ストーリーで学ぶ交通事故案件処理マニュアル⑧

法律相談③

※今回は,相談者へわかりやすく説明することを念頭に置いているため,一部詳細な説明を割愛しています。そのため,厳密には不正確な記述もあります。

江頭「次は,後遺障害について説明します。正直,今は事故直後で,今後,お体がどうよくなっていくのかわかりませんから,症状が残るかどうかも現時点ではわかりません。ただ,万が一,症状が残ってしまった場合に備えて,今からできることはやっておきましょう。」
加藤「わかりました。」


江頭「まず,今回の加藤様が負われたおケガは,いわゆるむち打ち症と言われるものです。特徴としては,症状を裏付ける他覚的所見に乏しいという点です。」
加藤「他覚的所見というのは何ですか?」
江頭「簡単いうと,症状が他人からみてもわかるかっていうことです。たとえば,骨折している場合,レントゲンを撮れば,骨に骨折線が入るので,誰から見ても骨折しているね,痛いよねっていうのがわかります。この場合,他覚的所見ありといいます。むち打ち症の場合,レントゲン等にその症状の原因が映りませんので,他覚的所見はないということになります。」
加藤「なるほど。」
江頭「そうすると,むち打ち症で後遺障害の申請をした場合,加藤様が,首が痛い,腰が痛いといった症状を訴えても,自覚症状でしかなく,本当に痛みやしびれがあるのかは客観的にはわからないのです。」
加藤「じゃあ,後遺障害の審査では不利ということですか?」
江頭「不利ということではなく,他覚的所見がなくても他の事情から加藤様には症状が残っているよということをしっかりアピールする必要があるんです。」
加藤「アピール?」
江頭「はい。たとえばですが,むち打ち症になったAさんは,6ヶ月のうち月に1回の合計6回しか通院していなかったとします。他方,同じくむち打ち症のBさんは,6ヶ月のうち100日通院していたとします。AさんもBさんも6か月後に症状が残っていると主張しています。加藤様ならどちらの話を信じますか?」
加藤「うーん,やっぱりBさんですかね。」
江頭「なぜですか?」
加藤「病院に沢山通うってことは,それだけ痛いってことじゃないですか?」
江頭「その通りです!そうなんですよ。症状が弱ければそんなに通いませんよね?そうすると,逆にいうと沢山通っている人はその分症状が強くて,6か月経過した時点でも症状が残っているんじゃないかって思いますよね。」
加藤「そういうことですね。じゃあ,今みたいに症状が強く出ているときは沢山通院した方がいいということですね。」
江頭「後遺障害の認定においては,そちらの方がいいですね。今,お伝えしたのは,通院頻度についてです。このように症状と関連のある事実を積み上げていって,加藤様の自覚症状は本当なんだよということを審査機関に理解してもらうんです。」


加藤「通院頻度以外に注意すべき点はありますか?」
江頭「医師への症状の伝え方ですね。後遺障害と認定されるための条件として【常時】症状があることが必要になります。つまり,常に痛いとか常にしびれているとかです。ですから,医師に症状を伝える際に,【●●した時に痛い】という言い方をすると診断書等に【動作時痛】などと記載されます。この記載を見た審査機関は,動いたら痛いのか,ということは,動かさなければ痛くないのかと判断されてしまいます。実際には,常時痛くてもです。」
加藤「では,どう伝えたらいいんですか?」
江頭「もちろん,常に痛みがあることが前提ですが,その際は,単純に【痛いです。】と伝えてください。もし,動かすとさらに痛くなるときは,【痛いです。●●した時は特に痛みが増します。】という言い方をしてください。」
加藤「なるほど。わかりました。」


江頭「加藤様に今後注意していただきたい点は,通院頻度と症状の伝え方の2点です。そのほかに,車の修理代の金額など後遺障害の認定にとって有利な証拠はこちらで収集しますのでご安心ください。」
加藤「修理代が後遺障害とどう関係があるんでしょうか?」
江頭「これは,事故の大きさを示す一つの指標として使います。たとえば,修理代が10万円にも満たない軽い事故だったら,そんなに症状出ないだろうと想像がつくかと思います。一方,修理代も大きく,車両の写真でも大きなへこみが目立つなどの事情があれば,大きな事故だったんだなって思いますよね?そうすると,症状が残っている可能性があるなという判断になるということです。」
加藤「なるほど,非常にわかりやすかったです。ありがとうございます。」
江頭「ご理解いただけて幸いです。では,次は人身の損害内容全体のお話をしますね。」


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