復讐するは今にあらず

 暗闇の中どこまでも木々と静寂が続く林道。どこまで車を走らせても似たような景色が続く。丸山啓司は大きなあくびをした。そして気合を入れるため自分の胸を強く叩いた。今は少しでも気を抜いていい状況ではない。

「本当にこんなところにいるのか」

 つい疑問が口から零れ落ちた。桜田聡、父を殺した男。目つきが気に入らない。そんな理由で人を殺す暴君も権力争いに負ければ今はこんな所で一人という。何もない景色を見続け、今の境遇に思うことはあるものの、丸山の殺意は失速せずに走り続けていた。

「ガァッ!」

 叫びと共にシートベルトに体を抑えつけられ、鉄と鉄がぶつかる轟音が鳴り、視界が白に覆われた。エアバッグから顔を上げると丸山は何も考えず車外に飛び出す。二つの車は正面から混ざり合い、ボンネットには血まみれの老人が横たわっていた。丸山は冷静になろうと呼吸に意識を向ける。一つ二つと呼吸を数える度に、意識がはっきりし状況を飲み込む。そして復讐計画が潰えたことを理解した。

 せめて老人を救おう。そう思い立ち、状態を見るため老人にライトを向ける。その顔にライトが当たった時丸山の体は止まった。桜田聡、その顔は忘れはしない。何年経とうとも。ここに憎き仇がいる。まだ復讐は潰えていなかった。だが丸山はまだ止まっていた。

 この機会を何年も待っていた、何度も計画を立て直し手にした機会。それがこの終わりでいいのか?桜田に15年の積もった憎悪をぶつけ、恐怖に震える相手の額に穴を開ける。そんなことを夢想したはずだ。だがここにはそれはない。しかし終わり方は二つしかない。このままにして桜田が死ぬのを待つか、その前に自分の手で殺すかだ。
 丸山は車内にある父の銃を取り出し、桜田に向ける。

「助けてくれ、おれが悪かった」

 虚空に向かいうわごとを繰り返す老人、荒くなっていく呼吸。人さし指をいつまでも曲げれずにいると後方から光が迫ってきた。

【続く】

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