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【再放送】発狂頭巾SP!聖なる夜に悪の笑いがこだまする!許すな発狂頭巾!親亡き子にメリークリスマス!

 人通りもなく月明かりだけが照らす道。フラフラ歩く男とそれを支える子供がいた。

「父ちゃんお酒飲み過ぎだよ」
「いいんだよ勝介。今日の博打で大勝ち、あの世の母ちゃんも許してくれらぁ」

 勝蔵がフラフラと左側に歩いていくと勝介は右に引っ張りなんとかまっすぐ歩かせようとした。

「ねぇもうやめようよ。ここらへん人さらいでるっていうんだ。お金があってもさらわれちまったら元も子もないよ」
「俺ぇは金持ちにはみえねぇ。攫っても身代金はでねぇ。こんな攫うやついるわけねぇ。それに人さらいは噂だろ」

 勝蔵は気にも留めずほのかな灯りの中を右へ左へと好きなように歩いて行った。
 しばらくすると前から男二人が歩いてきた。

「あっ?」

 勝蔵は訝しむように声を上げた。前から来た二人が勝蔵の前で止まったのだ。二人は勝蔵の背をこえるがたいのいい男だった。勝介がギュッと服を強くつかんだ。

「父ちゃん!」

 勝蔵の後ろからもう一人の男が現れ、勝介を強引に背負い走り出した。

「なんだテメェら!」

 勝蔵はすぐさま追いかけようとするが前の二人がさっと前にでて一人が肩を掴んだ。

「オラッ!」

 掴まれた瞬間、勝蔵は男の顎目掛けて拳を叩きつけた。男はゆらりと揺れバタンっと大きな音を立て倒れた。勝蔵は大工仕事で鍛えられた体と生来のけんかっぱやさで荒事に馴れていた。

「エイヤッ!」

 一人倒れて怯んだすきに股間を蹴り上げた。股間を抑えた男をすぐさま跳ね飛ばし走り出す。先ほどの千鳥足は嘘かのよう真っすぐで素早く息子を攫った男へ迫る。

「ウリャッ!」

 息子を背負った男の腰目掛け飛び掛かった。男は地面に顔面から落ち、勝介は投げ出され背中から落ちた。

「逃げろ!勝介!逃げろ!」

 勝蔵は倒れた男の脇腹を思いっきり蹴り上げ、背中を打って苦しむ勝介に向かって叫んだ。

「父ちゃん!」

 勝介は倒れたまま絞り出すように声を上げたが、勝蔵は背を向けていた。先ほどの二人が追い付いてきたのだ。

「勝介!逃げろ!」

 勝蔵は叫び、男に殴りかかった。

「父ちゃん!」

 勝介は立ち上がりもう一度父を呼ぶ。勝蔵は一人に腕を掴まれ、もう一人から殴られていた。このままでは殺される。

「逃げろ!」

 だがそれでも後ろを一瞬振り向き叫んだ。勝介はその声に応え、振り向かずに走り出した。
 それを見届けた勝蔵は改めて前を見る。

「イっ……アッ……ア……」

 地面に倒れていた男が起き上がり、勝蔵の脇腹に匕首を刺した。勝蔵は膝を折り、我が子の無事を祈りながら闇へと落ちていった。

――

 ここは来涙町、京蘭通り。年の瀬が迫る中店を構える商人たちが、威勢のいい声を張り上げていた。

「さぁ安いよ!安いよ!年の瀬のもあとも少し!年末年始に必要なもの揃えるならここハチ屋にお任せ!さぁ今ならまだ安い!明日になったらわからない!必要なものは今すぐここで!さぁどうした!どうした!」

 ハチが呼び込みの声を上げてると見おぼえのある影が現れた。

「吉貝の旦那じゃないですか!最近顔もみせないでなにやってたんですか!?」
「密度様なる異教の神をあがめるものたちがおってな。そのものたちの祭りがあるからと村を訪れてみれば、どうみても狂いのものたち。ワシが一喝したら、色々あって村が燃えてしまってな」
「流石の吉貝の旦那だ!相変わらずデカいことしてますね!」

 ハチは笑いながら、適当な返事をした。ハチは吉貝のいうことをちっとも理解していない。だがハチは度々吉貝に助けられ、吉貝のことは信頼していた。

「ところでハチよ、その赤い服はなんだ」
「これですか。これは西洋にサンタクロウスっつもんがいるらしくそれが着てる服なんですよ。源内の旦那がいうには、西洋じゃ明日サンタクロウスっていうのが子供に贈り物を配るらしく、そっちじゃ人気の人物だとか。でオレもあやかってサンタの格好で呼び込みやってるんですよ」
「ふむ、子供に贈り物を送るとな」

 吉貝が興味深そうな声を上げた。

「ハチさん、黒沢のご隠居のところ行ってきます」
「おう、カツ!きぃつけて行って来いよ!」

 ハチは手を振り子供を送りだした。

「なんだあの子は?」
「あの子は勝介っていって母は流行り病で他界、父親も最近噂の人攫いどもにやられちまったんです。じいさんばあさんがいるんですが、しばらく迎えにこれないってことで、その間預かることにしたんですよ。今、人手もいりますしね」
「そうか」

 何か考え込むように吉貝は顎に手を当てた。

「あの子はサンタクロウスがいれば何を願うだろうな?」
「うーん……親父を殺した奴らが一刻も早く捕まってほしいといってましたね。いやぁ、それをおくるのは無理ですね。せっかくこの格好してるんですからなにかよいもの、贈ってみましょうか」

 それが良いな、そういうと吉貝は去っていった。なにか含みのある反応にハチは訝しんだが、吉貝の旦那がおかしいのはいつものことだと仕事に戻った。

――

 町外れの草原、今は草木は枯れ、風が吹いても音がたてるものがない中、その中でぽつんと立つ廃寺の中から声が響いていた。

「みなさん、頑張ってくださいよぉ、年の瀬は精力剤がたくさん売れますからねぇ。おっとそこ、もっと慎重に切り取る!」

 異邦人のように鼻が高く白い男は、ゴロツキから匕首を取り上げ死体の陰茎をサッと振り切り落とした。

「いいですかぁ。この部分が今一番高い!年末年始精を出そうとしてるお偉いさんは多いんです!コイツをしっかり薬にして売りつけるのが私の役目! !そして薬にしやすいようちゃんと切り落とすのが君たちの役目だ!せっかくアナタたちが集めた人なんだから慎重に扱ってくださいよ!雑なことするならアナタたちのアソコを切りますよ!」
「す、すんません戸名先生」

 ゴロツキは声を震わせて、作業へ戻った。
 部屋中あちこちで死体が解体される中、戸名は乾燥した人の陰茎、肝、心臓、それらを薬研に入れ、丁寧に轢いていく。この精力剤だけで10両の価値がある。死体を全て薬に変えていけば、100両は手堅い。子供が原材料ならもっと高い値が付く。人を攫う手間、役人に払う賄賂を差し引いても十分おつりが出る。
 戸名隗は元はしがない町医者だった。ある日ミイラの薬は高く売れると聞き、引き取り手のいない死体から見様見真似でミイラ薬を作ってみた。死体を乾燥させ、薬研で粉にしただけだったが思いのほか評判が良く、越後屋も認めるほどだった。それから彼は表の世界から離れ、役人に賄賂を払い、ゴロツキを金で雇うことで、自作ミイラ薬を越後屋を通してお偉い方たちに売りさばく商売を始めるのだった。
 金さえあればヤブと、鼻デカと、チビといわれみんなの笑いものにされることもない。短期間に荒稼ぎし、あとは足が付く前に隠居する。ただそのために彼はひたすら薬を作り続けていた。

 ドンッ!
 突然白い着物を着た、白い頭巾の男が廃寺の戸を開け入ってきた。

「なんでしょうか?」

 戸名は手を止め、立ち上がった。ここには時々、人が来る。越後屋には口止めしてあるが、どうしても直接買いたいという上客にここを教えることがある。大抵は部屋の惨状を見て引き下がっていくのだが、この男は頭巾から微かに見える目は全く動かず堂々としていた。よほど肝の座った人物なのだろう。戸名は薬でしたら奥の部屋に、といい近くのごろつきに案内するよう指示を出した。
 ゴロツキは作業をやめ白頭巾の男に近づいた。

「ギョッ!」

 白頭巾の男が叫ぶとごろつきの体に左わきから右肩にかけて真っ赤な線が走った。男が刀についた血を払うとゴロツキの体は二つに分かれ、ゴトリと音を立てて落ちた。

「なんだコイツは!?狂ってんのか!?」

 別のごろつきが腰を抜かしながら叫んだ。

「狂うておるだと……」


「夜な夜な人を攫い、細切れにする!狂ってるのは貴様らの方ではないか!」
「発狂頭巾だ!お前らやれ!」

 戸名は叫んだ。噂には聞いていた。突如現れ、全員皆殺しにして去っていく凄腕の剣客。賄賂も人質も一切きかぬ。およそ狂ってるとしか思えぬ頭巾の男。
 だがここにいるごろつきは人間を手早く解体できるほど殺しになれた連中だ。攫うのもコイツら、戦いには慣れている。
 一人は不意を打たれたが残り6人いる。負けるはずがない。
 戸名は部屋の奥に下がり、ごろつきどもが襲い掛かるのをじっと見ていた。

「死ねやゴラっ!」


「ギョアーッ!」

 逆袈裟斬り!振り上げた手を斬り飛ばしながら首も飛ばす!

「テメェ! この野郎!」

 腰だめに匕首突撃!

「ギョイッ!」

 突き!相手の額に刀が刺さり後頭部まで貫通!

「もらった!」

 横から匕首を振り下ろした。刀は未だ突き刺さったまま、切り返すことはできない。

「ギョ……エッ!」

 刺さった死体ごと刀を振り回す!横からきたゴロツキは死体にぶち当たり、その場に倒れ、突き刺さった死体はすっぽ抜け壁に叩きつけられた。そして倒れたゴロツキの首を刺し、息の根を止めた。
 発狂頭巾は残る3人のごろつきに顔を向け、ゆっくりとにじり寄る。ごろつきたちも狼狽を隠せず下がっていく。戸名は急いで部屋の奥の戸を開けぴしゃりと占めた。
 その音をきいたゴロツキたちは匕首を捨て一斉に戸へ向かう。だが開かない。三人は戸を叩くが思いのほか頑丈だった。
 そして後ろの強い気配に押され三人は振り向く。そこには刀を縦に構えた発狂頭巾がいた。白い服は血を浴び、白く縁取られた赤い服のようになっていた。

「ギョオッ!」

 叫びと共に水平に一閃!三人の上半身と下半身がきれいに分かれた。そして死体を蹴りのけ、戸を斬り開け、穴だらけの廊下をずんずん進んでいく。少し進むと開けた部屋に出た。そこには埃をかぶり朽ちた仏陀の像と戸名がいた

「凄いですね!アナタ!一体ここはどう突き止めたんですか!?役人には賄賂を払ってるから言わないはずですが」
「人に聞かずともわかる。天が俺をここへ呼んだのだ」
「噂通り狂ってるようですね。アナタに処方できる薬が思いつきませんよ」
「医者としての務めが果たせぬなら大人しく死ぬがよい」

 発狂頭巾は刀を縦に構えにらみつけた。

「そうはいきません。隠居して楽に生きたいですからね。少々いやですが……私も狂うことにしますか」

 戸名は人の形をしたニンジンを取り出した。

「これは何か知っていますか、人似草や発狂ニンジン、西洋だとマンドラゴラと呼ばれるものです。話によるとコイツを引き抜くと叫ぶらしく、その声を聴くと狂うとか」

 戸名はニンジンにかじりついた。

「そして食べると狂気と共に鋼の肉体が得られるんですよ!」

 戸名の体は膨れ上がり、手足が丸太のように太くなり、体も力士を思わせるほどたくましくなった。

「アアアアッ!」

 獣のごとく叫び、発狂頭巾目掛け拳を突き出した!

「ギョカッ!」

 拳に向かって突きを繰り出す!

「ヌゥ!?」

 だが刀は拳に刺さらず跳ね上げられた。足が後ろに下がり態勢がもつれた所に拳が突き刺さる!発狂頭巾の顔面を捕えそのまま壁まで吹き飛んだ!

「ブヘヘヘ、すごいでしょう。血の巡りが活発になることにより、皮膚が文字通り鋼のように硬化するんです。矢でも鉄砲でも貫けない!高価でしたがもしもの時に備え買ってよかったァ!」

 発狂頭巾はひしゃげた壁から立ち上がった。

「ギョアッ!」

 戦意の衰えは少しも見せず、走りながら刀を振り下ろす!刃は戸名の顔面を捉える。だが戸名は微動だにしない。

「コイツの効果がしりたいですからねぇ!好きなだけ打ち込んでいいですよォ!アナタが疲れてうごけなくなるまでどうぞ!」
「ギョアッ!」「ギョイッ!」「ギョウッ!」「ギョエッ!」「ギョオッ!」

 一心不乱に刀を顔面に叩きつける!

「ホラホラもっと打ち込んで!もっと強くもっと強く!」

 戸名はニヤニヤと笑いながらその顔をただ突き出した。

「ギョタッ!」「ギョチッ!」「ギョツッ!」「ギョテッ!」「ギョトッ!」

……?戸名は違和感を感じ、鼻に手を当てる。血、鼻から血が出ている。

「ギョラッ!」「ギョリッ!」「ギョルッ!」「ギョレッ!」「ギョロッ!」

 ポタポタ血が流れだし、次第に勢いが増していく。

「貴様!」
「ギョォォォォォン!」

 戸名が動き出す前に、飛び上がり全体重を乗せた一撃を鼻に向かって叩きつけた!するとせき止められていた川が決壊するように、血が噴き出す!
戸名は大きな鼻を抑えるが血は止まらず、真っ赤に鼻が染まった。

「殺す!」

 戸名は発狂頭巾を掴みかかろうとしたが、その腕はしぼみはじめていた。ついには元より細くなり血の海の中に倒れた。

「なぜ、血が……」
「鼻は血が出やすい」

 発狂頭巾は短く答えた。人斬りの達人である発狂頭巾はやぶ医者以上に人体に詳しい。外から斬れぬならば、出血しやすい箇所を叩き、血を流させ薬を抜くべし。マンドラゴラの血行を良くする効果も助け、血は異常なほどに流れた。

「そ、そうです…か……」

 ついにこと切れた戸名をじっと発狂頭巾は見つめた。そして刀を高く掲げ、首目掛け振り下ろした。

――

 その日、来涙町には地面を覆うほどの雪が降った。

「おい大変だ!勝介!表に出ろ!」

 ハチに起こされ勝介が表に出ると雪の上に生首が並んでいた。
雪に血で文字が書いてある。

「この者たち人さらいなり。この首、親を亡くした子へサンタからのプレゼントである。メリイクリスマス」

――

「ところで源内よ、メリイクリスマスとはどういう意味だ?」
「ふむ、クリスマスを楽しんでね、といったところか」
「ならば良かった。親の仇が届けられたとなればさぞ楽しかろう」

 吉貝はお茶を置きカカと笑った。

発狂頭巾って?

いわゆる集団幻覚です。みんなでなかよくつかってね。
本当はクリスマスの日に出したかったけど思いついたのがクリスマスの前日で形に出来なかった。それから色々本を読んで創作力が充電できたので描き終えられた。やったね。
タイトルを再放送にしたのはこの時期になってクリスマスの話をしてるのは再放送だから、という体。これ自体ははじめてここに書いたよ

さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます