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匿名で寄せられた不可思議な実録『親友②』

私はこれまでの2ヶ月を振り返る。

入学式の次の日の朝教室に入ると、あみが既に着席していた。しかし、その見た目は前の日とは打って変わっていた。長かった髪は肩の高さまでに切られていた。その髪型は、私のそれとそっくりだった。
「あみ、その髪型、どうしたの?」
「え、めぐみちゃんと同じにしたの。かわいいでしょ。」
嬉しそうに話すあみの目は、キラキラと輝いていた。知り合って1日しかたっていない人と髪型をおそろいにするのは、やりすぎな気がして思わず言葉をつまらせた。
「だって私たち、親友じゃん。」
当然かのように、あみは続ける。私がこれまで、親友という親友ができたことがないから分からないだけで、案外あみの行動は普通なのかもしれない。そう思わせるほど、あみの愛嬌には説得力があった。可愛くて明るいあみは、きっと前に住んでいた場所でも人気者だったのだろう。実際、入学1日で同じ髪型になった私たちを蔑みの目で見ているクラスメイトはいなかった。
それよりも目についたのは、あみの首に下げられている金色のネックレスだった。前の日にはそんなものは身につけていなかった。チェーンのところどころに、10個ほど画鋲くらいの大きさの球体がついている珍しい形のネックレスだった。
「めぐみちゃん、これ気になるの?これね、実は開けれるんだよ。」
そういうと、あみは球体の1つを細い指で器用に開けてみせた。物をしまうのにも容積が小さすぎて、この球体を開けることができる仕組みの意味を見出すことはできなかった。
「これ、小さいころお母さんにもらったんだ。本当に大事なものを、この中にしまっておくようにって言われたんだ。でも、これじゃ何も入れられないよね。」
あみは肩をすくめて、おどけたような表情を見せる。
「あみはさ、もう何かしまってるの?これに。」
「んー、ひみつー。」

その日の放課後、私たちは部活動見学のため、校舎を一緒に回った。私は転勤前から、高校でも中学でも所属していた美術部に入部する予定だったので、迷わず美術室へと向かった。
私は美術部の先輩や顧問の先生から部活紹介を受けるやいなや、美術部に入部届けを提出した。美術以外私にできることなんてないことは直感で分かっていた。
すると、私の入部届けの横にもう一枚入部届けが並んだ。あみのものだ。
「私も美術部に入部する。めぐみちゃんと同じがいい。」
「え、あみ。自分の部活だよ。ちゃんと考えなくていいの?」
「うん。私、小学校、中学校でさ、部活をコロコロ変えてて。だから、今までやってきた何
の部活にも思い入れがないの。だったら親友と同じがいいじゃん?」
確かにあみは、いろいろな部活を卒なく器用にこなせそうな感じがする。ただ、いくら何でも部活を親友なんかを理由に決めて本当に良いのか心配になった。ただ、あみが常に近くにいてくれると思うと、悪い気がしなかった。

それからというものの、あみは何事も私とおそろいにしてきた。委員会、運動会で出る種目、弁当箱のセット、シャンプー、筆箱......。私の家は裕福ではなく、日用品はすべて引っ越した後、近所の雑貨店で買い揃えたからだろうか。あみは、私の持ち物を見ると、次の日には同じ雑貨店で同じものを購入し、学校に持ってきていた。その度に、「私たち親友だね。」と言い喜んでいた。はじめのうちは私も友達とおそろいで嬉しかった。そして、私もあみと同じ文房具をすすんで買うこともあった(もちろん、あの高価そうなネックレスは真似できるわけはない)。しかし私は、徐々に「親友」という言葉の効力に違和感を覚えていった。親友なら何もかも一緒でなければいけないのか。しかし、私にはあみ以外に友達と呼べるクラスメイトはおらず、あみとの日々は楽しかったため、このことについてあみに言うことはなかった。

こうして、高校最初の1ヶ月はあっという間にすぎた。思えば、あみ以外のクラスメイトとはプライベートで口をきくことはなかった。また、あみも最初の頃こそは、その美貌を目当てに男子生徒も含む多くのクラスメイトに声をかけられていたが、あみは私以外とはあまり親しくしようとしなかったため、いつの間にか誰からも話しかけられることはなくなった。
あみが、クラスの中心になるチャンスを捨ててまで、私を親友として大事にしてくれていることを日々感じ、ささやかな幸せを感じていた。

5月の半ば、高校生活最初の席替えが行われた。くじ引きの結果私は、残念ながらあみとは席がかなり離れてしまった。しかしその代わり、富士田くんという男子と隣の席になった。富士田亮介くん。彼はクラスのまとめ役であり、サッカー部の1年生の中では存在感を放っていた。彼とは直接話したことはなかったが、この1ヶ月で、密かに彼のことが気になっていた。
「中島さん、知ってると思うけど、俺、富士田。よろしく。」
いつも陽気な富士田くんだが、私への挨拶はどこかたどたどしかった。やっぱり、私みたいな目立たない女子とは、どう話せば良いか困るよねと内心思いつつも、富士田くんと会話に緊張している自分がいた。もしかして私は思ったよりも単純な性格なのかもしれない。あみにも簡単に心を開いたり、全く話したことがなかった男子をすぐに異性として見てしまったり。しかし、転勤してきて学校に馴染むことができるか不安だったころを思えば、あみという親友もできて、好きな人?もできて、私はそれなりに充実した高校生活を送れていることも事実である。引っ込み思案だった私が、高校生活を通してどんどん変わっていくことが快感だった。
「私、中島めぐみ。よろしくね。」

「何あいつ、富士田と隣になってイキってる。マジむかつく。」
自己紹介をしあうめぐみと富士田を見て、1人の女子生徒が憤慨した。その様子を見て、取り巻きの他の女子生徒が見て、笑い合っている。
「なつきに目つけられたってことは、あいつ終わったね。」
取り巻きの1人が、なつきと呼ばれた女子生徒に囁く。

その様子を、あみは遠くから光が点っていない目で、まるでゴミを見るかのように見ていた。

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