雨上がりの追憶part1
澄み切った冷気の中、僕は目を覚ました。
ボーっとした頭をハッキリさせるため、気に入っているコーヒーメーカーをセットする。
そう、半年前に一目惚れで購入したやつだ。
スイッチを入れ、しばらくすると部屋中にコーヒーの良いにおいがしてきた。朝7時、窓の外がまだ薄暗い感じだったので窓を開けてみると、なるほど雨がしとしと降っていた。
雨は元々好きではない。
普段着ているスーツのズボンの裾が濡れるし、全体的に少し湿り気を感じることが嫌なんだ。
だが、幸か不幸か今日は休日。
たまには家でゆっくり過ごすか。
ブラックに黒砂糖をスプーンで2杯。
いつも通り、自分好みのコーヒーを淹れ、ソファーにどっかりくつろぎ、タブレット端末を手に取った。
仕事柄、つい癖で株価ボードをチェックする。
先物チャートを見ていると不意に画面がゆがみだす。
“なんだ???”
何度も画面をタップしたり、再起動もしたが一向に元に戻らない。
“まさかハッキング⁉”
焦る気持ちを抑え、プロバイダ会社のカスタマーセンターへ電話をしようとスマホを手にした時、
“にゃあ゛あ゛あ゛~…”
控え目に言ってもかなりのダミ声が外からかすかに聞こえたような気がした。
“…ネコか?”
たしかにここはマンションの1階だ。ベランダに動物が迷い込んでも不思議じゃない。
ただ、窓を開け、ベランダを見回してもネコの姿はない。
けれど、まだかすかにあのダミ声
“にゃあ゛あ゛あ゛~”
が聞こえる。
まさかと思い、外から回り込んでベランダの下を覗き込んだ。
……いた。
ずんぐりと丸いボディ、黒白茶三色のまだら模様、紛れもなく三毛猫だった。ただ、僕と目が合ったその猫は弱々しく見えた。
このマンションはペット不可だが、こいつは元々飼い猫かもしれない。
取り敢えず家の中に一時的に保護することにした。
〈続く〉
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