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特許から見るフードテックの国内外出願トレンドと注目企業・技術の抽出アプローチ

昨年2020年11月26日に外国出願支援サービス主催「特許から見るフードテックに関する最新トレンド」というセミナーを開催しました。

セミナーを聴講できなかった方もいらっしゃると思うので、本記事ではセミナーで用いたスライドを用いて「特許から見るフードテックに関する最新トレンド」のエッセンスについて解説します。

前半ではフードテックに関する国内外特許出願のマクロトレンド、そして後半ではの紹介だけではなく、後半ではフードテックを例に特許情報を用いて注目企業・注目技術を抽出するアプローチについて解説していますので、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。

・前半のフードテックに関する国内外特許出願トレンドはあっさりとしたマクロ分析となっております。特許以外の情報を含めた総合的な分析ではありませんのでご了承ください。


1. 特許から見るフードテックに関する国内外出願トレンド

フードテックというとImpossible FoodsやBeyond Meatのように人造肉・培養肉を思い浮かべる方も多いかもしれません。

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このセミナーでは以下のようにフードテックを幅広く定義してマクロ分析を実施しました。

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【補足】食品関連の特許分類であるA23(食品または食料品;他のクラスに包含されないそれらの処理)を用いようかとも思いましたが、特定の技術分野へ偏るのを避けるためにあえて上記のようにキーワードだけで母集団を形成しました。このようなキーワードのみで母集団を形成して分析した事例として拙稿「日本における高齢者関連特許・意匠出願トレンド」がありますので参考にしてください。

なお、フードテックの全体像を捉えるためには「フードテック革命-世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義」がおススメです。

まずはグローバルでのフードテック関連出願トレンドです。データベースPatbaseの統計解析機能で作成しています。

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中国籍の出願が圧倒的に多く、日本や米国などを大きく引き離していることが分かります(ちなみに累積では中国がトップで、2位が韓国、3位がロシアになります-ロシアが3位になる理由は特定の個人発明家が集中的に出願していることに起因します-)。

続いてフードテック関連企業(出願人・権利者)ランキングですが、ロシアの個人発明家(詳細不明)が2位を大きく引き離して圧倒的なトップです。

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上位にLGエレクトロニクスやMedia(美的集団)がランクインしていますが、これは上述のような母集団を形成しているために調理家電・器具なども含まれるためです。

皆様におなじみがある食品関連企業となるとネスレ(Nestle)や日本の味の素が上位にランクインしています。

このように出願件数(正確にはパテントファミリーベース)で見ると、どうしても大手企業のトレンドしか見ることができません。次のパートでは、出願規模は小さいが、最近フードテック分野へ注力している企業などの抽出アプローチについて紹介します。

続いてIPCという特許分類ベースで見たフードテックの技術分野別推移です。

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食品関連=A23Lが主であるが、近年は調理器具=A47Jや計測=G01Nの出願が増加していることが分かります。

続いて日本の出願トレンドです。

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日本全体の出願件数は2000年代前半から減少傾向にあり、フードテック関連の出願件数も減少傾向にありましたが、2017年以降は横ばい傾向にシフトしています。

出願件数の増減は当該分野の注目度合いを示す1つの指標なので、フードテック分野へも注目が集まっている1つの現れであると言えるでしょう。

続いて企業(出願人・権利者)ランキングです。

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トップはパナソニック、2位に不二製油、そして3位にグローバルのランキングで上位にランクインしていた味の素となります。

上位企業の件数推移を見ると、ほとんどの上位企業の出願件数は減少傾向にありますが、不二製油やネスレ、日清オイリオなど一部の企業はむしろ出願を増加させていることが分かります。

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フードテックといっても食品から調理家電など様々なテクノロジーが混在していますので、上位企業の技術分野別出願件数分布をIPC(国際特許分類)で見てみます。

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トップのパナソニックや、日立グルプ、三菱電機、東芝グループはF25D(冷蔵庫)やF24C(レンジ)といった家電分野への出願が目立つのに対し、不二製油や味の素、キューピーなどはA23L(食品・調味料)など業界・業種の違いによってフードテック関連出願に違いがあることが分かります。

2. フードテックの注目企業と注目技術の抽出アプローチ

前半では国内外のフードテック関連出願のマクロトレンドについて見ました。後半ではフードテックを例にして、注目企業や注目技術を抽出するアプローチについて説明します。

主な抽出する方法としては以下の3つがあります。

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今回はMS Excelでも作成可能な「出願ポジショニングマップ®」と「被引用回数×出願年」を紹介します。

出願ポジショニングマップというのは、私が実際の分析プロジェクトで利用しているパテントマップで、横軸に出願件数の長期増減率、縦軸に出願件数の短期増減率を取っています。

国内フードテック分野の企業の出願ポジショニングマップを見てみます。

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第1象限は長期増減率がプラスで、短期増減率もプラスなので、ずっと継続的に出願を増加させている企業です。上記のマップではぐるなびが該当します。

一方、三井化学のように第2象限は長期増減率はマイナスですが短期増減率がプラスだと、分析対象期間(今回は20年間)を通じて出願件数は減少傾向であるが、直近では急増していると言えます。

上記マップは原点付近に企業が集中しているので、原点付近を拡大すると以下のようになります。

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出願を長期的または/かつ短期的に増加させている企業は注目なので、このマップでは黄色で網掛けしている日清食品、三菱商事、J-オイルミルズ、日清フーズが、国内出願におけるフードテックの注目企業となります。

今度は企業ではなく、特許分類(ここではIPCサブクラス)を取ると、注目企業と同様に注目技術が分かります。

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ここではB25J(ロボット)への長期・短期的出願件数が増加していることが分かります。ただしバブルサイズは小さいのでまだ出願規模は小さいので、今後増加する可能性があると考えられます。

こちらも同様に原点付近を拡大すると以下のようになります。

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上記では特許分類のIPCサブクラスという非常に大まかな特許分類を利用していますので、もう少し下位の具体的な特許分類を選択したり、独自分類軸で整理するとより注目技術を捉えやすくなります。


最後に「出願年×被引用回数」です。

計量書誌学的に重要な論文や特許の被引用回数が多いと言われています。特許の場合は基本特許や重要特許と言われます。もちろん100%そうとは言い切れない面もありますが、基本特許や重要特許である可能性が高い出願を抽出するために被引用回数は便利なデータです。

J-PlatPatでは残念ながら被引用回数をダウンロードすることはできませんが、有料データベースであれば被引用回数をダウンロードすることができます。

あとは出願年のデータがあれば、以下のようなパテントマップを作成することができます。

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横軸が出願年、縦軸が被引用回数、バブルサイズが件数です。ほとんどの特許は被引用回数ゼロなのでX軸上には大きいサイズのバブルが並んでいます。

重要なのは被引用回数が多い出願であり、かつまだ若い出願(最近の出願)です。ここでは直近の出願で被引用回数が多いすなおネットと、古い出願で被引用回数が最多の個人発明家の特許について吹き出しで紹介しています。

これらの出願が本当に基本特許・重要特許なのかは読んで確認して見ないと分かりませんが、統計的に重要特許を特定し、そこから注目企業・注目儀重を抽出するための1つの方法としては有効だと思います。

なお、この出願年×被引用回数マップですが、無料特許データベースのLens.orgでも作成することができますので、興味ある方はぜひご覧ください。

3. まとめ

以上、フードテック分野において国内外特許出願のマクロトレンドと、注目企業や注目技術を抽出するための考え方やテクニックについて紹介してきました。

後半紹介した出願ポジショニングマップや出願年×被引用回数マップなどはExcelでも手軽に作成できますので、ぜひとも今後実務に活用していただければと思います。

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