ARCH Bob Nelsenの投資家キャリアの始まり
ANRI 宮崎です。前回の記事では米国を代表する、研究開発型スタートアップに投資するVC ARCHの投資家Bob Nelsenについて書きました。彼の代表的な投資先にゲノム解析技術を開発するIlluminaがあります。Illuminaの上場時の資料にディープダイブすると、Bob Nelsenの投資哲学を理解するための手がかりがたくさんあります。
時代を先取る尖った技術で上場したイルミナ
Bob Nelsenの強い興味は生物学にあります。Aviron という経鼻インフルエンザワクチンを開発していた企業(同社は1996年にIPO。最終的にはMedimmuneに買収され、AstraZenecaに2001年1.5B$で買収されました)を皮切りに多くの実績を積み上げてきました。
そんな中、彼の代表的なIlluminaという案件に出会いました。当時、Affymetrixという企業がDNAチップの実用化を行っていましたが、Illuminaの創業陣は光学技術を活用することでそれを凌駕する方法を目指し開発していました。光学技術に興味を持っていたBob NelsenがIlluminaの創業陣に出会いました。彼はシード出資時の1998年からBoard Memberとして関与し、彼が36歳になった2000年に上場しました。2000年上場後も成長を続けたIlluminaによって、現在は1000$以下でゲノムが読める時代になりました。
Illumina
創業: 1998年4月、
売上: 1998年 0$。1999年 474K$。
資金調達: 1998年 シリーズA 750K$ & シリーズB >8M$、2000年 シリーズC 28M$ & IPO
興味深いことに、Illumina社の上場時の記載から、ほぼ同時期に上場したCaliper Technologies Corp.にもBoard Memberとして深く関与しているのが分かります。
Robert T. Nelsen has been a Director since June 1998. Since July 1994, Mr.
Nelsen has served as a senior principal of venture capital funds associated
with ARCH Venture Partners, a venture capital firm, including ARCH Venture FundII, L.P., ARCH Venture Fund III, L.P., and ARCH Venture Fund IV, L.P. From April 1987 to July 1994, Mr. Nelsen was Senior Manager at ARCH Development Corporation, a company affiliated with the University of Chicago, where he was responsible for new company formation. Mr. Nelsen is a Director of Caliper Technologies Corp. (Nasdaq: CALP).
Caliper Technologies Corp.は1995年創業で、1999年にNasdaqにIPOをしています。Oak Ridge National Laboratoryのライセンスを受けたlab-on-a-chip技術に特化し、製薬企業等の事業会社の研究機器としての事業を進めていました。lab-on-a-chipとは、実験等で従来は人が手を使って行っているものを、設計したマイクロ流体デバイス上で行うものです。化合物を混合したり、反応経路等を制御したり、シグナルの検出を実施したりと、自動化されたタスクとして機械的に制御することを目指したものです。
Caliperはそのlab-on-a-chip技術を事業化する最初の会社として立ち上がり、George ChurchやGeorge Whitesidesといった今でも超大御所研究者を巻き込んでいる企業であり、当時として技術としての尖った魅力からか、IPO時にはRocheやDow Chemicalとは資本関係を持っていました。Bob Nelsenは、1995年から Board Directorとして携わっていました。(上場後のCaliperは2011年にPerkinElmerに600M$で買収されてます。)
Caliper Technologies Corp.
創業: 1995年、
売上: 1997年 2.27M$。1998年 8.16M$。1999年 8.86M$(9month)。
資金調達: 1996年 シリーズB 6.7M$、1996年 シリーズC 10M$、1997-1998 シリーズD 19.3M$、1998年 シリーズE 7.4M$
Bob Nelsenの投資思想に影響を与えた戦友
Illuminaでも深く関わっていたCaliperでも立ち上げに強く関与していた人がいました。IlluminaのBoard member構成・仕上がりシェアの記載からも、14.5%のARCHよりもシェアを持ちつつ 、Company Creationに深く関与した人物であることが分かります。
CW Group所属であり、Lawrence A. Bockという人物です。Bock自身の考え方はUCバークレーで彼が行ったCommencement speech(卒業式のスピーチ)でも垣間見えます。彼自身は医師になりたかったそうですが入学できませんでした。そんな時に、Genentechの早期に参画することになりました。そこで、科学のアイデアを優秀なチームと資金によってビジネスに結びつけることに向いているのに気づいたのがキッカケでベンチャーキャピタリストとしてのキャリアを歩んできました。
そんなBockがNelsenにとって、本当に大事な戦友であったことは彼のコメントからも伺えます。
According to Arch Venture Partners co-founder Bob Nelsen, Bock had an “amazing ability to ignore all of the conventional wisdom, and maintain a singular focus, and to get all of the best people together—even when they were arch-rivals… He could get people to paint the fence.”
“I have never had more fun starting a company than when we were tooling across the countryside in New Jersey with Mike Knapp, starting Caliper,” Nelsen recalled. “I loved [Bock’s] sense of humor. He was serious, but he saw humor in everything. He had great fun doing his companies. It was always a lot of humor and drive.”
In 1998, Nelsen recalled, “People thought we were crazy” to apply optics to genotyping when Affymetrix and its solid phase arrays represented the dominant technology at the time.
初期のBob NelsenはLarry Bockというパートナーと一緒に重要な投資先のIlluminaとCaliperを上場まで導きました。光学技術を用いて遺伝子情報を読むというのを世の中の当たり前にしたIllumina、マイクロ流体デバイスをバイオ応用する先駆的企業のCaliperは、両者とも工学系の技術でバイオ・製薬産業にアプローチをしているという共通点があります。欧米のバイオ系に投資するベンチャーキャピタルの多くが薬のパイプラインに注力する中でも、ARCHは積極的に新しい先端技術の社会実装を目指す会社にも多く出資しています。Bob Nelsenの最初の大型Exit群の考え方・経験は今でも彼の投資判断・思考に大きく寄与しているのかもしれないと思っています。
まとめ
今を代表する技術系ベンチャーの投資家のBob Nelsenは、まだベンチャーキャピタルが今ほど米国でもメジャーでなかった時代に、スタートアップ・ベンチャーキャピタル(VC)が大好きなシカゴ大学MBAの学生が"VC新卒"というキャリアとしてスタートしました。代表的なExitの1つであるIlluminaはNelsen氏にとって30代後半の案件です。入社から15年程度が経過した成果であり、好きな仕事を長く続けるということの1つの例かもしれません。初期の代表的なExitにおいては、実は彼以上にリスクを取って事業立ち上げに貢献している先駆者(Larry Bock)の存在がキャリアに大きな影響を与えているのではないかと思っています。
おわりの言葉
GenentechにKleiner Perkinsが投資したのが1976年。大学・研究所の技術スタートアップに積極的に投資するARCHが設立されたのが1986年。何十年の積み重ねの中で様々な技術スタートアップが生まれ、それらに幾つものベンチャーキャピタルが携わってきた結果として、現在の米国のスタートアップとその周辺の姿を構成しています。どんなベンチャーキャピタル・投資家がいるのか、そして、どういうキャリア・考え方を持っているのかを今後も少しずつご紹介していけたらなって思っております。Larry Bockも述べているように、”人”が大事であり、日本でも色々な"人"が技術スタートアップ界隈にも参加して欲しいと思っています。
ベンチャーキャピタルANRIは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンのもと、インターネット領域をはじめ、ディープテックやライフサイエンスなど幅広いテクノロジー領域の大学発スタートアップにシード期から投資を行っております。
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