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あの時の話ね

UFOを見た時の話。

オカルトとか宗教とか、個人的には何だかんだ好き。暗闇や静寂は何ともないけど(むしろ好き)、笑わない赤ん坊と夢に出てくるあの景色だけは苦手。あと熱い飲み物。

偶然入った高円寺の駅前喫茶店が思ったよりも高くて、くそー失敗したわと思いながら珈琲飲んでたら隣にリッチなご夫妻が座って、無口そうな白髪混じりが「貰ったおしぼり、そんな直ぐ使うもんじゃないよ」と呟いた。
その斜め左後ろには、若いカップルが座っていて、男が住んでいるのは鷺ノ宮じゃなくてギリ高円寺だと言う理由で口論。恐らくギリ鷺ノ宮。
目の前に座る薄シャツおじは絶対にコメディー映画か何かをスマホで観ていて、たまにニヤッとしてはさりげなく左手で口元を隠す。その内吹き出して膝の横に置いてある珈琲を溢してしまわないか、勝手にハラハラする。

目の前に広がる景色があまりにも日曜過ぎて、ここからどうやってUFOの話をすれば良いのやら。ちなみにBGMはジャズ。ベトナム人の女性店員が微笑みながら「ごゆっくりどうぞ。」どう返せば良いのか分からず、毎回ペコリとお辞儀している。「あ、どうもゆっくりさせて頂きますね」は言えそうにない。

目を瞑って下さい。君たちの中にUFOはありますか?SFばかり見あさってみたり、本を読んで空想に耽ってみたり、そんなこんなでUFOの形をあやふやながらもぼんやり思い浮かべる事は出来るんじゃないかな。て言うかそんなことより、もっと簡単、試しにスマホでUFOって打ってみて欲しい。AIが勝手にUFOのスタンプを出してくる。
つまらない。正解があるわけでもないのに。

まだ背中のランドセルが大きくて、右にかけてある給食袋を振り回しながら、徒歩30分かけて小学校に通っていた頃。氷鬼とか色鬼とか、自分たちが思いつく限りの鬼ごっこを毎日考案しては実行していた。仲良し4人で登下校していたが、学校が近づくにつれて鬼ごっこに加わる人が増えて、最後は誰が鬼なのか分からずに我武者羅に駆け回るのがお決まり。あの時私たちは一体何から逃げていたのだろう。

肌寒い日だっただろうか、暑すぎる日だっただろうか。清々しい程何も覚えていないのだけど。ただ、あの時の気持ちと恐ろしいほどにゆっくり流れる時間の感覚だけは脳裏に焼き付いて離れてくれない。
小学校近くに二つの階段があって、四段階段と、六段階段。十二段が一ブロックとなり、それが四つ続いているのが、四段階段(ちなみにこれは公園のすぐ近くにあり、下校時に知り合いがいないかドキドキしながら通った)一ブロックが六つ続いているのが六段階段(これは桜の樹が下に生えてて、花粉症には酷だね)(何の話やねん)

あの時、何故か走っていた。背中のランドセルが上下にバコバコ揺れているのを微かに感じながら。鬼ごっこでもしていたのか。逃げている感じも追っている感じもなかった。六段階段のてっぺん。真っ青な空に小さな雲がぽつらぽつら浮遊している。風はなく、小さな足音が重なり合う住宅地の端っこ。一人。走りながらチラッと空を見上げる。
そこに、それはあった。確かにあった。

どんな形だった、どんな大きさだった、どうせ嘘だろって笑うか。

これだけは伝えておきたい。全然UFOじゃなかった。思い描いていた形じゃなかった。全然違った。
なのに、咄嗟にUFOだと信じた。どうしてなのか、いまだに分からない。でも私にはそれがUFO以外の何者でもないような気がしてならなかった。







真っ青な空に「ほ」が浮かんでいた。





「ほ」





平仮名の。



大きさは、空を飛ぶ飛行機よりもずっと小さくて、飛行船みたいに赤や黄色の光が点滅する事もなく、雲のように白いが、どちらかと言うと飛行機の色に近い。風に靡く雲たちに紛れて、一つだけ不規則な揺れ方をしていた。(雲なら風の向きに合わせて一定に動くが、左右に浮遊するような動き方をしていた)

形は、「ほ」

少なくとも私は、あれを「ほ」以外の何かと仮定することは出来ない。

この話ね、そりゃ驚いた。手当たり次第に話してみたけどね。友達、先生、家族。

でも誰も信じてくれない。それはそうか、ふざけてるだろって思うもんね。


UFOを見た、だけでも疑い深いのに、その形が「ほ」だって。

自分でも呆れます。

でも真っ青な空にふわりと浮かぶ「ほ」が、今でもくっきり思い出せる。

誰も信じてくれなくても良いけど、私だけの景色として、ここに、こっそり残しておこう。こっそり、ひっそりね。






誰か、「ほ」を見た同士がいたら、こっそり教えてね。











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