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ヘルペス

ヘルペス(herpes)というラテン語は、小水疱または小膿疱が集簇した状態を指す言葉で、皮膚科でいう疱疹をいいます。ヘルペスウイルスは、二本鎖DNAゲノムと、正20面体のカプシド、宿主細胞核膜由来のエンベロープを持つDNAウイルスです。ヒトに病原性を示す代表的なヒトヘルペスウイルス(human herpes virus; HHV)は次の5つです。

1. 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus; HSV)
   ① 1型(HSV-1)
   ② 2型(HSV-2)
2. 水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus; VZV)
   ① 水痘(varicella)
   ② 帯状疱疹(herpes zoster)
3. EBウイルス(Epstein Barr virus; EBV)
4. サイトメガロウイルス(cytomegalovirus; CMV)
5. ヒトヘルペスウイルス6型

回帰発症

ヘルペスウイルスのほとんどが宿主である人体に初感染後、潜伏感染します。つまりヘルペスウイルスは初感染後に眠りにつくわけで、宿主の免疫能低下(anergy)が起こると眠りから目覚めて病気を起こします。これをヘルペスウイルスの再活性化や回帰発症(reccurrence)といいます。

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水痘・帯状疱疹ウイルスは、主に幼児期に水痘として発症し、その後ウイルスは神経節に潜伏感染した状態で経過し、成人で免疫能低下状態になるとウイルスが再活性化して、帯状疱疹が回帰発症します。中高年以降になると免疫能が低下してきます。この結果、ヘルペスウイルスの回帰発症が起こりますが、その代表的疾患の1つに帯状疱疹があります。

帯状疱疹

帯状疱疹とは、水痘を起こす水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化することで生じる感染症で、体の片側性に皮疹・痛み・痒みを起こす皮膚疾患です。60歳代を中心に50歳代〜70歳代に多く、加齢やストレス、過労などがからの免疫力低下状態になれば、若年者でも発症することがあります。帯状疱疹の症状は、片側の1本の神経分布領域に一致して神経痛様疼痛、知覚異常あるいは痒みが数日から1週間続き、やがて虫さされのような浮腫性の紅斑が出現します。この時期に軽度の発熱やリンパ節腫脹、頭痛などの全身症状がみられることもあります。間もなく紅斑上に小水疱が多発し、水疱は中央にくぼみがあります。内容は初め透明ですが、黄色い膿疱となり、6〜8日で破れてびらんまたは潰瘍になります。皮疹の出現後1週間までは紅斑や水疱が新生し、皮疹部の拡大がみられますが、以後治癒に向い、約2週間でかさぶたとなり、約3週間でかさぶたは脱落して治癒します。

頬部、下顎から肩に掛けて(三叉神経第3枝から第3頚髄神経領域)の帯状疱疹の場合、合併症として同側の顔面神経麻痺、味覚障害、内耳障害を伴います(ラムゼイ-ハント症候群)。また、本症は主として知覚神経が侵されますが、まれに炎症が高度で、脊髄の前角にまで及ぶと運動麻痺が起こります。上肢に多く、挙上が出来なくなり、筋の萎縮を伴うこともあります。腹部の帯状疱疹では腹筋の麻痺により同側の腹部が膨隆することがあり、また、腹部の帯状疱疹では、便秘を伴うことがあります。仙骨部の帯状疱疹すなわち、外陰部領域の帯状疱疹では膀胱直腸障害がみられ、尿閉が起こることがあります。

帯状疱疹の疼痛は普通皮疹の出現に先立って認められますが、皮疹と同時に出現するものや遅れて出現するもの、あるいはまったく疼痛を欠くものもあります。痛みは鈍い、あるいは鋭い灼熱感、または突き刺すような痛みで、程度は軽度のものから、夜も眠れないほど激烈なものまでさまざまです。大部分は皮疹の治癒と同時に疼痛も消失します。

治療は、抗ウイルス剤(ゾビラックス・バルトレックス・ファムビルなど)が投与されます。帯状疱疹は抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル)の全身投与を出来るだけ早期に開始することが大切です。重症なものは、入院して抗ウイルス薬(アシクロビル、ビダラビン)の点滴静注が必要です。局所は、初期では非ステロイド抗炎症薬、水疱期以降では細菌二次感染を防ぐために化膿疾患外用薬、潰瘍形成したものでは潰瘍治療薬を貼布します。

帯状疱疹後神経痛

皮疹発症後1〜3カ月を越えて疼痛が残ることがあります。この疼痛を帯状疱疹後神経痛とよびます。帯状疱疹後神経痛の発生率は約3%で、60歳以上の高齢者に多くみられ、初期重症な者ほど移行しやすいと云われ、初期の抗ウイルス薬投与の重要性が叫ばれています。

帯状疱疹後神経痛患者の末梢神経は、脱随変性を起こしています。その変化を戻すことは、至難の技で、長期間の治療を要します。

帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹ワクチンとは、帯状疱疹の発症予防・重症化予防をするために、帯状疱疹ウイルスの毒性をなくし、あらかじめ投与するワクチンのことです。現在、帯状疱疹ワクチンには、2016年に認可された「弱毒生水痘ワクチン」と2020年に認可された「シングリックス®」の2種類があります。シングリックスは不活化ワクチンです。長期の予防効果は、いずれも8年程度はあるようです。50歳以上の人が対象ですが、妊婦、免疫抑制剤の投与、抗生剤に対するアレルギー、アナフィラキシーショック、発熱などがある方は対象外となります。



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