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夢と希望の25年

俺しかいない平日朝の映画館。子供の喧騒に煩わされることなく、『プリティヒール』25周年映画が見れる。
最初に名シーン集。25年間の思い出がよみがえる。シリーズの基礎と他にない異質さを持つ『初代』。退屈な前半と熱い後半の『MM』。シリーズ分かれ目ともいえる『6』。味方が倍に増え、子供ながらにテコ入れを感じた。そして妹が見るのをやめた。俺たち兄妹にとっても分かれ目だった。

俺は一人見続けた。夢と希望のストーリーを見続けた。だが今俺は一人、妹は結婚して子供もいる。
巡る思い出をよそに本編は進み続ける。怪物を二人で投げ飛ばす派手なアクション、キレのいいダブルキック。映像に引きずり込まれ、頭の中が空になる。

「みんながピンチ!目の前のみんなも応援して!」

恒例の応援タイム。子供しかもらえない応援用ライトが、何故かもらえた。とりあえず思い切り振る。
倒れていたみんなの腕が徐々に伸び、立ち上が……らない。
再び倒れた。見たことない演出に頭をひねった。25周年、一筋縄ではいかないか。そう思ったのだが……

「君だけの応援じゃ、立ち上がれないよ」

倒れたまま映画が終わった。

──

俺しかいない平日朝の映画館。子供の喧騒に煩わされることなく、『プリティヒール』25周年映画を見る。
アレは夢か幻か。もう一度確かめに来た。
前回の通り進む。名シーンから導入、アクション、色々挟んで、問題のシーンへ。

「みんながピンチ!目の前のみんなも応援して!」

ライトを手に取り、本気を出す。

「頑張れ!負けるな!」

とにかく声を張り上げた。そして倒れていたみんなの腕が徐々に伸び、立ち上が……らない。

「君だけの応援じゃ、立ち上がれないよ」

同じ展開。俺ではダメなのか、25年間見続けたのに……俺では……
扉の開く音がした。

「立てぇえ!立って戦ってくれぇ!」

入るなり応援を始めた。

「アナタは一体……?」
「大声が聞こえたからな。応援したくなった」

俺は一緒に応援した。今までにないくらい声を張り上げた。また誰か入ってきた。そいつも応援を始めた。

「頑張れ!」「負けるな!」「立ってくれ!」「お願いだ!」

次々と人が入り、応援を始める。俺も無我夢中で応援する。ライトがまばゆく輝く。
そして倒れていたみんなの腕が徐々に伸び、立ち上が……った。

「みんなありがとう!君は一人じゃないよ。夢と希望を忘れないで」

激闘は終わり、エンディングが流れた。

──

いつものように映画館に通う。今日は隣に座る人がいる。

【終わり】

さぽーとすると映画館にいくかいすうが増えます