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知財業界での大ピンチ-弁理士の日記念ブログ企画2022

「知財情報を組織の力に🄬」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。

今年もまたこの季節がやってきました、そう弁理士の日です。ドクガクさんが毎年企画しているこのイベントですが、昨年はなんと44名もの方が参加されました。

今年のテーマは「知財業界での大ピンチ」です。

皆さんのピンチ体験を共有させて頂けないでしょうか?
ピンチの場面に遭遇したことはあります?
ピンチの場面を乗り越えたことはありますか?
または、ピンチに遭遇しないための秘訣はなんでしょう?
その他に、業界としてのピンチが何か?という切り口もありますね!

ということで、どういう内容で書こうかと思ったのですが、あまりピンチをピンチと思わない私がピンチに陥った若かりし日の記憶を共有させていただきたいと思います。

1 もともとピンチをピンチと思わない

最初にこう書いてしまうと元も子もないのですが、基本的には楽観的な性格なので、はたから見るとピンチと思われることも、自分にとってはあまりピンチと感じていないことの方が多いです。

ドクガクさんも

ピンチはチャンスという言葉もあり

と書いているように、人生山あれば谷あり、ピンチの後にはチャンスあり、ということで、危機的な状況に陥っても何とかなるだろうと思ってやってきた20年でした。

2 入社3年目の大ピンチ

と書きましたが、実は入社3年目、2004年の夏に大ピンチが訪れました。

最初に結論を書いてしまうと、納期を守れなかった、また自分としても分析結果のクオリティが満足できるものではなかった(クライアントには満足していただいたのですが)、というものでした。

3 大ピンチの詳細

今も仕事=趣味で土日や昼夜関係なく働いてしまいますが、当時は入社3年目で、たしか27歳ということもあり、今以上にバリバリと働いていました。

当時、あるクライアントへ報告した分析プロジェクトを気に入っていただけたので、さらに大きな分析プロジェクトのご依頼をいただきました。

簡単に言ってしまうと1.5万件ほどの特許を、クライアントが設定した100以上の独自分類軸へ分類展開して、技術トレンドを可視化するというプロジェクトでした。

納期的には2-3か月ほどあったので、それほど切羽詰まったものではなかったのですが、いつか大ピンチにつながるミスを犯しています。

3-1 大ピンチにつながった誤解

上述の通り、クライアントから分析プロジェクトで評価いただいたので、私自身が1.5万件ほどをしっかりと目を通して分類展開しなければならないという謎の使命感を感じてしまいました。

1.5万件といっても、無効資料調査や侵害防止調査などであれば、まずはノイズ・該当に分けた上で、該当案件について詳細分析していく流れを取りますが、このプロジェクトは1.5万件すべてが該当で、100以上の分類軸のいずれかに分類展開する必要がありました。

通常、これほどの大規模案件であれば複数人で分担しなければ2-3か月でも厳しいところなのですが、「いや、クライアントの信頼に応えるためには自分が全件読まなければ」と思っていました。

当然、他の調査・分析プロジェクトもあるので、1日当たり読み込める件数は100件からいっても300-400件程度。仮に1日200件ずつ読んだとしても、1.5万件/200件ですから75営業日かかります。

それなのに工数を見積もることもなく、気合で何とかなる・・・・と思いズルズルと納期が近づいてきます。

3-2 大ピンチにつながったスキル不足

もう1つの原因はスキル不足です。

今は1.5万件の読み込みは行いませんが、仮に1.5万件を読み込むのであれば可能な限り効率的に読み込むための工夫をします。

簡単なテクニックでいえば、

  • 出願人ごとに並べる

  • 筆頭IPCごとに並べる

  • 時系列に並べる

という単純なソートです。これだけでも同じような公報が塊になるので、査読効率はかなりアップします。

また、この大ピンチ以降、数千~数万件の分析を行う際は、いきなり読込するのではなくて分析軸ごとに特許分類やキーワードを用いた検索式を設定して機械的に分類展開した後に、目視で分類展開結果の修正・追加を行うようになりましたが、当時はひたすら読む。読んで何とかするという「B29を竹やりで落とす戦法」のような前近代的なアプローチしか知りませんでした。

3-3 大ピンチにつながったプライベート状況

さらに精神的に大ピンチにつながってしまった原因を挙げると、入社3年目、2004年11月に結婚式を挙げるのですが、その前月10月にヨーロッパへ10日ほどの新婚旅行を計画していました。

新婚旅行前=9月末までには確実に終わらせなければいけないというのが、さらに焦りを加速。。。。

今でも思い出しますが、2004年9月は2日だけ出社せず、残り28日は土日含めて出社し、朝からほぼ終電まで働いており、残業時間もかなりの時間数に達しており、さらに精神的余裕を失うという負のスパイラル。。。。

4 結果として

結果として納期前日から徹夜でオフィスに泊まっていましたが、当然終わるわけもなく。。。

朝、上長が出社してきたところで事情を説明して、クライアントに電話をして事情を説明しに行くことになりました。

今でもそのクライアントに会うと「あの時の野崎さん、本当に死にそうな顔していたよね」と言われますが、納期に間に合わず申し訳ない気持ちでいっぱいで、かつほぼ休んでいなかったので、本当に死にそうな顔していたのだと思います。

その後、納期を延長していただき、自分1人ではなく複数人で分担して、分担した結果を私がチェックするというやり方で納得いただき、何とか新婚旅行前には完了しました。

後日談になりますが、クライアントからは「野崎さんが全件目視して欲しいなんて思っていなかった。複数人で分担しても、その結果に野崎さんが責任を持ってくれれば良いというだけ」と言われて、その時に上述の3-1が大いなる自分の誤解=自分の慢心であることに気づきました。

あと、そのクライアントとはその後仲良くなってお酒を飲むようになったのですが「仕事で体を壊してもしょうがないんだから」と諭されました。そのクライアントは若かりし頃に働きすぎて体を崩した経験を持った方でした。

5 いま大ピンチを振り返って

もう15年以上前の話になりますが、この大ピンチで非常に大きな学びがありました。

5-1 クライアントにちゃんと相談する/クライアントの期待値を見極める

実はクライアントへは、納期の日になって分析プロジェクトが終わらないということを事実を伝えました。

当然、その1-2週間前から納期に間に合わせることがかなり厳しいことが分かっていたのにも関わらず。。。。

納期に間に合わせるのが厳しいことが分かった時点でちゃんと伝え、納期延長をお願いするのであれば早めに相談することが肝要です。

また全件自分が目視で読むという勝手な思い込みをしていたわけですが、これはクライアントの期待値を完全に読み間違えていたことになります。これはプロジェクト開始時の打ち合わせでしっかりと確認すべきでした。

クライアントの期待値コントロールについては、期待値を低くしすぎてもダメですし、高くしすぎてもダメだと思っています。この辺りはそのうちイーパテ@お昼のミニ講座で取り上げる予定です。

5-2 上長に頼るなら早め

上ではサラっと書いてしまいましたが、私が上長に相談したのは納期の日の朝でした。もう手の施しようがありません。

別に上長が嫌いだったというわけではありませんが、自己完結したいという気持ちが強すぎて相談するタイミングが遅すぎました。結果として上長や他のメンバーにも迷惑をかけてしまいました(9月末は前期末で繁忙期なのでなおさら)。

私自身、現在は1人会社なので上長が存在しませんが、組織に属している方はピンチになる前にちゃんと上長(先輩でも良いと思います)に相談しましょう。

5-3 工数の見積を立てる

全件該当の1.5万件の分類展開を1人でやろうとすると、上述の通り75営業日(1日200件計算)ほどかかります。1日300件としても50営業日なので、2-3か月の納期でもかなりギリギリです。

当時は工数の見積もりが甘く、どんどん仕事をしたかったので大ピンチに陥った分析プロジェクト以外でも、依頼があれば断らずに対応していました。

自分に甘すぎる工数見積もりは良くないですが、見通しが甘い工数見積もりをしてしまうと、クライアントだけではなく部署の他のメンバーにも迷惑をかけてしまうので、甘めの工数見積もりと辛めの工数見積もりはして、ちゃんと納期に間に合うかどうか見極めるようにしましょう。

5-4 査読効率化・分析テクニック

これは大ピンチの後になりますが、1.5万件のような大規模プロジェクトの場合、どうすれば査読・分析作業を効率化できるかということを考えるようになりました。

もちろん、今でもそこまで効率化できているとは思いませんが、「とりあえず気合で読む!」というところから脱却できたのは良い機会でした。

6 大ピンチは良いことか?

冒頭に述べたように、自分自身はあまりピンチをピンチと思わない/感じない人間です。

が、上記は今振り返っても本当にピンチ、大ピンチでした。

それではこの大ピンチは自分にとって良かったのか?というと、良かったと振り返って思います。

クライアントに迷惑をかけましたし、上長にも同僚にも迷惑をかけました。

が、入社3年目でバリバリ仕事をしていて、鼻っ柱が強くなってきたタイミングでこういう大ピンチに遭遇して、クライアントや上長、同僚に助けてもらえたことでいろいろと気づくことができました。

「若いうちの苦労(ピンチ)は買ってでもしろ」というおっさん的なことを言うつもりはありません。買わなくて済むのであれば苦労(ピンチ)はしないに越したことはありませんが、若いうちはまだ助けてもらえる可能性があることを考えると、積極的にとは言いませんが、チャレンジしてピンチを迎える経験も良いのではないかと思います。

おわりに

最後まで読んでいただきありがとうございました。

私自身が特許調査・分析に従事してきたので、大ピンチの内容も分析プロジェクトに関連するものでしたが、特許調査・分析に従事する方だけではなく、出願・権利化や渉外、翻訳、管理など知財業務にかかわっている方に少しでも参考になるのであれば幸いです。

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