見出し画像

ブラッドボーン 夜明けを追う狩人 第七話 『ガスコイン神父』

乱雑に置かれた墓石の中、グチャリグチャリと音がする方向へ歩く。丸帽子にカッソクコートを着た男、グチャリグチャリと獣に大きな斧を片手で打ち付けている。

「…どこもかしこも、獣ばかりだ…貴様もどうせ、そうなるのだろう?」

打ち付ける手を止め、白い歯をこちらに向ける。言葉に理性を感じない。獣がうめいてるようだ。右手に握られた斧は使者が渡そうとしたもの一つ。獣になった狩人か。

聖職者の獣と出会ったときにあったゾワっとした感じが再び頭の中に訪れる。ガスコイン神父、名前が見えた。聖職者の次は神父か。その手の職業に縁があるな。そう考えているとガスコインはこちらに向かって走り、勢いよく斧を振り下ろした。

俺は振り下ろされる直前で後ろに飛びのき、斧は大地を叩いた。砂ぼこりが高く宙を舞う。人型の持つ鉈や斧と威力が段違いか。

ガンッ!

銃声が耳に響く。それと同時に俺の肉に弾がめりこみ、痛みと熱さが共に通り抜けていく。右の斧に気を取られていたが左には散弾銃か。痛みはともかく血の方は大して出ていない。あまり何度も喰らいたくないが、避けるとなると散弾ということもあり難しい。そして一番危険なのは斧。なら銃ぐらい受けてやる。輸血液はある。

ひとまず走りこまれても対応できる距離を保つ。ここから動きを見る。聖職者の獣で観察が重要だった。なら銃で撃たれようとみるしかない。俺は目を見開き相手のわずかな動きも見逃さぬようまっすぐ見る。だが凝視していた相手は視界から消えた。右、左、急いで目玉を動かす、いない。考えられる最後の方向に目を向ける。足元だ。相手は身をかがめ前転。ここまで一気に距離を詰めた。

ガスコインの斧は地面にこすり付けられ火花を散らす。そして地面から離れ勢いよく舞い上がり、俺の体を天へと飛ばす。そして地面と落ちる。

衝撃で肺の空気が全て抜け、息ができない。血もだいぶ噴き出した。聖職者の獣に殴られた時と同じぐらいか。体の大きさは違うがこの力か。だが本来なら真っ二つになるところだ。血のおかげでこの程度で済んでいるのだから俺は運がいい。痛みを紛らわすためいい方向に考えようとする。だが新たな脅威が迫ってきた。

ガスコインは鋭く飛び上がり斧がこちらに迫る。これを喰らえば終わりだ。生存本能が痛みを消し、すぐさま起き上がり左に回避。そのまま墓石の裏に回り銃の射線から抜け輸血液を刺す。

ここからどうする。銃に前転、動きに聖職者の獣のような緩慢さがない。ガスコインはこちらに迫りくる。そしてあの前転。一気に足元まで迫り斧が火花を散らす。避けても先がない、ならば。破れかぶれ、俺は引き金を引いた。銃弾はガスコインの胸へ刺さり、両膝が地面に落ちた。

タイミングがあったか。俺は右腕に力を込め、力の限り引き絞り腹目掛けて腕を突き刺した。内臓を握りつぶし、手をすばやく振り抜く。血が噴き出しガスコインは大きく後ろに下がり倒れた。だがすぐさま起き上がりまた前転を繰り出す。

流石にあの一撃では倒れないか。再び引き金を引く。今度は相手も銃。お互いに銃弾が突き刺さる。だが互いに怯みこれ以上の追撃はなし。ひとまず前転に銃を刺せばもう飛ぶことはないか。

人型のようにタイミングさえあえば眩暈が取れる。ならば振り下ろす瞬間に銃弾を叩き込む。これが生き残る道だ。俺は相手の前に出る。振り下ろす瞬間に銃、成功、血を抜く。横振りに銃、間に合わない、血をばらまく。正確なタイミングは失敗して覚えるしかない。輸血液を刺し、血を噴き上げながらも、銃を合わせ血を抜いていく。輸血液が全部なくなる前に狩れればそれでいい。

「………匂い立つなあ」ガスコインはそうつぶやくと斧を両手斧へと変形させた。狩人の武器にならそういう仕掛けがあるか。間合いに入ればそう簡単に避けられない長さ。だがこちらは避けずに銃を合わせるだけ。武器の長さは関係ない。鋭い突きを放つようになったが、厄介なのはそれぐらいだ。。逆に大振りな攻撃が増えた分狙いやすくなった。

俺は何度目かの内臓を潰し、ガスコインの血を一気に抜く。輸血液はまだある。この調子ならこっちの勝ちだ。そう確信したときガスコインは急に悶え頭を抱える。痛みから……ではないか。もっと危険なナニカだ。俺は敢えてこの好機を見逃し、直感に従い距離を置く。そしてガスコインは俺よりふた周りも大きくなり、全身に毛が生え鋭い爪を備える。狼男とでもいうべきか。怪物になった。

怪物は腕を振り回し暴れまわる。斧よりも鋭い空気を切る音を発し、巨大な腕を振るたびに墓石は砕け景色が変わる。もう手には武器は持っていない。だが破壊力も動きの鋭さも増している。俺は避けるべく必死に飛び回るが相手のほうが圧倒的に早い。動き回る巨体に追い詰められ、回避が間に合わず重い一撃が俺の血肉をえぐる。

相手の血はそんなに残っていないはず。だが攻撃する隙が無い。銃弾も少ない。真正面から斬りあうには輸血液の量は心もとない。

俺は一か八かにかけた。俺の目的は聖堂街につくこと。こいつを倒すことじゃない。無理そうなら一気に駆け抜ける。広場でも大橋でもやったことだ。墓地の隅にある階段に視点に合わせる。おそらくあの上が聖堂街につながる道だ。俺は階段にめがけて一気に走った。階段を登り、扉を見つける。後ろは振り向かない。開けて中に入る、そのまま逃げる。それで終わりだ。

俺は扉までたどり着き手をかけた。開かない、鍵がかかっている。そしてカギはどこにある?という問いに狩人の本能は暴れまわっている怪物と指をさす。最悪だ。

階段にはすでに怪物がいる。さらに通路の奥に進むしかない。壁が見えているが進む方向はそこしかない。壁までたどり着き周りを見やると死体があった。真っ赤なブローチをつけている女性の死体。

少女の母か?生きていてほしかった。最悪な状況に最悪が重なるとは。だが試したいことが思いついた。これが嵐を止める最後の手だ。俺は通路を走る怪物にむけてオルゴールを開いた。

物悲しいメロディが鳴り響く。陰鬱なこの墓地にはよく似合う。こんな状況なのに曲を聴いていると少し心が落ち着く。俺は怪物のほうに目を移した。頭を抱えて苦しんでいる。少女の父だったか、これを聞けば思い出すは本当だったな。

俺は道具入れから火炎瓶を取り出した。獣と化した人間が元に戻ることはない。狩人の本能がそう告げる。こちらに出来るのはせめて娘が醜くなった父を見ないで済むように焼き尽くすことぐらいだ。

怪物にめがけ力の限り投げる。当たるたび大きく燃え上がり、怪物は頭を抱え苦しむ。オルゴールがいまだ頭の中に響いているのか、焼かれてもだえ苦しんでいるのか。どちらかわからないが俺の出来ることは焼き尽くすまで投げ続けることだけ。

三本、四本と次々と投げつける。そして怪物は苦しむのをやめ、こちらにふたたび殺意を向ける。飛び掛かる。だが避けない、投げつける。怪物の飛び掛かりは……届かなかった。それより燃え尽きるのが早かった。怪物は火の中に倒れ、霧のように消えていった。そして扉の鍵だけが残された。

俺は鍵を拾い、女性の死体に向かう。真っ赤なブローチ。これを渡せば少女は何が起きたか理解するだろうな。……俺はブローチを強く握りしめ……砕いた。真相を闇に葬った。


さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます