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【特許から見る】3Dプリンタを使ったワクチンパッチ-ノースカロライナ大学チャペルヒル校とスタンフォード大学のプレスリリースより-

「知財情報を組織の力に®」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。

本日、絆創膏のように貼り付けるタイプのワクチン登場…「注射の10倍の効果」というニュースを目にして、

確かに、絆創膏のように貼り付けるだけでワクチン接種できるのであれば簡単だなと思い、関連特許を調べてみることにしました。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校のプレスリリース

本ニュースの元になっているノースカロライナ大学チャペルヒル校のプレスリリースは以下の通りです。

Stanford University and the University of North Carolina Chapel Hill develop microneedle vaccine patch that outperforms needle jab to boost immunity.(スタンフォード大学とノースカロライナ大学チャペルヒル校が、免疫力を高める針刺しを上回るマイクロニードル型ワクチンパッチを開発)

とあり、スタンフォード大学との共同開発の成果です。また、

Considered a breakthrough are the 3D-printed microneedles lined up on a polymer patch and barely long enough to reach the skin to deliver vaccine.(画期的だと思われるのは、3Dプリントされたマイクロニードルがポリマーパッチ上に並べられ、ワクチンを届けるために皮膚に到達するのに十分な長さがあることです。)

のように3Dプリンタの技術を活用していることが特徴とのことです。

そこで、

3Dプリントしたマイクロニードルをパッチ上に並べたワクチンパッチ

ということで調べてみます(今日は特許分類の特定などは省略)。

3Dプリンタで作ったワクチンパッチを調べてみる

まずマイクロニードルを利用したパッチは日本の特許分類FIですと、A61M37/00,500が該当します。

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また3Dプリンタについては、

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B33が「付加製造技術(Additive Manufacturing)」であり、3Dプリンタ関連の特許分類になります(こちらの特許分類は2015年に設定されたのですが、今回は簡易的に調べますので、過去の特許分類などは利用しません)。

グローバル特許検索データベースPatbaseでこの2つの特許分類のAND演算を取ってみます(マイクロニードル関連についてはA61M37以下のすべての特許分類を利用)。

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すると82ファミリーヒットし、さらに発明の名称・要約・クレーム中のキーワード「ワクチン」関連で絞り込むと、6ファミリーのみとなりました。

この6ファミリーの出願人・権利者を見ると、

NANOCAV LLC
UNIV NORTH CAROLINA CHAPEL HILL
GEARBOX LLC(2ファミリー)
UNIV MERCER
VAXXAS PTY LTD

となっており、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の出願がありました(スタンフォード大学との共同出願ではありません)。もともとの出願は2016年で以下のような内容です。

US10792857B2
ポリマー製マイクロニードルとそのラピッドアディティブ製法
本発明は、マイクロニードルデバイス、その製造方法、それを含む医薬組成物、およびそれを投与することによる疾患の治療方法に関するものである。具体的には、開示されるマイクロニードルデバイスは、以下の1つまたは複数を有する複数の生体適合性マイクロニードルを含む。(i)湾曲した、不連続な、アンダーカットの、および/または穴の開いた側壁、(ii)破断可能な支持体からなる側壁、および(iii)非円形かつ非多角形の断面、のうちの1つ以上を有する複数の生体適合性マイクロニードルを含む。また、マイクロニードルは段差があってもよい。あるいは、マイクロニードルは、階層化されていてもよい。この抄録は、特定の技術分野での検索を目的としたスキャンツールとして意図されており、本発明を限定することを意図していない。

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上記の出願を受けて、2020年に出願されたのが

US20210031439A1

でクレーム16に

16. 治療薬が、タンパク質治療薬、低分子治療薬、ワクチン抗原、またはその抗原性フラグメントからなる、請求項15に記載の方法。

とあり、ワクチン接種用に用いるマイクロニードルであることが分かります(元々の出願でも全文中にはワクチン抗原に関する記載はありました)。

発明者にはDESIMONE JOSEPH M氏が含まれており、上記ノースカロライナ大学チャペルヒル校プレスリリースにも

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とありますので、おそらくこちらの特許出願の内容がベースとなっていることは間違いないと思います。

ちなみに、スタンフォード大学(名義:UNIV LELAND STANFORD JUNIOR)とノースカロライナ大学チャペルヒル校の共願は5ファミリーあるのですが、今回プレスリリースで発表された内容の出願は確認できませんでした。

おまけ

さて、これで終わりとしたいところですが、実は3Dプリンタを用いたワクチンパッチ(マイクロニードル)関連の出願人を見ると、6ファミリー中2ファミリー出願しているGEARBOXという会社があります。

NANOCAV LLC
UNIV NORTH CAROLINA CHAPEL HILL
GEARBOX LLC(2ファミリー)
UNIV MERCER
VAXXAS PTY LTD

実はGEARBOXに権利移転前の権利者がINVENTION SCIENCE FUND(その前はSEARETE)でした。

このINVENTION SCIENCE FUNDはNPEであるIntellectual Venturesのファンドです。ただしIntellectual VenturesはNPEといっても、事業会社から特許を購入するだけではなく、自社で研究者を大量に雇用して自社研究開発成果を特許出願しているので、どちらかというと大学・研究機関に近いと言えるでしょう。

実際にGEARBOX保有の2件の特許を見てみると、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のようなワクチンパッチに用いるマイクロニードルそのもののではないように感じます(特許分類としてA61M37やB33が付与されているのでヒット)。

NPEというと情報通信やソフトウェア分野中心に活動している印象が強いのですが、こういうメディカル・ヘルスケア分野にも特許出願・保有しているので、事業会社の方にとっては知財リスク検討の上で留意しておく必要がありますね。

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