見出し画像

「Dr.ボス猿」と呼ばれていた先生の話

当時院内では「Dr.ボス猿」と呼ばれていた整形外科の先生がいらっしゃいました。
背はとても大きく色黒で、遠くにいても威圧感が半端なかったのを覚えています。

その先生が担当する手術は脊椎の手術で、術中イライラすると器械が飛んできたり、怒りのままに器械を壊すこともあると先輩から聞いていました。

そのため新人を手術に付けることはなく、ある程度経験を積み、かつ先生が認めた看護師でないと入れないため、いつもその先生の手術につく看護師が決まっているほどでした。


手術室看護師として2年目が過ぎたある日。
私が翌日の準備をしていると、来週の手術予定表を見た同僚が「赤札だー!」と言いながら私のところに来たのです。

「どうしたの?」と聞くと、なんと
「来週の月曜日のDr.ボス猿のオペにあなたの名前が入っていたのよ・・・!」
と言うのです。

私は血の気が引いていくのを感じながら、ナースステーションに行って確認をすると、確かにDr.ボス猿の手術の器械出し欄に私の名前が書かれていました。
「きっと何かの間違いだ」そう思いながら、予定を組んでいる師長に聞くと、「Dr.ボス猿からそろそろ新人を手術に入れろって指令があったからさぁ・・・まぁいつも通りやれば大丈夫よ!」と言われてしまいました。


私はその日を迎えるまで、休日もそのことが何度も頭をよぎり、夜もまともに眠れず、当日を迎えました。

今にも口から心臓が出そうになるくらいドキドキしながら、準備を済ませると、Dr.ボス猿が入ってきました。
「今日入るのはお前か?名前は?」と聞かれ、「はい!今日先生の手術に付かせていただく○○です!宜しくお願い致します!」そう挨拶をすると、「よろしく頼むな」と言われ、手術が始まりました。

緊張で手が震え、何度も深呼吸を繰り返しながら、「いつも通り、いつも通り」と自分に言い聞かせていました。
手術はスムーズに進み、閉創に入るとDr.ボス猿が「あとは頼んだ」と助手の先生達に言い、部屋を出ていきました。

「手術は無事に終わったけど、上手く器械出しができただろうか。出禁になったらどうしよう」そう思いながら、残っている業務を済ませ、器械を片付けていると、Dr.ボス猿が私の所に来ました。

すると、「よくやった。新人にしては優秀だなぁ。また頼むな、お疲れさん!」と言いながら、肩をポンッと叩いてくれたのです!

その後、Dr.ボス猿の手術の器械出しや外回りにつかせていただくことが多くなりました。
Dr.ボス猿”のおかげで自信を持つことができ、今ではとても感謝しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?