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不整脈と告知するなかれ!

心臓の刺激伝導系とは

心臓には刺激伝導系と呼ばれる特殊な心筋組織があります。これに電気が流れ、その電気的興奮つまり刺激が心筋細胞からなる心筋組織全体に波及することで、心臓は一定の調律を保って収縮と弛緩を繰り返します。

この電気信号を最初に発する組織が、刺激伝導系の上流にある洞結節です。洞結節は、右心房と上大静脈の接合部に位置しています。この洞結節から電流が流れることで心房が収縮します。続いて、房室結節を経由して左右の心室へ電流が流れることで心室が収縮します。

不整脈という告知

さて、不整脈という告知は、生命保険の新契約引受査定者が査定に困る告知です。心電図検査結果に基づく医師の正式な診断名が告知書に書かれていれば正しく査定されますが、そうでなければ評価は厳しい方向へ傾くことになります。一般に 病院の外来心電図検査で見られる不整脈は、心室性期外収縮、洞頻脈、心房細動の順に多いとされています。

心室性期外収縮

心室性期外収縮とは、心室から起こる期外収縮です。規則的な心拍が過敏な心臓内中枢の早期の興奮により乱される状態です。心室性期外収縮は、基礎疾患がなく、1分間に起こる回数が少なく、期外収縮が連続して発生しなければ、放置してよいことが多い。心筋梗塞、特発性心筋症、QT延長症候群などの基礎疾患による場合は、治療する必要があります。特に高齢者の心室性期外収縮については、基礎疾患の有無に注意する必要があるでしょう。

洞頻脈

洞頻脈は、心房興奮頻度が毎分100以上の洞リズムです。心房興奮頻度は、正確には心電図で1分間に現れるP波の個数により決まりますが、通常心房と心室の興奮の頻度は同じであることから脈拍数で代用されます。つまり洞頻脈は心拍数100以上をいいます。洞頻脈が起こる原因としては、運動、発熱、精神興奮などの生理的なものから、甲状腺機能亢進症、貧血などの基礎疾患があるので注意が必要です。

心房細動

心房細動では心房興奮頻度は350~600/分に増加します。心房細動では心室が十分に拡張し収縮することができいないため心拍出量が低下します。心室性期外収縮と同じように脈拍の欠損も観察されます。さらに心房細動は、左心房内血栓の形成により動脈塞栓(脳塞栓)を引き起こすことがあります。心房細動は、中大脳脳動脈を閉塞して生じる脳梗塞の危険因子です。心房細動に起因する脳梗塞の生命予後はよくないため、生命保険の加入も難しいことになります。慢性の心房細動患者では、血栓形成予防をするために抗凝血薬のワーファリン内服を行ないます。

同じ「不整脈」との告知であっても、性別や年齢により想定される不整脈の種類が異なり、よってリスクも大きく異なるから、お客さまには病名を正しく告知していただくことが重要です。 近年、心臓カテーテルア・ブレーションなる医療技術が開発され、不整脈の治療に役立っているようです。

カテーテル・アブレーション術

心臓カテーテル・アブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)は、頻脈性不整脈の原因となる心筋組織をカテーテルで焼灼する手術です。カテーテル先端から高周波電流(交流電流)を流すことにより心筋組織を熱凝固させる高周波アブレーションが主流ですが、液体窒素を用いた冷凍凝固アブレーションなども実用化されています。実際のアブレーション手術では、まず大腿鼠部・首・肩などの血管を穿刺して数本のカテーテルを挿入し、心臓の要所に配置します。つぎに、頻脈発作誘発して頻脈の種類・原因を特定します。最後に焼灼用カテーテルを標的部位に押し当て、高周波電流を流して頻脈の原因となっている組織を熱凝固させます。

心房細動に対する心臓カテーテル・アブレーション術では、肺静脈高周波カテーテルアブレーション(肺静脈隔離術)を行います。というのも心房細動の原因95%が、左心房へ入る肺静脈開口部にあることが分かっているからです。またアブレーション術後の再発は、術後6ヶ月から1年以内が多く、その後は徐々に減少して行きます。心臓カテーテル・アブレーション術の適応疾患には、心房細動の他にWPW症候群、房室結節回帰性頻拍、心房頻拍、心房粗動、心室頻拍、心室性期外収縮などがあります。まとめると下表のようになります。

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WPW症候群では、発作性上室性頻拍発作を起こすものがあり、それが心臓カテーテルアブレーションの適応となります。心電図検査でたまたまWPW症候群が指摘されたものの、頻脈発作の既往がなければ生命保険加入には問題なしと考えます。また高齢者の「不整脈」だけの告知では、心房細動として引受査定評価され、特別条件が厳しくなる傾向にあります。心電図検査などを実施して、不整脈の正式病名を確認しておくと良いと考えます。




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