だから，独りよがりな言葉は，ただその空間を流れていく。

言ったよね，って思ったり，きっと思われていたり。

ーあのお店，人気なんだって。今度行ってみようよ。
ー荷物を置きたいなら，この駅で降りるといいかも。
ーこんなプログラムがあるんだけど，どうかな？やってみる？

一度は届かなかった言葉たち。ちょっと先の未来を思って，紡いだ言葉たち。
少し時間が経ってから，あの言葉を届けるのは今だったんだなって思う。

ーあのお店，人気らしいよ。知ってた？行ってみる？
ーどこの駅で降りればいいんだっけ？
ーこんなプログラムがあるんだね。やってみたら？

言ったよね，って思う。
だけど，そうは言わない。言ったよねって思ったことでも，まるで初めての言葉かのように対応する。ちょっとモヤモヤするけど，言ったよねって言ったって，いいことはない。言ったよねって思うけど，相手には届いていなかった。だから，言ったよねって言ったって，困るだけ。

ちょっと先の未来を思って紡いだ言葉は，独りよがりだったんだろう。
同じ時間を過ごしていても，何を思っているのかは，人ぞれそれ。
その人のタイミングがある。早ければいいわけでもない。
言ったよね，には，どうして聞いていなかったの，という意味が含まれている。どうして聞いてなかったの，覚えていないほどにどうでもいいと思っていたのね，って。それぞれがそれぞれに生きている世界で，すべての情報を等しく共有することはできない。ある人には大切な情報も，他の人にも等しく大切な情報とは限らない。だから，独りよがりな言葉は，ただその空間を流れていく。

言ったよね，って思うこともあるけれど，
言ったよね，って思われていることもあるだろう。

それぞれの生きている世界を尊重したい。
それぞれのタイミングを大切に，ただ共に歩めばいいのだ。