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寝れないきみらのきもち

「愛してる」が言いたい。今から言いたい。急に電話で、誰かに言いたい。誰でも良いから、ただ伝えたい。

全部忘れるからそれだけ言いたい、胸の高鳴りに任せたい。あゝ愛してるって言いながら、薄っぺらい一生を誰かと誓いたい。どうしても伝えたくてって笑って、突然ごめんって逃げたい。そんな筈ないのに赤面しながら、名前も知らない誰かに突然、愛してるって伝えてみたい。あの日あの時僕等だけの魔法の言葉を使いたい。

別に禁止なんてされてないからいつでも使って良いけどね。使えないってのも変な話で。忘れてしまった街で見かけた小さな猫の走り方みたいな「愛してる」だけ伝えたい。眠そうな声で囁きたい。知らない誰かと落ちてみたい。だって暇だし恋したい。

だけど、誰でも良いわけないから。言い訳効かない、君だけのお願い。愛してるだけは絶対に言えない。殺す。そういう気持ちによく似てる。
だから愛は君だけの、憎しみで哀しみで喜びで苦しみで叫び。どこまで行ってもピントが合わないお前だけの夢。途中下車が無い柔らかな猫バス。10年前から変わらない神奈川中央交通のアナウンス。知らないでしょ。知らなくて良いんだよ。それでも知りたくなってしまうのが、きっと愛。どうしようもなく考えてしまうのが、愛。そうか、そうなのか、納得できない、納得なんてしたくない、うるさい、だまれ、それが愛。

うるさいくらいが愛。きっと愛、多分愛、そのくらいの愛。そのぐらいが愛。はいはい、愛。ふーんそんなもんか愛。そんなもんかよ、愛。愛なんて、何でもない。何でもないよ、ごめんね。何でもないけど、愛してる。そうやってユラユラ伝えたかった。無償の愛を差し出したかった。気分が良くなった日の夜に後輩に奢るとかさ、そんな感じで愛してるをあげたい。別に誰でも良いやって彷徨いたい。

いつでも僕らはそうありたかった。思考を辞めて至高なる動物になりたかった。だけど我儘な心はそうはいかない。本当は照れながら歯に噛む君に小さな声で僕の愛を、雑っぽくあげたい。誰にでも言ってますよみたいな顔して、わざとらしく笑いたい。そうやって逃げていたい。いつまでも揺れていたい。不安になるから安心は要らない。不幸になるから幸せは要らない。一人になるから、二人は要らない。数多の嘘に本音を混ぜて、今日も冗談を吐いていたい。君だけに合図を送りたい。星を騙したのは僕だったらしい。今日も何も言わずに過ぎ去っていくあの道へ。湖は、意外と暖かいものだよ。今日も、おやすみ。


追伸
道だけの道って存在しないのでは?道って道以外の要素が含まれて初めてその存在を見出すものなのではないのだろうか。それって、あまりにも人間すぎるね。

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