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自社保有特許のライセンス先を特許情報から探すことはできるのか?-PatentSight Summit Japan ホンダの知財活用を例に-

先ほどまでオンライン聴講していたPatentSight Summit Japan「経営に戦略的に活かす知財情報」初日の本田技研工業(以下ホンダ)の発表の中で、ホンダの保有している抗ウイルス車用生地がオフィス家具メーカーの内田洋行のオフィスチェアに採用されたという内容がありました。

内田洋行が活用した特許はホンダ、TBカワシマ、そして積水マテリアルソリューションズの共願案件であるとおっしゃっていたので、対象特許は簡単に特定できました。

特許6023933
繊維製品および繊維加工剤
【要約】優れた抗アレルゲン性と抗ウイルス性を有し、良好な外観を維持することができ、且つ、色移りしにくい繊維製品を提供する。また、当該繊維製品を製造するための加工剤を提供する。本発明の繊維製品は、その表面に、(a)リン酸ジルコニウムが1.0〜3.0g/m2、(b)芳香族スルホン酸系単量体からなる単独重合体が0.12〜0.4g/m2、(c)スチレンスルホン酸塩を含む共重合体が0.2〜0.8g/m2付着していることを特徴とする。また、本発明の加工剤は、成分(a)と、成分(b)と、成分(c)を、1.0〜3.0:0.12〜0.4:0.2〜0.8の重量比率で含む水性分散体であることを特徴とする。

【実施例】また、本発明では、前記抗アレルゲン剤・抗ウイルス剤を繊維製品に付着(固定)するために、バインダーを使用することができる。前記バインダーとしては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂等が使用できる。また、バインダーは繊維製品の摩耗耐久性を高める役割も果たすため、バインダーを使用することによって、摩耗に対するタフネスが要求される用途(例えば、自動車用シート等)に好適な繊維製品を提供することができる。

特にクレームで車両用シートに限定しているものではありませんが、ホンダはN-BOX・N-WGNなどの車両用シートに採用していました。

発表後の質疑応答の際に、どのように内田洋行というライセンス供与先をみつけたか?特許情報をどう活用したのか?という質問に対し、知的財産・標準化統括部の別所弘和統括部長は、知的財産・標準化統括部のスタッフで内田洋行の方と知り合いの方がいたので、きっかけは人づてと回答されていました。

特許情報分析ですべてが分かるわけではない、と折に触れていっている私ではありますが、特許情報分析からある程度ストレートにライセンス先(正確にはライセンス候補先)を抽出できるのであればスマートだなと思うので、せっかくなので、トライアル的に分析した結果を共有させていただきます。

1. まずは被引用分析

最初に手っ取り早くできるのが、対象である特許6023933の被引用分析です。

1次被引用だけではなく、2次被引用(1次被引用の被引用)まで拡張してみましたが、この特許は出願が2016年と比較的新しいため、被引用分析でヒットしたのは特許第6721035号(東亜合成:抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物及び抗ウイルス製品)のみでした。

引用分析(こちらも2次引用まで)も行ってみましたが、内田洋行やオフィス家具につながるような出願は見つかりませんでした。

競合他社を可視化したり、自社保有技術に関連する特許を特定する上で引用・被引用分析は非常に有効ではありますが、さすがに一発でライセンス候補先を出すのは厳しいようです(特に今回のケースでは)。

2. 被引用分析の対象を拡張してみる

1.の被引用分析では特許6023933のみを対象としましたが、さすがに1件の被引用分析では広がりに欠けるので、

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のような検索を行って、TBカワシマか積水マテリアルソリューションズのいずれかとの共願案件であり、アレルゲンまたはウイルスについて言及がある特許を被引用分析の対象として見ました(集合S005)。

まずは引用分析(2次引用のS007)の出願人ランキング。

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残念ながらオフィス家具だけではなく、家具メーカーも見当たりません・・・

続いて被引用分析(2次被引用のS009)の出願人ランキング。

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こちらも残念ながら引用分析の出願人ランキングとほぼ同じ結果・・・・

3. 内田洋行の出願からアプローチしてみる

なんとかつながりを見いだせないものかと考えて、いったんホンダから離れて内田洋行からアプローチしてみます。

内田洋行がアレルゲン・ウイルス対策に関するオフィス家具の出願を行っている、かつ、その出願が最近であり伸び始めているような兆候が捉えられれば、内田洋行側にニーズがあると言えます。

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結果はゼロ件であえなく、このアプローチも討ち死に・・・・・

4. ニーズキーワードから探る

あきらめきれないので、最後のアプローチとして、アレルゲンやウイルス対策といったニーズキーワードを含む母集団(2010年以降の出願)からアプローチしてみます。ただし薬や医療機器などが多数含まれると予想されるので、A61のメディカル系、C12のバイオ系、A01の農業(特に農薬)系は除外しました。

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この約1,800件の母集団のIPCサブクラス別件数推移(累積50件以上)を取ってみたところ・・・

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のようになり、家具関係のA47系はありませんでした。

A47B テーブル;机;事務用家具;キャビネット;たんす;家具の一般的細部
A47C いす

ダメ元で絞り込んだ約1,800件にA47B+A47CをAND演算したところ、ヒットしたのは8件で、出願人別件数推移を取ると

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のようになりました。内田洋行やコクヨ、岡村製作所などオフィス家具メーカーは見当たりません。

5. まとめ

PatentSight Summit Japan「経営に戦略的に活かす知財情報」でのホンダの発表をベースに、特許情報からライセンス先を抽出できるかについてざっとまとめてみましたが、感想としては「やはり難しい」ということを実感しました。

もちろん、この事例だけで特許情報分析が活用できないと言いたいわけではありませんし、オンラインセミナー終了後に思い付きで30分程度で行った粗々な分析ですから、もう少し詳細検討すればホンダの特許からオフィス家具へのリンケージを見つけることができるかもしれません。

なお、上記の分析にはパナソニック ソリューションテクノロジーのPatentSQUAREを利用しました。

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