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対談:三菱地所×中川政七商店が、なぜ学生にセレクトショップ経営を託すのか?《前半:背景編》

アナザー・ジャパン

学生が本気で商売を学び実践する、47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」。2022年8月の第1期店オープンを目指し、学生インターンの募集を開始いたしました。東京駅前という都心の一等地でなぜ、学生に経営を託すのか。プロジェクトを共同で進めてきた三菱地所の谷沢直紀と加藤絵美、中川政七商店会長・13代中川政七が語ります。

(※以降、3人の発言は 谷沢: 加藤: 中川: のように表記。)

三菱地所×中川政七商店の出会い

——今回学生インターンを募集するアナザー・ジャパン第1期店は「TOKYO TORCH」の路面店としてオープンするんですよね。TOKYO TORCHは東京駅周辺で最大となる3.1haの土地に、10年超の歳月をかけて段階的に4棟のビルを建てるという、大規模な開発だと伺いました。

谷沢:

はい、TOKYO TORCHは2007年から「日本を明るく、元気にする」というビジョンを掲げて、東京と地方をつなげる機能を意識して開発が始まっています。東京駅前という日本全国から人が集まる場所で、東京と地方が一緒に元気になっていくような場所づくりを目指してきました。

例えば今年6月に先行して開業したエリアでは、各都道府県の産品に触れられるレストランやカフェがオープンしたり、屋外の広場では定期的に地域の魅力に触れられるマルシェも開催しています。現時点で24の都道府県と、何らかの協業が実現できている状態です。

こうした「知ってもらう」機能をはたしながら、いよいよ2027年度には8000坪に200店舗が入る大型商業ゾーンがオープンします。この開業に向けて、より深く、長く地域に関与できる新しい施設のあり方はないだろうか?と、プロジェクトメンバーの加藤とともにずっと模索してきました。

もうひとつ、2007年に始まって2027年に完全開業するという長期的なプロジェクトなので、これからを担う若い世代と一緒に、未来の街をつくるような取り組みにしたいという思いも当初から持っていました。

アナザー・ジャパンは「私たちがつくる、もうひとつの日本」をコンセプトに、学生さんが本気で商売を学び実践する、47都道府県地域産品セレクトショップです。まさに若い世代が主体(私たち)となって、東京と地方を一緒に元気にする、TOKYO TORCHの核となる取り組みだと思っています。

加藤:

今、商業施設のあり方は単に買う、食事するといった場所から大きく変わってきていると思います。東京駅前の商業施設というと、三菱地所では丸ビル、新丸ビルの他、日本郵政様からのお仕事でKITTEのリーシングをしたりと、数々の商業施設開業に携わっているのですが、ここで培ったノウハウも生かしつつ、従来の発想を越えていく新しい商業施設のかたちを示せないかなとずっと思っていました。TOKYO TORCHでしかできない、「日本を明るく、元気にする」というビジョンにあった体験ができる場所にしたいなと。そこで、企画を考える中で「日本の工芸を元気にする!」を掲げてこられた中川会長のお顔が浮かんだんです。

中川:

実は加藤さんは中川政七商店がKITTEに東京本店(下図)をオープンした時に、うちの店舗担当をされていたんですよね。奈良本社にもきてくださって。

加藤:

当時は駆け出しの新人でしたね (笑) 。十年越しにこうしてまたご一緒できて感慨深いです。何より、こちらがまだ大まかなプランだけを持ってTOKYO TORCHのご相談に伺った際に、中川さんが現在のアナザー・ジャパンに通じる「学生が経営する地域産品セレクトショップ」の構想をすでにお持ちで、本当に驚きました。その場で、絶対にいいと思います、すぐに社内で検討しますとお返事したのが今年の年明け頃です。

やるからには真剣勝負の学びの場


——学生経営×地方創生という構想が、最初の相談の時にすでに立ち上がっていたんですね。学生に経営を任せるというのは、どんなところから生まれたアイデアだったのでしょうか?

中川:

最近、地元の奈良女子大学で特任教授としてゼミを持たせてもらっていて、今の学生さんたちの優秀さを肌で感じていました。一方で会社全体でも、これまで培ってきた工芸メーカーへの経営コンサルティングのノウハウを生かして教育事業に取り組んでいる最中です。若い世代に「学び」の場ををもっと提供できたら面白いのではないかと考えていたところでした。

いわゆる「産学連携」の取り組みはこれまでも世の中にあったと思います。ただ従来の教育とアナザー・ジャパンが大きく違うのは、「失敗もありうる」ということです。企業側が敷いたレールの上で、ある程度着地点の見えている企画を学生さんに任せても、学びは浅い。

でもアナザー・ジャパンでは、中川政七商店の研修を受けてもらった後は、早速商品の買い付けから販売まで一切を学生さんに切り盛りしてもらいます。買い付けする品や量やタイミングを間違えば、売り上げに即影響します。そうした「失敗」の可能性も含めて、常に真剣勝負の中で得られる経験の方が学びは大きいはずですし、社会に出てからも生きるはずです。

やるからには真剣勝負の場にしたいと、単に売り子として学生さんがお店に立つのでなく、本当に経営をしてもらうという構想を、三菱地所さんにお伝えしました。

都心の一等地だからこそ託したいもの

——アナザー・ジャパンの第1期店は約40坪、第2期店は約400坪という超大型店でオープン予定ですね。都心の一等地、TOKYO TORCHの顔となるお店で失敗のリスクも込みで経営を学生さんに任せるというのは、大きな決断だったのでは。

谷沢:

今も、ものすごい緊張感です(笑) 。ですが、最初にこのアイデアを聞いたとき、まさに私たちが求めていた、従来の地域との出会い方・関わり方からステージをグッと引き上げる取り組みになると確信しました。

アナザー・ジャパン第1期店では、日本全国を6ブロックに分けて、1年を通し2か月単位で特集地域を切り替えていきます。第2期店では400坪という広大な店舗の中に、47都道府県別のブースが登場します。どちらも、その地域出身の学生さんが自ら地元に買い付けに赴き、販売計画を考えて売り場をつくってもらいます。

地域創生や関係人口という話は以前から取り上げられてきましたが、こんな風に地方から都市に出てきた若者が地元のことを改めて知ったり、地域のためにアクションを起こせる舞台って今まであまり用意されてこなかったように思うんです。

中川:

そうですね。学生さんが自分の地元と関われる舞台を用意することは、単に行き来するだけでない、息の長い関係人口をつくっていくことにもつながるはずです。アナザー・ジャパンのインターン期間は基本的に1年ですが、任期を終えて卒業した子たちが社会人になった時に、何かのきっかけでまた地元の会社さんに関わったり、地元に戻って起業や就職をしたりするきっかけになるかもしれません。

このプロジェクトのゴールは2027年度の47都道府県を網羅した400坪店オープンではなく、学生時代にアナザー・ジャパンで働いてたんですよという人たちが、将来地元に何らかの関わりを持ちながら活躍してくれることなんじゃないかなと思っています。

加藤:

これってお店を訪れるお客さん側の行動の変化にもつながりますよね。卒業生が、OB・OGとして自分の出身地のお店を応援するような気持ちで訪れたり、一般のお客さんも、やっぱり他の地域よりは、自分の出身地のお店に愛着が湧いたり。自分とお店との情緒的なつながりが生まれてくるんじゃないかなと。

私たち三菱地所としても、まさに生み出したかった新しい商業施設の価値が、ここから提案できるのではないかと感じています。

谷沢:

学生さんにとっては、学びが即実践できる場。自分の地元と関われる、背負える場。中川さんや三菱地所にとっては、ビジョンの実現につながる場。地域にとっては、PR拠点かつ、新たな関係人口の循環が生まれるかもしれない場。短期的には売り上げのいい・悪いは幅があるかもしれませんが、長い目で見たときにこのお店が持つ可能性は、とても大きいと思います。

これを東京駅という、日本各地と連携の糸を結ぶべき場所でやるということにも、大きな意義がありますね。リスクを取ってこういう取り組みをやった先にこそ、TOKYO TORCHがめざす「日本を明るく、元気にする」道が本当の意味で開けていくのではないかなと期待しています。

中川:

こういうリスクもある計画って、止める理由はいくらでもあると思うんです。でも何故これだけ思い切ったプロジェクトが今日までちゃんと進捗しているかというと、三菱地所さんも私たち中川政七商店も、信じているんだと思います。日本の未来を信じているし、それを担う学生さんたちを信じている。そうじゃなかったらこれはようやらん話だと思います。

このプロジェクトの実現はそのまま、私たちが日本の未来を信じているというメッセージです。一緒に未来をつくってくれる学生さんが「我こそは」と手を挙げてくれるのを楽しみにしています。

では「我こそは」と手を挙げた先に、お店ではどんな体験が待っているのか。後編では具体的なインターンの内容に迫ります。

取材・執筆=尾島可奈子

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