性が選挙権すら与えられなかったなんて信じられないですよね。今回は、国際女性デーということに託けて、上述の社会実験についてお話したいと思います。
男女の比率を逆転させた「社会実験」
昨年の10月、男女の比率を意図的に逆転させた社会実験的なクローズドイベントを開催しました。マイノリティ/マジョリティ双方が普段の構造のアンバランスさを肌で感じてもらうことが、このイベントの最大であり唯一の目的でした。ただ、その体験だけではなく、思わぬ発見がいくつもありました。
事の始まり
このイベントは、さくらインターネットの代表取締役社長の田中さんと一緒に企画したイベントです。田中さんは、エンジェル投資を40数社行っており、弊社も数社重なっている投資先があるというご縁もあり、田中さんのエンジェル投資先の合宿に呼んでいただきました。その合宿では、9割が男性起業家。ご自身の投資先に女性が少ない問題、そして、スタートアップ業界に目を向けると、DE&I推進の流れがあるものの、女性はモデレーターだけだったり、女性登壇者もジェンダー関連の話題の枠に入れられたり、と形だけのダイバーシティー推進に問題意識を抱えていたそうです。
そこで、「女性」や「ダイバーシティー」の話に集約せず、構造的なおかしさに焦点を当て、単に男女比率が入れ替わっただけの、ただただ経営について語る会として回す、という今回のイベントの案が生まれました。
女性は「女性」冠が嫌い
今回の社会実験を設計する上で、一番気を使ったのは、『女性は「女性」冠が嫌い』という点です。ただ、短絡的に「女性」をたくさん集めてみました、というイベントにはしたくはありませんでした。優秀な女性経営者を集めるためにも、彼女たちをただ「女性起業家」として有徴化した呼び方で扱うことは絶対にしないというルールを決めました。上述の通り、女性活躍、ダイバーシティー推進の流れがありますが、この文脈での注目が苦手な女性起業家の方はたくさんいます。そして、実力のある方ほど「女性」だからイベントに呼ばれる、取材を受けることを嫌います。下駄を履かせられている感覚を気持ち悪いと。「起業家」として評価されたい、実力で評価されたい、という気持ちは理解できるものです。
このルールが功を奏して、非常に優秀で成功している女性起業家にご参加いただくことができました。個別名は伏せますが、IPOまたはMAでエグジット済みの女性経営者4名、数億、数百億調達している女性起業家4名にパネラーとしての登壇依頼をご快諾いただくことができました。
逆転演出のための細かい設定
コンセプトはシンプルで、女性が多く、男性が少ないイベントです。定量的には8割が女性、2割が男性です。しかし、企画が進んでいく中で男女比率を逆転することって案外難しいことに気づきました。
まず参加者を集める段階で障壁がいくつも出てきました。
「女性」を打ち出すと実力のある方ほど敬遠する
お子様がいる女性起業家が多く、家庭と折り合いの付け方が難しい
女性が多い環境でも気後れしない男性参加者の選定が難しい
1点目について。前章でお話したルール、「実力のある女性」に来てもらう仕組み・イベントとして見せ方・伝え方を工夫しました。まず、イベントのコンテンツは、ダイバーシティー推進、女性活躍等の話はあえてせず、経営の話に終始焦点を当てました。さらに、社会実験的側面を強調して説明し、実験の参加者であり、オブザーバーとして興味を持ってもらえるような伝え方を意識しました。
2点目は、女性を週末のイベントに呼ぶことの難しさへの対処。臨時託児サービスを用意し、専業のシッターさんに来場者のお子様を見ていただく準備をしました。
3点目については、比較的若年で関係性が一定度ある男性を招待し、イベント中は運営が都度話かけ、不快感や疎外感を感じすぎていないかケアをするようにしました。普段の男性が多いイベントでは気を遣っていなかったところで障壁が多いと気づくことができました。男性がマジョリティということが当たり前の前提で、色んなイベントが設計されていることに気づきました。
結果的に、普段表に出ないような名だたる女性経営者にご参加いただき、無事実験のセットアップが完了しました。普段の男性がマジョリティーのイベントでは、パネラーが中年男性4名、モデレーターが若手女性1人というケースをよく見ると思います。アンバランスさ、無理矢理感に気持ち悪さを感じていたので、「パネラーを全員女性に、モデレーターをベテラン男性」にめでたく置き換えることができました。こうして、男女比だけが逆転したこと以外は、「普通な」スタートアップイベントのセットアップが完成しました。
男性は、取り残されて「居心地の悪さ」を
実験結果です。男性参加者は、初めて「居心地の悪さ」を体験できたと口を揃えて言っていました。普段よりも周囲の人に話かけづらい、男性だけで固まってしまう、普段のギャグやノリが通じない、女性経営者に対してオドオドしてしまう、と感じたそうです。これはまさに意図していた実験結果でした。同時に、女性やマイノリティの方たちって毎回こんな気分を味わっているんだな、と初めて身をもって理解した方が多かったみたいです。
女性は、普段の普通に「違和感」を
女性側の感想は、よりメタ的な視点が多くてとても興味深かったです。まず、空間が作り出す雰囲気に対して、安心感を感じ、自信を持って、本来の自分自身で発言することができた、という声が多かったです。普段の男女比率のイベントに違和感を抱くことができ、普段の普通に慣れてしまっていることへの恐怖を感じた、と。また、マジョリティを体感することで、インクルーシブな振る舞いのあり方を考え直したという踏み込んだ感想をいただいた方もいました。
私たちは女性でありマイノリティであることは間違いない
イベントのコンテンツとして、ダイバーシティーに関するトピックを設定してなかったのにも関わらず、ディスカッションは、セクハラの話、家庭の話、不妊治療の話など普段見せないプライベートの葛藤・苦悩についての議論が盛り上がったのは意外でした。「女性」として取り上げられるのは嫌だが、やはり「女性」特有の苦悩はある。それは弱さでも悪いことでもなく、ただただ議論したり吐露する場がないんだなと分かりました。
とある参加者の女性経営者が、『「私たちは女性でありマイノリティであることは間違いない」というスタート地点に立たないと、戦っていくことは難しいと思う』と発言していたのが、印象的でした。
形から入ってもいいんじゃないの?
私たちANRIは2020年より女性起業家への投資比率を20%にする、と目標を掲げました。この目標設定については、様々な方から厳しいご意見もいただいています。表層的だ、投資リターンが下がったらどうするんだ、など。
でも、今回の社会実験を初めとして沢山の施策を打ってきた中で、この一見表層的で形式的な目標は正しい意思決定だと考えています。まずは、形から入ってもいいんじゃないの?と思います。社会実験では、マジョリティとマイノリティの比率を入れ替えるだけで、現実世界と私たちが思い描く世界との乖離が沢山あることに気づくことができました。
120年前に女性が参政権を獲得して、選挙に参加することが女性にとって当たり前になったように、女性の起業が当たり前になる世界が到来して欲しいと強く願います。「女性起業家」という言葉がなくなり、全ての起業家が「起業家」と呼ばれる日が来ることは近いと思います。
女性投資プログラムを始めます
女性起業家に特化した投資プログラムを始める予定です。国内で女性起業家を支援する団体はありますが、投資(=お金)する団体は多くはありません。ご興味がある方に優先的にアップデートさせていただきますので、ぜひこちらのフォームにご登録ください。