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命を狙われた皇子と用心棒!精霊の守り人を読んでくれ

 たまたま手に取る機会があり、どこかで名前を聞いたことがあるなと読んでみたら、シリーズ最後まで読んでしまった。そこで守り人シリーズの最初の作品、精霊の守り人を紹介したい。好きな場面紹介になるので少々ネタバレになるが基本的に序盤なのであまり気にせずに。

 あらすじ

 短槍使いで知られる用心棒バルサがある日、遠くで王族の行列を見ていると、急に牛車が暴れ出した。中にいた皇子が川に落ち、流されてしまう。従者たちが次々濁流に飛び込み流される中、バルサもまた飛び込んでいく。不思議な現象に会いながらも、見事第二皇子チャグムの救出したバルサは、その母君の館に招かれるのだった。普通は宿で報奨金を渡されて終わりのはずと怪しむバルサ。その予感は当たりなんと皇子は父である皇帝から命を狙われているという。皇子には皇帝の子ならば憑りついてはいけないものが付いてるらしい。平民としてでも生きていてほしい、その母の願いを聞き受けたバルサは、少しでも逃げる時間を稼ぐため、皇子の寝室に火をつけ死を偽装しながら館を去るのだった。

 守り人シリーズを推すとき一にも二にも語りたいのは主人公バルサについてだ。30歳女用心棒。守り人シリーズの世界は中国系の呪術や精霊のいるファンタジーな世界だが、それでも女の用心棒は珍しい。彼女が用心棒としてやっていけるのは特別な力があるから?いいや違う、バルサは呪術や精霊の声を聴けるような能力は持っていない。だが確かな状況判断力、二つ名になるほどの短槍の腕、そして何より困った人をほっておけない義侠心があった。

 バルサの魅力は物語の始まりからたっぷりと詰まっている。あらすじの範囲をもっと詳細に語ろう。とある事情から王族に敬意を持たない彼女だが、それでも皇子が川に落ちた時は逡巡することすらなく川に飛び込む。だがただ飛び込むのではなく、しっかり縄を巻き濁流の中でも流されぬよう準備する。
 彼女は度々無茶をやらかすが、決して蛮勇の持ち主ではない。その状況で最適な、どんな危機が迫ろうと可能性のある方向に走っていく。常に考え行動するおかげで、俺はハラハラしながらも安心して物語に引き込まれることができた。

 次に第二皇子の母、二ノ妃との話し合いだが、バルサは莫大な報償と引き換えに、皇子のことを頼まれる。だが一通り話を聞いた後彼女は妃を非難する。これは断れない仕事であり、断ってこの場で殺されるか、依頼を受けて皇帝から狙われ殺されるかの仕事であるということを、折角皇子の命を助けたのに卑怯だと。
 この話を聞いた妃はなるほどと思いながらも語気を強める。皇子のためならなんでもすると。負けじとバルサも返す。今いる護衛の数を把握し、少しでも動けば皇子を貫くと。そして殺気が十分満ちた中、彼女は依頼を受けるという。少しうっぷんが晴らしたかっただけといいながら。
 この部分を読んだとき俺はガッチリ心を掴まれた。バルサは力だけで渡り歩いてきたマヌケではないと。頭の良さを持ち合わせて、相手がどのような人物でも物おじしない胆力がある。

 あらすじからは少し離れるが好きな話をもう一つ。彼女は逃走のため山を越える道具を買いに街へ出た。揃えるものはたくさんあるが、自分が買いに回れば追手に悟られるであろう。だから知り合いの便利屋に買い物を頼む。そうやって追手を撒く準備をするが、一方でもし追手が尋ねて来ても、義理立てすることなくしゃべってしまっていいという。
 素早く逃亡計画を立て実行する一方で、相手に負担がかからぬように気を遣う。この優しさがバルサの最大の魅力かもしれない。自分は無茶をするが、他人に命を張らせはしない。それゆえか、彼女を慕う元依頼者や同業者も多い。

 バルサの次に第二皇子チャグムについても軽く紹介しよう。チャグムはとても素直で賢い。偉そうな人にありそうな尊大ムーブは一切しない。それでいてやはり運命に理不尽を感じている。やがてその思いをバルサにぶつけることになるのだが、それが彼女の持つとても渇いた部分をときほぐすことになる。ここが、この物語の一番好きな所であり、読むならここまで読んでくれと思う所である。
 チャグムは後に守り人シリーズの中のバルサが出ない話、旅人シリーズの主人公を務めることになる。旅人は皇子であるチャグムが主人公だけあって国同士のやりとりが中心となり、守り人の世界観を一気に広めた作品である。バルサがいないという点が不安だっただが政治的なものを含めた剣呑なやりとりは非常に面白い。

 精霊の守り人の紹介はここで終わろう、上記の二人以外にもバルサの最愛の友である呪術師タンダや、タンダの師匠で70歳の元気ババアトロガイなど面白いキャラが多い。その面白いキャラたちを様々に交わり物語を紡いでいく。精霊の守り人単体で十分面白いが、もし最後まで読んだなら闇の守り人も読んでもらいたい。精霊の守り人で心情が変化したバルサが何を思い次の旅へ向かったのか見届けてほしい。

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