Spinout Playbook 日本語版(後編)

ANRIの宮﨑です。前編に続いての後編になります。前編同様、翻訳の許諾を得ておりますので、安心してお読みください。
以下の原文も是非お読みください。


5. Spin Outの準備について

TTOは、provisional patent出願後に、興味を持つ可能性のある企業等に対して発明のマーケティングを開始することがよくあります。「公正でオープンなアクセス」を確保し、non-provisional applicationの出願前に商業的な興味を知るためにTTOはリサーチするのです。ターゲットとなる企業の特定の人物に連絡を取ったり、スタンフォード大学のTechFinderのような公開データベースで「買い物を探す」こともあります。これには神経を使うが(「やばい、誰かが私の赤ちゃんを取ってしまうかもしれない」というような)、大部分の特許(70%から95%)はこの方法ではライセンスされることがありません。また、米国の優秀なTTOのほとんどは、自分らの大学・研究所からのSpin Outへのライセンスを強く希望しています。なので、交渉しましょう!

TTOとの交渉

まず、誰が交渉をリードするのかを確認しましょう。多くの大学は利益相反のポリシーで学生や職員が大学に在籍したまま交渉することを認めていません。わからない場合は、大学の利益相反(COI)の担当オフィスに連絡して、自分自身が直接交渉できるかどうか確認してください。もしできない場合、あなたは退学するか(そうすればあなたは学校関係者ではなくなります)、ライセンスの金銭面等の条件交渉してくれる人を見つける必要があります。これは、大学とは無関係の共同創業者、またはあなたの代わりに交渉してくれる第三者(弁護士、顧問、投資家)が考えられます。大学に在籍したまま法人化し、大学が認める条件の下でコンサルタントとして活動することもできます(例えば、ハーバード大学では可能です)。

TTOとの将来の良好な関係を重視するために、法律事務所はスタートアップ側と方向性が揃わないことがあるという考え方があります(そして、実際そうです!)。しかし、優れた法律事務所は、スタートアップ企業との評判も気にしています。さらに、ライセンス契約は、法律事務所がスタートアップと一緒に仕事をする際に収益の大半を上げるところではありません。法律事務所は、そのスタートアップが単に生き残るだけでなく、多くの資金を調達をして、うまく事業を進めて、その会社が将来的に自分たちのためにもっと多くのビジネス機会を提供してくれるようになることを望んでいるのです。優秀な弁護士は非常に有用ですが、特に時間給で請求する場合は、コストがかかります。起業家⇔弁護士⇔TTOという余計なコミュニケーションは、物事を遅らせたり、不必要な逆境を招いたりしますが、最終的には心の安らぎを与えてくれるでしょう。

弁護士は、TTOとの関係を維持するために、TTOとの「強硬手段」を躊躇することがあります。 そのような場合、創業者は、弁護士に強硬手段をとるように働きかけるべきです。

弁護士を雇うなら、どのような弁護士かは確認してみてください:

  • 一緒に仕事をしたことのある創業者らからの申し分のない推薦があること

  • あなたが交渉するTTOとやりとりした経験があること

  • 比較できる最近のライセンス契約のデータベース(交渉に役立ちます)

  • 決まっているフィー、理想的には後払いであること

  • 長期的な関係を築きたいと思ってくれ、会社の長期的な成功にインセンティブを見出す人か

法律事務所と契約する前に、その大学がすでにクライアントであるかどうか、もしそうならどの程度の顧客であるかを聞いてください。法律事務所は、その大学とかなりの量の取引をしている場合、TTOに対してより寛大になる可能性があります。

また、COIに関しては、少なくとも書面上では、起業でどのような役割を自分が果たせるのか、スピンアウトする前にどのような行動をとる必要があるのかを確認したいところです。例えば、スタンフォードの大学院生であれば、会社を設立することはできますが、卒業するまでは正式に役員の肩書きを持つことは許されません。しかし、スタンフォードのポスドクであれば、数人の学部長や学科長の承認がなければ、一切関わることができないのです。他の大学では、各大学ごとのルールがあります。

TTOのためのビジネスプランを準備する

詳細なビジネスプランを書くことは一般的にあまり意味がありませんが、TTOでは多くの場合、ビジネスプランを要求されます。

ビジネスプランでは、市場や応用用途をできるだけ広く設定し ましょう。これは、使用分野をめぐる交渉で重要になります(詳しくは後述)。

TTOのビジネスプランでは、技術、初期および将来の製品、市場、チーム、資金調達の戦略、今後のタイムラインをまとめます。多くのTTOが独自のテンプレートや要件を用意しています。例えば、スタンフォード大学のOffice of Technology Licensing officeでは、ビジネスプランの主な構成要素として以下のようにリストで挙げています。

  • 会社名

  • Mission Statement(会社の指針となるビジョン)

  • 現在の市場の状況
    市場の規模はどのくらいか?その重大な問題や欠点は何か?市場のランドスケープはどのように変化しているのか?競合他社はどこか?統合された業界なのか、それとも断片的な業界なのか?

  • 会社のソリューション
    どの製品や手法を開発するのか?どれくらいの時間がかかるのか?その応用用途は?その企業独自の優位性は何か、その優位性は持続可能か?その会社の製品、手法などにより、現在の市場はどのように変化するか?

  • 特許・知財のランドスケープ

  • マーケティング・販売戦略
    Pricing、Product、Placement。ターゲット市場はどのようにその製品を知るのか?どの販売流通チャンネルを利用するか?

  • 5年から10年の戦略・財務計画

    • 財務予測 - 同社はいつブレークイーブンを達成するのか?

    • 財務予測を達成するために必要な主なマイルストーン

    • 測定・追うべき主要な指標

    • 主要な前提条件と、それが競合の反応によってどのように変化するか

  • 資金調達の要件

  • 経営陣 - メンバーのレジュメと役割

  • タイムラインと主要なマイルストーン

  • リスク要因とリスク回避する方法

TTOビジネスプランのサンプルはこちらでご覧いただけます。

6. 登記

一般に、どのような知的財産のライセンスを受けるには、法人化する必要があります。これは、TTOが交渉の相手となる実体を必要とするためです。法人化のタイミングは、(1) 取り組むのが楽しみなアイデアがあり、(2) スピンアウトの計画が明確で、(3) 創業者らとPIが株式分割に合意し、(4) 創業者がフルタイムになる準備ができている、か、フルタイムになるスケジュールが非常に明確である時です。あなたのスタートアップがライセンスに依存している場合、(5) TTOのライセンス担当者がライセンスまたはライセンスオプションの交渉に協力するつもりであるという口頭での合意も必要です(これについては後で詳しく説明します)。

初めて創業する人にありがちな誤解は、法人化は複雑だということです。実際には、出資比率や役割分担に全員が合意すれば、半日だけで完了するはずです。法人設立に最適なオンラインツールは、ClerkyとStripe Atlasです。これらのツールは、デラウェア州の州務長官への書類作成をすべて行ってくれます。デラウェアは、物理的に別の場所に拠点を置いている場合でも、法人化を行いたい州です。デラウェア州の「Cコーポレーション」を設立するのに弁護士は必要ないが、個人の税務上の観点から、30日以内にIRSに83b electionを提出することを忘れないようにしましょう。

もちろん、今でもTTOとの交渉のために選んだ法律事務所で法人を設立することを選択する創業者らもいます。 それも良い方法ですが、費用は高くなります。

7. ライセンスについて

TTOとの交渉に入る前に、検討すること。

  1. 全くライセンシングしない: スタートアップの内部で別の方法を用いてその技術を再現することがどれくらい難しいかを考え、それをライセンスのコスト(株式、ロイヤルティ、その他の手数料)、交渉に費やす必要がある時間、そしてそれがどれほど消耗することになるかを考えて、比較してみてください。もしかしたら、時間を節約して、仕事に飛び込むことができるかもしれませんよ?スタートアップ企業は、特許がどれほど役に立つかを過大評価し、後で特許のために時間を浪費したことを後悔することがよくあります。あなたのエネルギーとスタートアップの実行速度を決して過小評価しないでください。

  2. ライセンスではなく、ライセンスするオプションを取得すること: ライセンスオプションでは、大学が 6 ~ 24 ヶ月間はその技術をライセンスしないことに同意し、その時点で適切なライセンス交渉に入ることができます。これは、ピボットする可能性がある場合や、完全なライセンスが必要であるかどうか確信が持てない場合に有効です。また、時間と費用の節約にもなり、弁護士も交渉に参加してもらう必要もありません。

  3. 独占ライセンスが必要かどうか: 非独占的なライセンスはコストが低く、一般的に交渉が迅速に行われます。競合他社もその技術のライセンス供与を望んでおり、そうなれば価値あるビジネスを構築する能力が損なわれると予想される場合は、独占権が有効です。

  4. どの特許が必要なのか: 複数の特許が必要になることが分かっている場合は、それらを一括して取得しましょう。3つの特許を一緒に交渉しても、1つの交渉と同じくらいの必要な労力で済みむこともあります!

ライセンスすることを決めると、TTOは、交渉すべき主要な項目を記載したタームシートを送ってきます。または、スタートアップ側から独自のタームシートを提出することで、交渉のスピードアップを図ることもできます。これがスタンフォード大学から入手したタームシートのテンプレートで、これをコピーして編集することができます。

このプロセスにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?将来的には、数週間から数日で済むようになればと願っています!ただ、今のところ、私たちが見たデータでは、トップスクール(スタンフォード、MIT、ハーバード、ノースウェスタン)では2、3ヶ月で完了することが珍しくありませんが、同じTTOでも最大12ヶ月かかることがあります。また、技術移転に18-24ヶ月かかるという例外的なケースも見られました。重要なのは、プロセスの遅さに(1)エネルギーを消耗し、(2)スタートアップのペースを落とさないことです。是非、ライセンス契約の交渉中もスタートアップに取り組み続けてください。また、交渉が18ヶ月のケースではなく、2~3ヶ月のケースに入る可能性を最大化するために、積極的にプロセスを進めるが重要です。弁護士に最新状況を聞かないまま、2日以上経過するようなことはあってはなりません。TTOと直接の関係性がある場合は、できるだけ顔を合わせるようにして、物事を迅速に進めることが重要である理由を伝えるようにします。迷惑にならない程度に。

主な用語と概念

Fields of use(使用分野): 特許の用途を特定の目的に限定すること。ビジネスプランに記載されているすべての用途について、TTOにすべての使用分野を認めてもらうことが目標。

独占的・排他的ライセンス: あらかじめ定義された使用分野において、自社以外の事業者がライセンスを行使することを認めない。他社が現実的にその技術を使用できると考えられる場合には、このライセンスが望ましい。独占権が必要かどうかわからない場合は、非独占ライセンスから始めて、後に独占ライセンスにするオプションを付けることもできる。

非独占的・排他的ライセンス: 使用分野において知的財産を使用する権利を与えられるが、大学は他に対しても、同じ使用分野でその技術を製造、使用、販売する権利を自由に付与することができる。これは、その知的財産が、あなただけが所有する他の知的財産や企業秘密によってのみ非常に価値がある場合にには有効である。

ロイヤルティ: ライセンスされた技術または会社全体の使用から得られる収入または利益の一部を支払うこと。ロイヤリティと成功報酬型マイルストーンの支払いは、収益の大部分を占めるため、あらゆる条件の中で大学が最も気にするところです。このことは、本レポートの以下の図に示されています。この図は、ライセンシングによるロイヤルティと株式による年度別の収益を示しています。


状況によっては、TTOはこれらの現金支払いを株式と交換するが、それは比較的稀なことであります。通常、ロイヤリティは0~5%の範囲で設定されます。数年後、または累積で一定金額を支払った後にロイヤリティを終了させる条項を求めることもできます。ロイヤルティは、会社全体の売上ではなく、ライセンスされた技術の使用に直接結びつくものであるべきです。

ロイヤリティを0%にできない場合、下記を要求することができます:

  • 累積の金額の上限(例:500万ドルを支払えばロイヤリティなくなる)

  • 期間によってのロイヤリティ削減(例:4年後にロイヤリティなくなる)

  • ロイヤリティ・スタッキング:他の事業体からの追加ライセンスが必要な場合、あるライセンサーへの支払いを少なくすることができる(通常、費用の50%を第2ライセンサーへの支払いに充てる場合、割引または"相殺"することができる)。

  • ”組み合わせ製品"(貴社の技術が、ライセンス契約に含まれない既存製品の改良である場合)については、ロイヤルティが"向上させた価値"のみに適用されるようにする(例:ある技術によりMRI装置が10%高く売れる⇒ロイヤルティは10%の収益増にのみ適用される)。

また、可能であれば、買収する企業に関する条項で、買収する企業の全収入にロイヤルティを適用するようなものがないことを確認しましょう。例えばのシナリオとして、BigCoはNewCoの買収を検討しているとします。NewCoのライセンス契約には、ロイヤリティが収益の3%を占めるという条項があるとします。また、買収の際には、この3%のロイヤリティを買収企業の全収入に適用するという条項もある。BigCoがNewCoを買収しないのは、NewCoの収入に対してのみ3%のロイヤリティを支払う必要がある代わりに、BigCoが作るもの全てに対して3%のロイヤリティを支払わなければならないからである。このような条項は、買収時にBigCoに大学とのロイヤリティ契約の再交渉を迫るために、大学側が追加するものである。しかし、このような条項は必要な時間を増大させ、交渉に不確実性をもたらすため、かえって買収取引を中止させ、また将来の資金調達ラウンドを難しくする可能性もあります。

ロイヤリティを下げるための議論

  • 商品化には莫大な費用がかかる: 大学のIPは不完全である。市場に出すには数百万ドルの資金を調達する必要がある。化学合成や発酵分野の企業では、資金調達は5億ドル以上になることもあります。バイオ医薬品の場合、臨床試験を経て医薬品を得るために、これは〜10億ドルになることがあります。商業化に必要な巨額の投資を考えると、今、高額なロイヤリティに合意することは意味がありません。ここでは具体的に、あなたの状況について話してください。

  • ロイヤリティは、資金調達を難しくします: ロイヤリティは利益を減少させ、投資家の潜在的リターンを減少させます。ロイヤリティが高いと資金提供者にとって魅力的でなくなり、企業の成長に必要な資金を奪うことで、その企業が長期的に大きな収益を上げる可能性が低くなる可能性があります。

  • 競争による利益率の低下: 競合他社が市場に参入し、想定していた利益率が削られることはほぼ間違いありません。トップラインの売上に対する高額のロイヤルティは、マージンが低い場合、利益をすべて食い潰し、事業の持続可能性を危険にさらす可能性があります。

ロイヤリティについての注意点: ロイヤリティ率は業界によって大きく異なりますが、大学ライセンスのロイヤリティ率の中央値は約3%です。これは、ライセンスが最も活発な分野が、(1)医薬品、(2)バイオテクノロジー、(3)ヘルスケア製品・用品であり、これらは利益率が高いため、許容できるロイヤリティも高くなる傾向があるため、偏りが生じているのです。バイオテックの場合、ロイヤリティ率は、創薬プラットフォームを構築しているか(通常1〜2%)、単一の治療薬のアセットの会社を構築しているか(通常2〜4%)によっても異なる。最後に、CRISPRのような真に変革的な技術の場合、ロイヤリティは"一桁台後半"まで達する可能性がある。例えば、Broad InstituteからCRISPR技術のライセンスを受けたEditasは、1桁台の高いロイヤリティを支払っている。Broad Instituteは、高いロイヤリティに加え、持分比率4.2%、治療薬1品目あたりのマイルストン総額1480万ドルを交渉で獲得している。

株式: TTOは通常、会社の普通株式の形で所有権を要求します。これは、私たちが米国で見てきたライセンスの90%以上に当てはまります。一般的な範囲は1〜5%です。10%を超えると、投資家からの資金調達が難しくなる可能性があり、よくありません。多くのVCは、大学の貢献は過去のものであり、将来を見据えたものではない(つまり、将来の資金調達、人材採用、戦略的アドバイスなど、企業の成長に貢献しない)ため、キャップテーブルの”dead weight"と見なします。VCは、会社の成功を積極的に支援する人々(主に創業者と従業員、次に従事する投資家とアドバイザー)が、できるだけ多くの株式を保有することを好みます。

株式に関するプロラタ権: TTOは、追加の投資によって出資比率を維持する権利を要求することがあります。このプロラタ権は、価格決定されたラウンドにのみ適用され、大学側は2週間程度で参加するかを決定する必要があります。

希薄化防止: TTOは、出資比率を維持するために、追加での株式取得を無償で認める条項を要求することがあります。これは、創業者がライセンス契約に署名し、創業者だけに株式を発行して大学を直ちに希釈化することから、TTOを保護するために一般的に行われています。キャップテーブルに外部投資家がいれば、創業者がこのようなことをするリスクは大きく下がるため、TTOは最初の資金調達ラウンドまで希釈化防止を求めます。創業者は、交渉によって希釈防止策を排除するか、TTOが妥当な評価額で資金調達するまでの間、特定の%の所有権を維持することに限定するべきです(例えば、スピンアウトはTTOに株式を追加発行し、新興企業が資金調達後のバリュエーションが600万ドル以上になるまで、3%の所有権を維持することになります)。TTOが、もっと高いバリュエーションまで希薄化防止がないことは、各ラウンドの資金調達が余計に希薄化することになるので、非常に重要なポイントです。

Diligence条項: これは、あなたが特定の目標を達成しない場合、大学が契約を変更または解除できるようにするものです。これらの条項は極めて達成可能なものにし(信頼度95%以上)、すべてのスケジュールをあなたが考える3~5倍に設定し、手数料やペナルティ、その他の契約上の「トリガー」を追加することなくスケジュール未達を是正できる猶予(延長)期間を追加します。可能であれば、少額の手数料と引き換えに、期限を過ぎたディリジェンス条項を自動延長できるような条項を追加する。例えば、5,000ドルで 12ヶ月の延長を認め、技術の進歩のために商業的に合理的な努力を している限り、3回まで延長できるようにします(何がこれを構成するかを明確にすることを忘れないでください!)。

Milestone payment: 特定の開発または資金調達のマイルストーンを達成した場合に発生する、大学への現金支払いです。一般的なマイルストーン/トリガーは以下の通りになります: 資金調達額X百万ドル、FDAによるIND承認、ヒトへの初使用、第III相臨床試験開始、FDAへの新薬申請による製品販売許可など。これらは、キャッシュフローのリスクを排除するために、主要な資金調達イベントと関連付ける必要があります。マイルストーンの支払いは最小限にとどめ、新規調達額の2%以上は支払わないようにしましょう。資金調達した現金は、会社の設立に使うべきです!

Upfront payments: ライセンス契約やライセンス売却の際に大学に支払う現金支払い。特許を購入する大企業によく見られる("完全譲渡"とも呼ばれる)。Spin Outは、一般的に現金は手元に残してこれらを支払うべきではありません。しかし、投資家に売却する株式が、ライセンス供与のために大学に提供する株式より少ない場合、特許を前もって購入することは(稀に)意味があります。例えば、5%の持分 (さらにロイヤルティやその他の条件) か、50万ドルの前払いで完全譲渡するライセンス契約を提示された場合です。もしあなたの会社が、資金調達後の評価額が1,000万ドル以上で追加の資金を容易に調達できるのであれば、おそらくその特許を購入すべきです。なぜでしょうか?1000万ドルの評価額で50万ドルを調達することは、5%の希薄化(いずれにせよ大学に渡すことになる)を意味しますが、ロイヤリティを回避することができます。もし、$10Mより高い評価額で$500Kを調達することができれば、希薄化を最小限に抑えることができます。この方法は、その会社が必要な資金を調達でき、さらに特許を購入するための余分な資金も調達できることが確実な場合にのみに実施しましょう。

メンテナンス料またはディリジェンス料: ライセンスを維持するために毎年支払われる管理費。ごくわずかであるべき(年額5,000ドル以下)。

払い戻し: 特許の出願や、場合によっては審査にかかる大学の法的コストをカバーする。通常、これらの費用はスピンアウトが資金を得るまで先送りにして、多くの大学はこれらの費用を全く請求しない。1万ドルから2万5千ドルの間であれば良いであろう。それ以上の金額であれば、プッシュバックして交渉しましょう。

サブライセンス: あなたが特許を他社にサブライセンスした場合に、大学に支払うべき収益の割合についてです。理想は10%未満に抑えること。TTOは、すぐに特許をサブライセンスする企業を警戒しており、それは新しい技術開発を意味しないかもしれないので、これらの手数料をかなり高くしようとするかもしれません。サブライセンスを行わないことが確実であれば、高い手数料に合意しても問題ありません。

あまり一般的ではない条項:
改良する権利: ライセンス供与後の一定期間、技術(新興企業が出願した特許を含む)の改良を使用または所有する大学の権利を記述する。一般的には避けるべきだが、大学が1年間、教育目的に限り、あらゆる改良点について非独占的なライセンスを付与されることは問題ない可能性がある。

特許出願審査: 特許の審査に誰が責任を持つかを決定します。私たちは、スピンアウトがここで主導権を握るべきだと考えています。これにより、一般的にほとんどの法的措置の結末となる和解交渉において、新興企業がよりコントロールしやすくなり、和解が大学ではなく新興企業の最善の利益になるようにすることができます。ここをコントロールすることの欠点は、そのための費用も支払わなければならないことです。

"あらゆるliquidity eventから生じるものの割合": 。新興企業の株式を直接保有できない場合、大学はあらゆる流動性のイベント(合併、買収、IPO)の一定割合を要求する可能性があります。この条項は、本質的に"大学は希薄化しない株式を得る"と訳されます。希薄化を考慮し、あなたが大学に渡しても良いと思う妥当な初期の株式の7分の1(15%)を上限に設定します。15%の倍率は、創業者の持ち株比率が創業時の100%からIPO時には15%になるのが一般的だというデータ(12)に基づくものです。これに基づき、15% * 5%(大学の典型的な出資比率) = 0.75%を健全な上限とすることを目指します。

同意条項: 合併や買収などの際に、大学に防ぐ権利を与えるものであります。避けましょう!できない場合は、要請を受けてから遅くとも10営業日以内に自動的に承認され、"不当に保留されない"ように同意を求めることにしましょう。

8. ライセンス交渉について

Venture Dealsには、交渉に関する章があります。その中からこういうのがあります。"資金調達の交渉で重要なことは3つだけです。良い公平な結果を得ること、そこに至るまでに個人的な関係を壊さないこと、そして、あなたが結んだ取引を理解することです"。TTOとの交渉も同様です。 交渉の準備をしながら、技術移転は創業者らにとっては"一回きりのゲーム"であるが、それ以外の人にとっては”repeated game”であることを認識することが有効です。このことは、ある意味ではあなたにとって有益ですが(TTO、VC、PIは、創業者らの間での評判を気にするため、友好的になりたいと思うでしょう)、一方でマイナスの影響もあります(PIや法律事務所は、一つのスタートアップとの素晴らしい関係より、TTOとの継続的な良い関係を気にするかもしれません)。このような力学を避けることは不可能ですが、覚えておくと役立ちます。

交渉可能な条件とは?タームシートに記載されているものはすべて交渉可能です。

公正なライセンス条件を得るにはどうしたらよいでしょうか?ベンチマークを研究し、同じTTOと最近交渉した他の創業者と話し、アドバイザーと話し、そして投資家がいる場合は投資家も含めてください。TTOが、あなたにとって公正と思える範囲外の株式を要求してきた場合、そのTTOが受け入れた別のライセンス契約の条件を参照することが、最も強力な論拠の1つとなります。

比較できるライセンシングに関するデータはどこから入手するのか?私たちは、創業者からライセンスデータをクラウドソーシングし、SECファイリングデータをかき集めています。私たちはそれを公表する予定です。もし、あなたがスピンアウトしていても、こちらから貢献することができます。

それまでは、以下のソースから比較データを見つけることができます:

  • Licensing Executive Societyの調査、KTMineTransACTSpinout.fyiなど。

    • 注:Licensing Executive Societyは生データを提供しておらず、その分析にアクセスするためには200ドル必要です。KTMineとTransACTは3,000ドルの有料会員登録が必要です。Spinout.fyiは無料です(Nathanに感謝!)。

  • S-1を含む公開企業のSECファイリング(ここでいくつか集めました)。

  • 法律顧問にライセンス条件のデータベースについて尋ねる

あなたが手に入れる最終的な条件には何が影響しますか?

技術ライセンスは個々の文脈に非常に依存するため、範囲や比較ではTTOによって適用されるライセンスの論理の全てをカバーすることはできません。提示される条件に影響を与えるものの例をいくつか挙げてみましょう。

  • 適用性、すなわちその技術の市場潜在力。市場が小さくて事業化が困難であればあるほど、スタートアップにとってより良いライセンス条件となります。

  • 知的財産の新規性と広さ。知的財産の範囲が狭いほど、ライセンシング条件は良くなる。広く適用可能な画期的技術は、TTO にとってよりエキサイティングであり、他の人達も喜んで支払うと分かっているため、一般には素晴らしい条件でライセ ンスを受けることは難しくなります。

  • 当ライセンスを受けたい他の競合の存在。ある知的財産のライセンスを希望する当事者が少なければ、条件はより友好的になる。

  • この知的財産の創出を可能にするために、大学がすでに費やした金額はどれくらいか。既に費やした金額が多ければ多いほど、より大きなリターンを求めていることになる。

  • 発明者は誰か?有名なPIが技術の創造に関与していた場合、条件はより甘くなるかもしれません。

  • TTOの担当者のインセンティブ。最終的には、TTOは自分たちも公正な取引をしていると感じなければなりません。TTOが何を望んでいるかを理解するために時間をかけましょう。妥当な落とし所を見つける確率は高くなるでしょう。

重要なのは、他の例と比較する場合、全ての条項から総合的に判断する必要があります。TTOは洗練された交渉相手であり、ライセンシーの特定の状況を考慮して、条項間のトレードオフを考えてくることが多い。例えば、ロイヤリティ率が特に低いライセンシング契約では、株式の配分が平均以上である可能性があり、その逆もまた然りである。

世界経済の動向・VCの資金へのアクセス・インフレーション、そして他の要因が、TTOが受け入れる条件に影響を与えます。20224Qの現在、アーリーステージの資金調達市場はかなりダイナミックな環境にありますが、TTOにとってより重要なのは、高インフレ環境であることです。そのため、TTOは、1年前はエクイティを優先していたとしても、Upfrontを優先する可能性があります。法律事務所は、TTOとの交渉に備える際、社内のデータベースでより最近のベンチマーク対象を探します。具体的には、同じTTOと同様の技術について、同様のカテゴリーで交わされた直近の契約書に目を通し、どのような条件が提示されたかを確認するのです。これを利用しましょう。

契約締結後にライセンス契約を再交渉する: これは技術的には可能ですが、達成するのは 難しいでしょう。どんな契約でもそうですが、レバレッジが必要です。"当社の投資家はロイヤリティが高すぎると考えている"だけでは、通常、十分ではありません。しかし、"大規模なラウンドのためのタームシートを提供しようとしている投資家が、まずロイヤリティを修正する必要があると言っている"と言えば、うまくいくかもしれません。交渉に時間がかかりすぎる場合は、その原因を探る。時には、官僚的な誤解があり、誰が契約に同意する必要があるかなど、簡単に解決できることもあります。

その他、物事を早めたり、条件を改善したりするために有効な方法:

  • VCからのオファー、あるいは"ライセンス条件が妥当であれば" Xドルでのオファーの条件付きの約束。プレシードやシードファイナンスでは、転換社債やSAFEを使うのが一般的なので、これはエクイティラウンドの"タームシート"である必要はないのです。TTOに持参する、確固としたオファーを書面で示した電子メールで十分かもしれません。"VCのScience Capitalは、来週100万ドルの出資をしてくれるが、出資比率を5%に抑え、評価額が1500万ドルに達した時点で希薄化防止条項を終了させることが条件だ "といったような、非常に有効な主張ができるかもしれません。

  • PIがTTOに、交渉がうまくいっていない、あるいはTTOが不公平、非協力的であるとメールすること。特に、あなたのPIが大学の"スター"である場合、これは大物を呼び寄せることであり、あなたが自由に使える最も効果的な手段の一つです。

クロージングの感想

Fifty Yearsでは、科学をbenchtopからすべての人のために適用をすることが、前向きな変化を生み出す最大の原動力の1つであると信じています。ほとんどのテクノロジーは、その発見や発明をした科学者が自らSpin outしなければ、社会適用されることはないでしょう。なので、そのような人々が増えることを願っています!Fifty Yearsでは、偉大な科学者が偉大な起業家になるのを支援するのが大好きです。スタートアップをしたくなったら、是非ご連絡ください。

これは、生きたプレイブックになることを意図しています。是非フィードバックや改善点を spinout@50y.com に送ってください。

Ash Trotman-Grant, Serena Zhang, Josie Kishi, Gleb Kuznetsov, Tess van Stekelenburg, Uri Lopatin, Daniel Hussey, Mohan Iyer, Parikshit Sharma, Stephen Chapman, Chase Moyle, Jason Fontanaに感謝します。Devika "Dee" Thapar、Ale Maiano、Milad Alucozai、そしてFifty 50メンバーのAnastasia Ershova、Eeshit Vaishnav、Jack Silberstein、James Banal、Jarod Rutledgeには、本プレイブックの作成にあたり洞察に満ちたフィードバックとご助力をいただきました。


ANRIのあとがき

前編、後編と分けて日本語に訳させて頂きました。米国はY combinatorやこのFifty Years等のVC・アクセレーターが情報公開を積極的にやっています。またこの記事中の中にリンクもあるように大学とかも契約書のテンプレを公開等もされています。米国の環境によるところもあるので、そのまま日本で適用できない場合も多々あるかと思います。

大学の研究者からのスピンアウト目線で書かれているものですが、スタートアップの一つの形であり、もちろん他の形もあります。スタートアップそのものが技術の事業化の一つの形なだけであり、"1. Spin Outすべきかどうか"にあるように技術の開発者らがどういう風に技術活用したいかという意思の要素が大きいと思います。


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また、気候変動や環境問題に取り組んでいる研究者の方、このような社会課題を解決していきたいという志しの高いベンチャーキャピタリスト志望の方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。
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