KERA CROSS 5「骨と軽蔑」
久々のKERAさん
KERA CROSSは久々で「グッド・バイ」以来だと思う。場所は同じシアタークリエでした。ケラさん自体も「砂の女」から間が空いている気がする。チケット確保やらなにやら以前ほど熱心に追えていない気がして、テンション下がり気味なのはいけないですね、反省。
今回はとにかく配役が豪華で、どんな話になるのかが楽しみで、休みの日を調整して、土曜のマチネを確保できました。良かったです。
あらすじ
東西に別れて内戦が行われているある国の話。
その家は軍需産業の会社を経営する家で、主人が余命幾ばくもない。その妻グルカはないがしろにされて、夫と秘書ソフィーの不貞を疑っている。長女マーゴは夫が徴兵を拒否して失踪していて、マーゴは編集者ミロンガとともに執筆作業に勤しむ作家。次女ドミーは姉の夫に恋をしている。その家にいる家政婦ネネはお喋りが好きだが、働き者。そこにマーゴの作品の熱心なファンで文通をしているナッツがやってくる。ナッツが来たことでこの家の中での出来事がどんどん動いていくが、その流れは実はこの家の庭にいる「虫」がその運命を握っていた。「一寸の虫にも五分の魂」という言葉がそのまま彼らの運命を握り、翻弄されていく。
不条理劇としての面白さ
この一家の運命を悪意なく翻弄するのがナッツ(小池栄子)です。彼女は疾走したマーゴの夫を装ってマーゴに77通の手紙を書きます。しかしその手紙は全てドミーが隠し持っています。こっそりと読んでいるからです。そしてネネも同様。この手紙のエピソードは「人の優しさのつもりと、嫉妬」というわかりやすい構図から生まれています。マーゴに元気になってほしい、マーゴには早く忘れてほしい、どっちであれナッツのしたことは優しさのつもりではあるが、結果当人たちを深く傷つける行為でもあった。しかしこのことが互いに張り合ったり嫉妬が生まれる二人の姉妹の絆を生むことにもなるので、他者の無邪気さがもたらした功罪と言える。
そして虫が二度、この家の運命を翻弄する。一度はこの家の繁栄をもたらすこと、もう一つはその繁栄を少しずつ壊していくこと。ナッツの行為も虫の狙いも、どちらもこの家族は望んでいる話ではない。すべて周りが勝手に動かしている話。しかしもしかしたら世界も家族も、そんなことから変わるのかもしれない。そして動き出したら止まらなくなる。誰の力でも無理で、信頼する秘書が徴兵される、信頼する編集者から見放される、失踪した夫が実は内戦の敵方の出身であること、そして今この家が家族が崩壊する瞬間を知ること、、、、、全てが崩れていくことも不条理なはじまり。
そんな変遷を奇妙な会話と共に見せてくれる作品でした。
素敵な配役陣
個人的には鈴木杏さんに注目していました。ケラさんの作品で特に「修道女たち」がものすごく印象的。さらに「真夏の恋の夢」もチャーミングで、もはや演劇界でど真ん中のポジションの女優さん。今回も姉の夫に恋愛感情を抱く妹ドミーという難しくも、そしてチャーミングな役どころを演じてくれていて、宮沢りえさんの姉マーゴとの「どっちが先?」問答はとても楽しいやり取りだし、同時にそのやり場のない感情の見せ方として本当に上手いなあと感じました。
水川あさみさんのソフィーも良かったですね。病気療養中の社長に付き添う秘書という、やや家族からは嫌われているポジションの前半。社長が亡くなる時の遺言で、良い思いができるかと思いきや、虫の仕業でよもやの展開。しかしそのあと社長の妻グルカとうまく折り合って、会社の発展に寄与する。しかし最後は、、、、と翻弄される一人ですが非常にクールな感じで演じてくれています。水川さんは声があまり舞台向きではないかな?と思ったりはするのですが、実際立ち姿も凛々しい方なので、舞台映えする俳優さんだなあと感じます。
他の俳優さんは言わずもがなですが、個人的にはこのお二人が印象深かったです。
割とストレートな作風
ケラさんってもっと、複雑に作る時もあると思うんですが、今回の作品って思った以上にどストレートというか、原因と結果が明白な作りにしていたなあと思いました。
ちょっと意外です。
でも観客もそういう部分は入り込みやすいというか、作品世界における家を取り巻く空気感だったり、人物模様の部分が、より伝わりやすい流れだったと感じました。
不条理というか運命への翻弄というか、虫の気持ち一つで変わってしまうという無茶な設定でも、なぜか納得できてしまうことだったり、そして一瞬にして世界は変わっていくことだったり、そういう人を取り巻く世界が変わっていく様を、このマーゴの家族を通じて俯瞰できたことは、非常に楽しい体験でした。
あえていうなら、人の業みたいなものがあまり無かったなあ、、、とも感じました。あるとするなら前半のソフィーくらいですが、あれも業というよりは欲ですか。ドミーの嫉妬の方が業に近いですかね。一番人らしい感じなのは結局はネネでしたが。
個人的には配役含めて、非常に魅力的でしたし、作品としてまとまりもはっきりしていて、とても楽しい二時間半でした。